第2話 チャラいやつはお姉ちゃんに近づくな!
お姉ちゃんのクラスにはお姉ちゃんの親友で、私とも仲良くしてくれている
学校が始まって一週間。しっかりしているようで、抜けたところがあるお姉ちゃんがお弁当を忘れて行った。こういうこともあるから、私はあえてお姉ちゃんの後に家を出ている。お姉ちゃんと学校でも会うチャンスを掴むための努力の賜物だ。
一緒に登校している友達との会話を中断してまで届けに行かなきゃなんて迷惑だなぁ、なんて態度をとってみるもののお姉ちゃんに会える嬉しさを隠せない。気を抜くと歌いながらスキップしてしまいそうだ。
お姉ちゃんのクラスは三組で、四階まで上がったところの一番奥にある。その間、三年生の先輩たちとすれ違う事もなんのその。お姉ちゃんに会いに
リズミカルに歩いていたら後ろから、
「あれ、すみかちゃん? 三年の教室に用事でもあるの?」
と倫華先輩から声をかけられた。振り向いてみると、どこかで見たことがある先輩と倫華先輩が立っていた。
「倫華先輩、お久しぶりです! 今日はお姉ちゃんのお弁当を届けに来たんです!」
じゃじゃーん! という効果音付きでお姉ちゃんのお弁当をかかげてみせる。
「ふんふん。もしやお主、狙ったな? じゃあ、私は先に教室に行ってすみれを呼んできてあげるよ。ちょっと待ってて。」
お姉ちゃんを呼んできてくれるだって?! さすが倫華先輩! 気づかいの鬼だぁ! なんて感動している間に、倫華先輩は小走りで三組の方へ行った。
倫華先輩の背中が見えなくなったところで、知らない先輩と残されたことに気づいた。急に気まずさを感じる。どうしよう。さっきからすごい視線を感じるし……。
そっと逃げる方法を考えていると、
「俺は
と自己紹介された。
なるほど、どこかで見たことがあると思ったら『ハンカチの君』だったらしい。あの時は顔をまじまじと見ていなかったから、この先輩が誰なのか全然分からなかった。
「私は
「あぁ、お姉さんのことは知ってるよ。俺も三組だし、バスケ部なんだよね、水引がマネージャーやってる男バスの。一年生の時から知り合いっちゃ知り合いなんだけど…。妹が一個下ってのは知らなかった。」
私のことを詳しく知らないってことは、お姉ちゃんとすっごい仲が良いってわけじゃないのかな。お姉ちゃんはよく妹自慢をする。そりゃあお姉ちゃんの妹だから、誇れるところはいっぱいあるんだけどね! でも、誰にでも言ってるわけじゃない。
この人……、どっちだ? お姉ちゃんに気があるようには見えない、けど、同じ部活で過ごした二年間がある。二年も関わる機会があって、一度もお姉ちゃんに傾かなかった超人なんてこの世にいるのか? 怪しすぎる……。調査の必要があるな。
「……い。ぉーい。もしもーし。すみかちゃん? 聞こえてる?」
「あ、聞こえてます。すみません。考え込むと周りが見えなくなるのが私の短所なんです。何かありましたか?」
ちゃんと岸保先輩の方を見ると、耳や首が赤くなっていた。緊張でガッチガチに固まってるようにも見える。
どこか悪いところがあるんじゃ……、と心配していたら、
「いや、事件が起きたとかじゃないんだけど、その、良かったら、俺と、連絡先、あのー交換とか、して欲しくて。あー、恥ずかしいな。正直に言うとね? その、ひ、一目惚れ、みたいな。まだ知り合いになったばっかだし、付き合って欲しいとか言わないから、好きです! っていうことだけ、伝えさせてほしくて。まずは俺のこと、意識して欲しい、と、思ってる。お願いします!!!」
と頭を下げられた。
何が起きてるの……。告白か? これが世に言う告白というやつなのか?
いや待て。この人はもしかしたらお姉ちゃんを狙っているのかも?! すぐ連絡先を聞いてくるようなチャラ男を、お姉ちゃんに近づかせるわけにはいかない!
頭を下げ続ける岸保先輩と、敵を見つけ今後について考え込む私。地獄のような空間に女神が訪れた。
「すみか? お弁当持って来てくれてありがとね〜! ……え、岸保? 何してんの?」
女神(お姉ちゃん)に声をかけられると、岸保先輩は勢いよく頭を上げて、
「今すみかちゃんを口説いてんの! この間ハンカチを拾ってくれた美人がいたって話しただろ? あれ、すみかちゃんだったんだよ! というわけで水引! 俺を義弟として認めてくれ!」
と今度はお姉ちゃんに向かって頭を下げ始めた。やっぱりお姉ちゃんと距離が近い。これは、完全に敵だ。
「あの! 岸保先輩!」
「え! もしかして連絡先交換してくれんの?!」
私は期待を込めた顔で姿勢を正した岸保先輩をしっかりと見据えて叫んだ。
「チャラ男はお姉ちゃんに近づくな!!!」
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