お姉ちゃんに近づくな!
千蘭
第1話 不思議な先輩
新学期。私は張り出された二年生のクラス分け表の前を通り過ぎ、お姉ちゃんのクラスを見るために三年生の教室がある四階まで駆け上がった。
友達の薫ちゃんには、
「自分のを見てから行ったって間に合うでしょうに。」
と呆れた目で見られたが、自分のクラスよりもずっと大切なのだ。お姉ちゃんのクラスメイトを確認することは。
いつも誰にでも優しく、穏やかで、可愛らしい笑みを絶やさない聖母のようなお姉ちゃんは言わずもがなモテる。彼氏がいるのに、告白してくる男の子も多い。
しかし、穏やかであるせいで、お姉ちゃんは告白してくる男の子に対して強く断れないのだ。優しく遠回しに伝えようとしているのはとっても可愛いが、そのせいで付き纏われて困っているところをよく見かける。そんなお姉ちゃんに代わって、私がハッキリと言ってやらねばならないからこそ、この新学期のクラス確認は必須事項なのだ。
お姉ちゃんと同じクラスに何人めんどくさい男がいて、何人味方がいるのかが今後につながる。
春の暖かな空気の中、先生に見つからないように走っていると、前を歩いていた知らない先輩がハンカチを落とした。見てしまったからには拾わないわけにはいかない。
そんな時間も惜しいが、どのみちその先輩が向かっているのは三年生のクラス表の所だろうしタイムロスにはならないか、と結論付けて、三年生にしては大きい背中を追いかけた。
「あの! 先輩! ハンカチ落としましたよ!」
気づいていないのか、声をかけられているのは自分だと思っていないのか、その先輩は振り返らない。仕方がないのでその先輩の背中をちょいちょいとつつき、
「ハ・ン・カ・チ! 落としましたよ!」
と少し苛立ちが出たかもしれない態度で声をかけた。
眉間にシワを寄せて振り返った先輩は、私の顔を見るなり驚いたとでも言うように目を見開いた。私の顔に何かついていると言いたいのか? 全く受け取ってくれないことにしびれを切らした私は、先輩の手を勝手に広げてハンカチをにぎらせた。
「私! これからすっごく大切な用事があるので失礼します!」
大声で言い切ってまた走り始めた私には、ポツンと残された先輩がどんな表情をしているかなんて見えていなかった。
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