33.冒険者は自己責任

「レイシア、大丈夫!?」


「あー、うん。平気。休めば治せるから」


「もう、ケチらずにポーション使って!!」


 肩を軽くはたかれた。

 激痛に身悶える。


「ほら、全然大丈夫じゃない」


「痛た……ちょっと何するのディアーネ」


「いいからポーション使って!!」


「うーん、分かったから」


 アイテム袋からポーションを取り出して、あおる。

 全身の痛みが癒え、肩の傷も綺麗さっぱり、なくなったようだ。


「いやあ危ないところだった。これ仕舞って、さっさと帰ろう」


「ほんとだね。情報と違うじゃん。どうしてこんなところにいたんだろ」


「単純に餌を求めて移動してきただけかもよ? 空、飛べるし」


「そっか……」


 ちょっと調子に乗りすぎた。

 森の奥は危険に満ちている、なんて警句が頭からスッポリ抜け落ちていた。


 俺はアイテム袋にキマイラを仕舞って、ほうほうの体で森から撤退した。



 解体場ではちょっとした騒ぎになった。

 なにせキマイラだ。

 こんな大物、なかなかお目にかかれない。


 ギルド職員だけでなく、暇をしていた冒険者たちまで野次馬にやって来た。


「これをたったふたりで仕留めたんですか……」


「まあ。苦戦しましたけどね」


「そりゃ……女の子がたったふたりで戦う魔物じゃないですからね」


 仰る通りで。

 MPをすべて使いきったのは初めてかもしれない。

 解体は後学のためという名目でギルド職員が手伝ってくれた。

 正直、色々混じっているからどう解体するのが良いのか分からなかったので助かった。


 解体を終えてキマイラを売却すると、カウンターに呼び出された。

 さすがにキマイラを討伐したことは冒険者ギルドでも無視はできなかったらしい。

 聞き取りが行われることになったため、個室に通された。


 聞き取りに来たのはこの冒険者ギルドの偉い人らしい。

 カウンターや解体場では見たことのない三十歳くらいの男性だ。


 さすがに“うっかり”では済まない。

 森の奥に入って魔物を狩ろうとしたところ、情報とは違う場所でキマイラに遭遇したことを正直に話した。


「……なるほどね。君たちは度々、ゴブリン以外も狩っていたから森の少し入ったところで狩りをしていたのは想像に難くない。しかしさらに奥に入るとは……」


「申し開きもございません」


「まあその歳で戦果を挙げ続けたら、次は森の奥と考えるのも分かるがね。危険を冒す者、それが冒険者だ。その辺は自己責任だし、今回の油断は身にしみただろう。今後は気をつけるように」


 あっさりと自己責任という言葉で片付けられて拍子抜けした。

 てっきり厳重注意でもくらうかと思ったが。


「さてキマイラを倒したともなると、さすがに初心者は卒業だな。おめでとう、今日から銅ランク冒険者だ。カウンターで手続きをしてきなさい」


「え、はい」


「それでは聞き取りは以上。退室したまえ」


「し、失礼しました」


 ディアーネとふたり、逃げるようにして退室した。



 カウンターで冒険者タグの更新を行い、俺たちは遂に銅ランク冒険者に昇格した。


 ◆


《名前 レイシア 年齢 10 性別 女

 クラス 【大魔術師】アークメイジ

 パッシブスキル

 〈MP軽減〉

 〈凍結付与〉

 〈高速詠唱〉

 アクションスキル

 〈ストーンハンマー〉

 〈ウォータースピア〉

 〈ウィンドカッター〉

 〈アイスボルト〉

 〈ブリザード〉

 〈ヒーリング〉

 控えスキル

 〈農民の証〉

 〈大魔術師の証〉

 〈農業Ⅰ〉

 〈槍・刺突〉

 〈投石〉

 》

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