66.魔境入り

 いよいよ魔境に潜る。

 準備は万端だ。


 魔境は『黒の山』と呼ばれているらしい。

 鬱蒼とした木々の密度が濃く、確かに遠目には真っ黒い山に見える。


 魔境『黒の山』にはどこから入ってもいいという話だ。

 街から最も近いルートから入る冒険者も多いが、敢えて競合を避けるために違うルートを選択する冒険者もいる。

 ひとまず初日なので、俺たちは街から最も近いルートから入ることにした。


「いよいよだね、レイシア。魔境の魔物は強いんでしょ? 楽しみだなー」


「ディアーネ。楽しみなのはいいけど、まだ盾に慣れていないんだから慎重にね」


「うん、分かってるー!!」


 銀ランクの子供ふたりはどうやらかなり目立つようで、先程からチラチラと視線がこっちに向けられている。

 悪意こそないものの、「この子たち大丈夫か?」といった懐疑的な視線が多い。

 昨日の喧嘩を見た人たちは少なかったのだろうか。


 まあいい、ここにはお金とSPを稼ぎに来ているのだ。

 周りの人間たちのことは放っておいて、思う存分、戦闘を満喫しよう。



 さすがに人が多いルートだけあって、魔物の取り合いになっている。

 それを嫌ってどんどん魔境の奥へ進む俺たち。


「しかし魔境は盛況でござるな。これでは魔物と戦うまでにかなり歩かされるでござる」


「そうね。次回からは別ルートから魔境に入ることを検討してもいいかもね」


 アリサとマーシャさんが周囲を警戒しながら言った。

 確かにここまで人が多いと効率が悪い。


 と、誰とも戦っていない魔物を発見した。

 私たちは頷き合って、アレをターゲットにすることにした。


 サーベルタイガー。

 二本の巨大な牙を持つ、虎だ。


 大口を開けて飛びかかってきたサーベルタイガーから一旦、距離を取り、前衛たちを盾にして俺とマーシャさんが杖と弓をそれぞれ構えた。


「拙者、アリサと申す武士もののふでござる!! いざ尋常に勝負!!」


 アリサの名乗り上げを皮切りに、戦闘が始まった。

 まずは俺の〈アイスボルト〉、マーシャさんの射撃がサーベルタイガーを襲う。

 〈アイスボルト〉は爪で薙ぎ払われたが、〈凍結付与〉の効果で前足の片方は氷漬けだ。

 マーシャさんの矢は〈百発百中〉の効果で胴体に浅く突き刺さった。

 矢を外さない、というのは大きい。


 アリサが〈居合い〉を放つ。

 その鋭い剣気を警戒したのかサーベルタイガーは後ろに飛び退いたが、巨大な牙の片方を斬り落とされた。


 ディアーネが後退したサーベルタイガーを追いかけ、ラウンドシールドで殴りつけた。

 頭部にクリーンヒットした盾の一撃は脳震盪を起こしたらしく、サーベルタイガーの動きが鈍る。

 そこへディアーネの三連撃が叩き込まれた。


 サーベルタイガーはダメージを受けて傷だらけになりながらも意識を復帰させたらしく、前足を振り回して邪魔な前衛ふたりを追い散らす。


 前衛ふたりと距離ができたので、俺は〈アイスボルト〉を放った。

 隙を狙っていたマーシャさんの矢も放たれる。


 アリサが〈俊足〉からの〈納刀の一閃〉を放ち、深々と首を切り裂いて戦闘終了。


 魔境での初戦闘は無事に終わったのだった。


 しかしここは魔境。

 普通の森と異なり、すぐに次のサーベルタイガーが現れる。


 魔物の密度が濃いのだ。


 俺は急いで倒したサーベルタイガーをアイテム袋に仕舞い、新手との戦闘に備え、ショートロッドを構えた。

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