第8話 日曜日に水島さんと


 俺は橋本さんと別れた後、ちょっと言い過ぎたかなと思った。でもなんで彼女がそこまで聞いてくるのか分からない。


 彼女とは体育祭の時、一緒に二人三脚をした。その辺から話をする様になって、そしてその後誘われて放課後図書室で一緒に勉強するようになったけど、それだけの関係。スマホの連絡先は仕方なく教えたけど、本当は教えたくなかった。


 あの子は色々と俺に体をくっ付けてきたり胸元を見せて来るけど、その目的も分からない。普通は自分の肌は極力見せないようにするのが本当なんじゃないか。



 そういう意味では水島さんは、決して俺のプライベート空間には入ってこないし、俺も入るつもりはない。だからその一線を越えない水島さんの方が橋本さんと話しているより気を使わなくて済む。


 明日は水島さんが会ってくれと言っている。日曜日空いているから俺を出しに使って暇つぶしでもするつもりなんだろう。それなら俺も気楽でいい。




 翌朝、午前十時に待ち合わせ場所のアウトレットのある駅で待ち合わせをした。俺のマンションの有る駅から実家方向へ十一駅ある。彼女の駅からでも八駅ある。ちょっと遠いけど乗り換えがないし、時間も読めるから問題ない。



 駅の改札で待っているとちょっと大人びた感じの水島さんがホームからのエスカレータを上がり改札にやって来た。肩までの少し縦カールの掛かった黒髪。目は大きくて鼻もすっきりとして可愛い唇をしている。輪郭はいわゆる逆卵型。可愛い女の子の典型だ。


 白色の半袖ブラウスに少しタイトな茶の膝上スカート。紐付きの黒い可愛いシューズを履いて、肩から薄緑色のバッグをぶら下げている。唇の赤いリップが可愛さを引き立たせている感じだ。




「工藤君、待った?」

「来てからまだ十分位。待っていないよ」

「ふふっ、そっかぁ。ありがとう」

 うん?意味分からない。俺可笑しなこと言ったか。


「工藤君、今日は会ってくれてありがとう。待合せ場所はここにしたけど良かったかな?」

「うん、ここで待合せた意味は分からないけど、水島さんがここで待合せたいって言うからここでいいよ」


 ふふっ、工藤君、多分彼女とあまりデートした事ない感じ。私の問いかけの意味が全然分かっていない。返って嬉しくなる。今日は彼との時間をたっぷり楽しむんだ。


「あのね。このアウトレットのお店を見てお洋服買いたいんだ。その後、レストランで食事をして、少しお話しできればと思っている。良いかな?」

「うん、全然構わないよ」

 俺なんかよりもっとお似合いの人がいるんだと思うけど。俺で良いのかな。

 


 ここのアウトレットはこの辺では結構大型のアウトレットだ。駅からシャトルバスで十五分。道は空いていたから直ぐに着いた。



「工藤君、ここに来た事ある?」

「全然ない。いつも洋服なんかの買い物は都心のデパートに行く」

「えっ?」

「あっ、気にしないで。親からそうしろと言われているだけだから。こういう所新鮮でいい」

 工藤君のご両親って、何しているんだろう。でも聞いちゃだめだよね。彼の事情もあるんだろうから。


「そっかあ、私も家の近くの〇〇クロとか偶に都心のデパートって言うかPBショップに行く。ここは、ちょっとデート…。あははっ、ちょっと友達と一緒に来るには良いかなと思って」

「そうだね。俺も楽しみにしている」

 水島さん、なんか言っていたな。途中聞き取れなかったけど。



 その後、水島さんは、いくつものお店を見て回った。女性用品だけでなく男性用品も結構売っていて、一緒にお店に入っても抵抗が無かった。


 一時間位見て回った後、

「工藤君、少し休まない?」

「いいよ」


 近くのコーヒーショップで二人でミルクアイスティを頼むと

「お店が多すぎてどれが良いか迷ちゃう」

「水島さんは可愛いからどれ選んでも似合うと思うよ」

「えっ、か、可愛い?」

 あれ、水島さん顔を赤くしている。俺なんか言ったっけ?


「工藤君って、女の子にはいつもそんな事言うの?」

「いつもって。こういう風に女の子と一緒に居るのって高校入ってからは水島さん位だよ」

「そ、そうかあ」

 何故か嬉しそうな顔をしている。


「ねえ、今まで見たお店で一番似合いそうな洋服あったかな?」

「ごめん、そこまで覚えていない。全部似合った感じがしていた」

「うーん、じゃあ、私が気に入ったお店に戻って、見てくれるかな?」

「いいよ」



 三十分位休んだ後、水島さんの気になるお店に行くと彼女は目星の付けていた洋服を二着ほど取ると

「ねえ、試着してみるから、一緒に来て」

「えっ?」

「いいから」


 売り場に一人で居る訳にもいかず、試着室の前まで来ると

「着替えるからちょっと待っていてね」


 カーテンが閉まるとその向こうで衣擦れの音がする。ちょっと変な妄想が浮かびそうになったのでカーテンとは違う方向を見ているといきなりカーテンが開いた。


「どうかな?」

 淡い黄色のノースリーブのシャツに薄茶のキュロットスカート。とっても夏っぽい。


「うん、とても似合っている」

「じゃあ、もう一着来て見るね」


 カーテンが閉められるとまた衣擦れの音が。いかん妄想しそうだ。やはりカーテンとは違う方向を見ていると俺達と同じくらいの男女が隣の試着室に来た。こちらも似たようなシチュエーションになっている。彼もカーテンが閉まったあと別の方向を見ていた。

 またいきなりカーテンが開くと


「こっちはどうかな?」

 水色の肩にフレアの付いたノースリーブのシャツに薄茶のホットパンツ。真っ白な太腿が眩しい。


「と、とっても似合っているよ」

「さっきとどっちが良いかな?」

「うーん、二つとも良く似合っているよ」

「決めて!」

「じゃあ、さっきのが良いかな」

「分かった」


 またカーテンが閉まった。本当はホットパンツの方が良かったんだけど、眩しすぎて他の男の人に水島さんの太腿や足を見られるのが嫌な気がしてキュロットスカートを選んでしまった。


 元の洋服に戻った水島さんが試着室から出てくると

「これ会計してくるから」

「分かった」

 

 ふふっ、工藤君、二着目のホットパンツをはいた時、私の太腿に見入っていた。この手ありかな。

でも彼は別の方が良いと言ってくれた。多分…そうなのかもしれない。優しいな工藤君って。



 水島さんの会計が終わると

「工藤君、もう十二時過ぎたね。お昼食べようか?」

「そうだね。朝も早かったし、少しお腹が空いた」

「ふふっ、私も」


いくつかレストランが有るけど、俺達は〇ックのように簡単に食べれるお店に入った。


「うわーっ、混んでるなあ」

「仕方ないよ。この時間だもの。私席見つけておくから工藤君買って来てくれる?」

「うん、いいよ」

「じゃあ、私はてりやきチキンと〇ックシェイクのセット。お金は後で渡すね」

「了解」


 俺は、カウンタの列に並びながら彼女の後ろ姿を追った。何処に座るか見ておかないといけないから。ちょっと遠いけど席を見つけたようだ。こっちを見て手を振っている。その姿が結構可愛かった。



 十五分程並んでやっと買えると彼女の待つ席に行った。じっとこっちを見ている。


「お待ち同様、随分並んじゃった」

「しかないよ。それより食べよ。お腹空いた」

「うん」


 彼は、ビッグ〇ックとベーコンポテト〇〇、それにコークLのセットだ。流石高校生男子。


 お腹が空いていた所為か、二人共はじめ無口で食べ進むと三分の二位食べた所で水島さんが聞いて来た。


「工藤君って、普段、日曜日って何しているの?」

「うーん、ゆっくり起きて部屋の掃除したり洗濯したりかな?」

「あれ、家族は?…あっ、ごめん良くないねこんな事聞くの」

「構わないよ。ちょっと事情が有って一人暮らししている。別に家族と仲が悪いとかじゃなくて。家族行事が有れば帰るし、年末年始も帰る予定だよ」


「そうなんだ。じゃあ、食事も自分で作るの?」

「一人だからね。でもいい加減にしている。休みの日はチャーハンとか作るけど、いつもはカロリーメイトとかカップ麺とかかな」

「えっ、それじゃあ体に悪いじゃない」


 本当はここで私が作ってあげるなんて言いたいけど、ちょっと無理有るし。でも何とかしてあげたいな。聞いてみようかな。



「ねえ、もし、もしもだよ。君が良いって言うなら、毎週は厳しいけど偶にご飯作りに行ってあげようか。こう見えても料理出来るんんだ」

「あははっ、嬉しいけど気持ちだけ貰っておくよ。まあ機会でもあったらね」

「そ、そうだよね」

 でも機会が有ればいいのか。


「工藤君、夏休みは…」

「おっ、里奈じゃねえか。久しぶりだな」

「えっ?!」


 私は聞きたくない声の方向を見た。今一番会いたくない男がそこに立っていた。


―――――


書き始めのエネルギーはやはり★★★さんです。ぜひ頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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