第7話 橋本心菜は考える


 私、橋本心菜。私の家はごく普通のサラリーマン家庭。私には妹がいる。妹はまだ中学生。お父さんは中堅商社の課長、お母さんは、妹が中学に入った時に時間が有るからとパートに出る様になった。


 私は、中学二年の時、同じ中学の田中耕三という男の子が好きになった。でもその人は、別に好きな人がいたけど、彼が彼女に振られてから、私と付き合う様になった。でも恋人同士じゃない。半セフレって感じ。


 そして彼は、別の高校に行った。家の事情で公立高校を選んだ。この私立松ヶ丘高校から比べると偏差値も低いところ。

 もう別れようと思っている。だって私、素敵は男の子を見つけたから。その子の名前は工藤祐樹君。


 でも今危機感を持っている。工藤君と図書室で勉強をして一週間。まさか水島さんが一緒に勉強するとは思ってもみなかった。

 この失敗の原因は、私が体育祭の翌月曜日に工藤君と一緒に図書室で勉強すると皆の前で言ってしまったから。


 緑川さんと門倉さんは部活が有るから参加できないけど水島さんは帰宅部だという事を忘れていた。

 放課後の図書室での勉強会が始まった時こそ彼女は工藤君と一線を隔していたけど、最近は良く話をする。駅までの帰り道なんか私より全然工藤君と話している。


 これは図書室での勉強が終わった後、駅からは二駅とはいえ二人きりでいるからだ。何とかしないと水島さんに工藤君を持って行かれる。

 一度三人での勉強会を止めればと思ったけど、でも水島さんが工藤君と一緒にやると言ったら彼は断らないだろう。そうすると益々私が工藤君から離れていく。


 今も図書室での勉強会が終わって駅に三人で向っているところ。最初の頃は私と工藤君が話をしていたのに最近は水島さんが積極的に彼に話しかけている。


 そして改札で別れた後は、工藤君と水島さんだけ。今も楽しそうに二人で話をしている。


 再来週末からは一学期末考査が始まる。そうだ、それを利用して日曜日二人で勉強会をすればいいんだ。そしてその時に…。

 うーん、無理かなぁ。彼奥手っぽいし。でも何とか二人きりで会う事が出来れば、巻き返す事が出来る。




 橋本さんが改札に入ると私達と別のホームに行った。私は工藤君と二人きり。もう一週間以上、毎日二人で話をする時間を持てている。


 でも彼はとても紳士的で絶対に私のプライベートには踏込んで来ない。だから私も彼のプライベートに踏み込めない。


 でもこのままでは一学期末考査が終わって夏休みに入ったら、今の努力も何も無かったかのように忘れ去られてしまう。だからちょっとだけ積極的に出る事にした。


「ねえ、工藤君。今度の日曜日、何か用事入っている?」

「今度の日曜日。何も入っていないけど」

「じゃあ、じゃあさ。二人で会わない。こうして毎日勉強しているんだから休みも必要と思うの」

「…………」


 水島さん、どういう意味で日曜に会いたいなんて言って来たんだろう?彼女とは橋本さんがきっかけで図書室で一緒に勉強するだけのクラスメイト。理由が分からない。


「あの、そんなに深く考えなくてもいいから。私、工藤君とちょっと一緒に遊びたいなと思って。もし駄目だったら一緒に勉強でもいいよ。でも私の家は日曜日は家族いるから、その…工藤君のマンションでもいいけど」

「えっ?」


 最初は、勉強の合間の休みと言っておきながら今度は勉強しようと言って来た。意味分からない。


「駄目かな」

 そんなに上目遣いで聞いてこないで。土曜日は空手の稽古だけど日曜日は休みにしてあるし。どうしようかな?


「そんなに考えないといけない事なの?私と一緒に居る事が」

「いやそんな事は無いけど」

「じゃあ、今度の日曜日、ねっいいでしょう」

 そこまで言うなら


「分かった。いいよ。会おうか」

「本当。嬉しい」

「あっ、俺ここで降りるから」

「うん、じゃあまた明日」



 俺は、電車から降りた後、なんで水島さんが今度の日曜日、二人で会おうなんて言って来たのか分からなかった。

でも考えても出ない答えを考えるのは止める事にしている。だって、彼女の心の中なんて分からないし。




 翌日の土曜日は登校日だ。午前中の授業を聞いた後、家で昼食を摂って空手の稽古に行くつもりだ。

 いつもの様に教室に入ると小見川が挨拶をして来たのでそれに応えると、その後何故か、緑川さんと門倉さんがやって来た。


「工藤君、おはよう」

「おはよう、緑川さん、門倉さん」

「ねえ、今度の日曜日空いていないかな?」

「ちょっと用事が入っている」

「そっか、じゃあ来週の日曜日は?」

「えっ、なんで日曜日狙い撃つの?」

「実は工藤君、毎日、里奈と心菜と一緒に図書室で勉強しているじゃない。だから日曜日位私達二人と一緒に勉強会出来ないかなと思って。もうすぐ学期末考査だし、どうかな」


 チラッと小見川を見ると向こうを向きながら肩が震えている。絶対に笑っている。

「うーん、来週の日曜日かあ。ちょっと考えさせて。日曜位頭休めたいし」

「じゃあ、遊びに行っても良いよ」


「「えっ?!」」

 何故か橋本さんと水島さんが反応した。でも声は掛けてこない。


 予鈴が鳴った。


「工藤君、一限終わったら、また話そ?」

「うん」


 なんか、変な感じだぞ。美月と別れて体育祭が終わった辺りから、なんか俺の周りが賑やかになっている。



 一限目が終わった中休み、直ぐに緑川さんと門倉さんがやって来た。


「工藤君、朝の話なんだけど、どうかな?」

「うーん、その週は木曜日から学期末考査だし。あまり遊びに行きたくないんだ」

「じゃあ、一緒に勉強しようよ」

「…………」

参ったなあ。明日は水島さんとだし、一日位一人で居たいんだけど。


「ねえ、駄目?」

「ごめん、その日は一人で居たいから」

「そっかぁ。残念だね。じゃあ、また今度ね」

「ごめん」



 ふふふっ、工藤君。緑川さんと門倉さんのお誘い断った。あの二人が工藤君と積極的に接すると中々の強敵になる。良かった。明日は工藤君と二人で会える。ここは一歩リードしておかないと。




 土曜日授業も終わり放課後になった。俺は、昼食は家で撮って、その後空手の稽古に行く事にしている。


 直ぐに教室を出ようとすると橋本さんが寄って来た。

「工藤君、一緒に帰ろうか」

「別に良いけど」


「工藤君、私も一緒で良いかな?」

「えっ?」

 水島さんが声を掛けて来た。


「俺は構わないけど」

 橋本さんが水島さんをジッと見ている。


「あっ、やっぱり止めとく。工藤君、じゃあね」

 あれっ?水島さんが簡単に引き下がったよ。どうしたんだろう。




 駅までの帰り道。

「工藤君、明日用事が有るって言ってたよね。本当は私、会いたかったんだ。でも用事なら仕方ないね。ねえ工藤君のスマホの連絡先教えてくれないから。もっと工藤君と話をしたいんだ」

 えーっ、スマホの連絡先って、まだ誰にも教えていないんだけど。


「ねえ、駄目かな。工藤君にとって、私ってスマホの連絡先も教えられない程嫌われているの?」

「い、いや。そんなことないよ。毎日一緒に図書室で勉強だってしているじゃないか」

「じゃあ、良いよね。スマホの連絡先。教えて!」

「うっ!わ、分かった」


 俺はポケットからスマホを取り出すと橋本さんに連絡先を教えた。あんまりかけて欲しくないんだけど。


 ふふっ、工藤君のスマホの連絡先を知る事が出来た。これで水島さんのリードを消す事が出来るかも知れない。

「工藤君、スマホの連絡先って私以外に教えた人いるの?」

 ちょっとプライベートに突っ込み過ぎだよ。


「橋本さん、俺が誰にスマホの連絡先教えていようが君に関係あるの?なんでそんな事知りたいの?何で君に教えなくちゃいけないの?君には関係ないじゃないか。じゃあね」


 あーっ、工藤君を怒らせちゃった。ちょっと突っ込み過ぎたかな。


―――――


書き始めのエネルギーはやはり★★★さんです。ぜひ頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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