65.女子会

「さて――これ以上のいさかいはなしだ。このお嬢ちゃんたちの実力はここにいる全員が見た。文句はないだろうね?」


 審判を務めてくれた女剣士が喧嘩相手に釘を差してくれた。

 敗北者のふたりはバツが悪そうに頷き、そそくさと訓練場を後にする。


「凄いねえ、まだちっこいのに。中位属性魔法の七発目以降はどうやったんだい?」


「それは秘密で――」


「妖精さんの力だよ!!」


 ディアーネが食い気味に胸を張って言った。


「私たち『妖精の友』のリーダー、レイシアは文字通り妖精が見えて、妖精から力を授かったの。色々知っているし、何より魔力の制限なく下位属性や中位属性の単発魔法を撃てるんだから!!」


 ……そういうことになっていたね。

 自分でも忘れかけていた設定だが、ディアーネたちの中では有効だ。

 それに大きく間違っているわけでもないしね。


「へえ。妖精ねえ?」


 女剣士のお姉さんは半信半疑といったところ。

 だが実際に七発目の〈アイスボルト〉を撃つところを見ているから、否定もできない。


「まあいいや。アンタたち、ホイットボックスは初めてだろ? 美味しい店を紹介してやるから、一緒に食事でもどうだい。ああ、私は『山猫』ってパーティのミーナレイネっていうものさ」


「うーん、それじゃあ、ご一緒します」


 少し迷ったが悪い人じゃなさそうだし、審判を公平に務めてくれた。

 食事にくらい付き合ってもいいだろう。


「そうかい。そっちは……銅ランクのふたりと合わせて四人かい。こっちも女ばっかり四人だよ。じゃあこっち残りの三人を捕まえてくるから、ギルドの一階で待っててくれな」


 そんなわけで、ミーナレイネというお姉さんと知り合いになった。



 女ばかり八人となると、姦しいことこの上ない。

 まあ内ふたりは私とディアーネ、子供組なのだが、教育に悪い話が飛び交う食事会には気が気じゃなかった。

 男が居ない分だけ、容赦のない下ネタが出てくるのだ。

 ディアーネは半分以上、話の意味を理解していない様子だった。


 お上品なマーシャさんも当初は顔を真っ赤にしていたが、段々と慣れてきたのか時折すごいことを言い出す。

 おい貴族令嬢、それ口に出して大丈夫か?


 アリサは下ネタに耐性があるのか、ゲラゲラと腹を抱えて笑っていた。

 酒が入っていたとはいえ、『山猫』のメンバーと最も意気投合していたのは間違いなくアリサだろう。


 幸いなことに個室であったため、この下品な女子会を目撃したものは部外者では給仕くらいのものか。

 それも慣れた感じなので、多分『山猫』はここの常連なのだろう。


「レイシアたちは魔境に潜るんだろ? 気をつけな、今日みたいな冒険者のクズみたいなのは幾らでもいるからね。特に魔境では自分たちより弱いパーティを食い物にする悪辣な連中もいるんだ。かく言う私らも二、三度、遭遇している。女ばっかだから狙われやすいんだろうね。まあ返り討ちにしているけど」


「……ということは、私たちも狙われるってことですか?」


「そうだね。子供ふたりを含む女四人パーティだ。確実にそういうのが寄ってくると思っておいた方がいいよ」


「分かりました。気をつけておきます」


「……肝が太いねえ。気をつける? 人を殺したことはあるって感じか。まあ銀ランクだし当然か」


 ミーナレイネは魔境について色々と語ってくれた。

 それはほとんど俺がゲームで知り得た情報に合致していたため、得るものはあまりなかったが、ディアーネたちにとっては有用な情報だったらしく、熱心に聞いていた。

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