72.転生の謎

「しかし妖精の収納魔法というのは凄いのですね!!」


 リムロッサが明るい声で食事を頬張りながら、言った。

 今、俺たちは魔境『熱砂の谷』へ向けての旅の途中である。

 既に日も落ちて焚き火を囲んで、食事の時間だ。


 リムロッサも自前で旅支度はしてきているから、保存食は持っている。

 しかし俺のアイテム袋には温かい料理が時間停止状態で大量に仕舞われているのだ。

 俺たちだけが温かい料理を食べて、リムロッサは保存食、というのはさすがに可哀想なので、食事は同じものを分けているというわけ。


「ほんとだよねー。レイシアがいなかったら、もっと旅が大変だったもん」


「そうね。さすがは『妖精の友』のリーダーだわ」


「うむ。拙者たちも妖精が見えれば良かったのでござるが……」


 ディアーネ、マーシャさん、アリサが食事をしながらめいめいに頷いた。


 なぜ俺以外の人間に妖精が見えないのかは、謎である。

 安直に考えれば転生チートの類、とかが考えられるのだが。

 なにせ俺には前世の記憶があり、この世界のクラスとスキルについて知悉しているのだから。

 他人とはちょっと異なる部分があっても、おかしくはない。


 ともあれ、当の妖精であるフェイもなぜ俺だけが妖精を見ることができるのかは分からないと言っていた。

 魔境『黒の山』で、フェアリーサークルを見つけて会ったときに問うたのだが。

 返ってきたは「そんなの知るわけないじゃな~い」という応え。


 ……やっぱり転生関係かなあ。


 とはいえ転生についても謎が多い。

 なぜ『トゥエルブ』に酷似した世界にTS転生したのか、分からないのだ。

 真っ白い空間で神様に会っただとか、そういうの一切、なかったし。


 まあ、今が楽しければ良いと思って気にしないことにしてきたが、本当にそれでいいのだろうか?


 仮に俺の転生に意味があるとしたら、なんだろう。

 無双しろってことだろうか。

 女性に転生したことが偶然でなければ、女性専用クラスに就きやすくするためだろうし。

 そうすると、強くなって、何かと戦わせたい、とか?


 この世界の住人たちの大半は、シナジーもコンボも無縁のクラスとスキル構成で生きている。

 俺が『妖精の友』のメンバーにしているようにあからさまな誘導をしない限り、偶然によって強いクラスとスキルの組み合わせを習得するのに賭けるしかない。

 それをこの世界では天賦の才と呼ぶのだろうけど、――それじゃあどうにもならない相手が俺の敵だと仮定してみよう。


 ……ないな。


 というのも、この世界、ゲーム『トゥエルブ』に酷似した世界の法則を考えると、たった十二枠のスキルで紡げるコンボには限界があるのだ。

 それこそ以前に見た辻切りのシュンや金ランク冒険者のキルロイのようなスキル構成をさらに突き詰めたところで、強さがそう大きく変わるとも思えない。


 スキル枠の限界。

 それがゲーム『トゥエルブ』の面白さであり、ゲームバランスを保っていたシステムなのだから、知識チートしている俺がひとり転生したところで、この世界に大きな影響をもたらせるとは思えない。


 ただ何の理由もなく転生したという偶然にしては、俺のやり込んだ『トゥエルブ』である必然性はないので、それもちょっともやもやする。


 ……考えても仕方ないことかもしれないけど。


 考えて答えが出ることでもない。


 リュートを弾き始めたリムロッサ。

 めいめいくつろぎながら、今夜の英雄譚は何かと期待する。


 俺もひとまず没頭していた思考を放棄して、吟遊詩人の奏でる歌に耳を傾けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る