13.森を舐めてると死ぬぞ

 鋼の剣に鋼の胸甲、革のブーツ、そして解体用の分厚いナイフ。

 それがディアーネの森に入る装備だった。


 一方の俺はといえば、普段着だ。

 靴くらいは良いものを購入するか、とディアーネを見てそう思ったくらい。

 今のところ、この森なら必要ないだろう。


「軽装だね……レイシア?」


「まあね。魔法使いだし」


「でも魔法を撃ち尽くしたら? 槍とか持っていかなくていいの?」


「うーん、正直なところ私、槍はちょっと……」


 槍系スキルに振るSPがあるなら、魔法系スキルに振りたい。

 せっかく前衛にディアーネがいるのだ。

 俺は魔法使いでサポートに徹するのがいいだろう。


「そっか。じゃあ早速、森に入ろう」


「うん。先頭よろしくディアーネ」


「任せて!!」


 森に入る。

 俺たちは普段は狩人の使う獣道を歩くことにした。


 土はしっかりと踏み固められており、歩きやすい。

 この道は森の奥まで続いており、魔物との遭遇率も高いとのこと。

 一、二回くらい戦って撤退すればいいだろう。

 初日から頑張る必要もない、二年もあるのだから。


 周囲を警戒する無言のディアーネの後ろをついていく。

 すると茂みが揺れた。

 ディアーネと目が合う、さあ獲物だ。


 出てきたのは巨大な牙をもつイノシシ。

 巨大なのは牙だけではない、その体躯も十分に大きい。

 ファングボアという魔物だ。

 いきなり大物だね。


「出し惜しみなしで行こう、ディアーネ!」


「お願い、レイシア!」


 そう言って飛び出すディアーネ。


「〈ストーンハンマー〉!!」


 ディアーネが接敵する前に一撃入れておこう。

 太い円柱状の石が、その底辺をファングボアの額に叩きつけられた。


 ドガァ!!


 突進の出鼻をくじかれ、ファングボアの勢いが止まる。

 そこへディアーネの〈剣・斬撃〉から〈剣・刺突〉への連続攻撃が決まる。


 やっぱり武器はコスパいいなあ。

 こっちは残弾数十一しかない。


 限りある攻撃を無駄にしないために、怯んだところへ追い打ちをかける。

 足が止まっているところがチャンスだ。


「〈ストーンハンマー〉!!」


 ドガァ!!


 二度の頭部への打撃。

 脳震盪でも起こしたのか、グラリとファングボアの身体が揺れる。


 そこへすかさず、ディアーネの連続攻撃が決まる。

 ドウ、と倒れ伏すファングボア。


「倒れた! ……死んだのかな?」


「いや、まだだと思う。トドメ刺して」


 警戒しながら剣を構えるディアーネ。

 狙いを定めて、首に一撃を入れた。

 それを見て、俺は無造作に近づく。


《ファングボア 素材 レアリティ2》


 うん、死んでアイテムになっているね。

 俺はファングボアに手を当てて、アイテム袋に仕舞った。


「え? なにしたの、レイシア?」


「あー……妖精さんにもらった魔法だよ。物を持ち運べる魔法」


「なにそれ、凄い便利じゃない」


「まあね。帰ったら血抜きして解体しよう。時間経過はないから」


「え、それって……凄くない?」


「凄いでしょ」


 そう、アイテム袋に時間経過はなかった。

 暇を見つけてホーンラビットの死体を解体したときに確認済みだ。


「ちょ、妖精さん、私にも何か欲しいですっ」


「あはは。とりあえず荷物の心配はしなくていいから、もう一回くらい狩ってから帰ろう」


「うん。はえー、妖精さんの魔法すごい」


 ディアーネの心底、羨ましそうな視線に笑顔を返して、俺たちは森の奥へと更に進んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る