11.友達ができました
二年が過ぎて、神殿学校に通う年頃になった。
遂に文字や数字を学ぶ機会がやって来たのだ。
二年の間は平和に過ぎ、魔物の襲撃もなく、よってSPを大きく稼ぐ機会もなかった。
地道な農作業や自警団の訓練で微々たるSPを稼いだとはいえ、それらはブルーベアの一頭にも及ばない数値でしかない。
とはいえ自警団に所属したことで、給金がもらえるようになったことは大きい。
家計を直接、助けることができるのはなかなか大きく、家庭内では一目置かれるようになった。
もともとそう大して貧乏でもない農家の家だったが、俺の給金で土地を買って畑を広げたりして、農家の家の中では頭ひとつ抜けた感じになったのだ。
まあ兄姉より大人寄りの扱いになっただけで、別に何が変わったでもないが、食事のおかずが一品増えたとか、そういう小さな変化はあった。
子供時代の栄養状態は大事だからね。
良かったことと言えばそのくらいかな。
俺は村で一番仲の良いディアーネと一緒に、神殿学校で勉強に励んでいた。
ディアーネは自警団長のディアマンドの娘さんで、同じ年の女の子だ。
初対面でディアマンドに紹介されたとき、「母親似で良かったね」と思わず口にしてディアマンドにこづかれたのは忘れていない。
「あ、ディアーネ、そこのスペル間違ってるよ」
「あ、ほんとだ。ありがとうレイシア」
この世界の文字は日本語ではない。
レイシアの記憶にあった語彙は地球の言語ではない、と思う。
少なくとも日本語、英語、中国語などではないはずだ。
現に文字や数字に見覚えはなかった。
だから文字と数字の習熟には割りと苦戦した。
会話はもちろん問題なくできる。
しかし見たこともない文字と会話を対応させるのは大変だった。
数字はアラビア数字よろしく十進法なのでとっつきやすい。
とはいえまったく違う形の数字なので、最初の頃はよく間違えたものだ。
他に神殿学校で習うのは、歴史と神話だ。
歴史には簡単な地理も含むため、この世界全体について知るのに役立つ。
もっとも俺たちの暮らすライオネル王国についてすら大雑把で、周辺国家については名前くらいしか耳にすることはないが。
ちなみにいずれの国の名前も前世の記憶に引っかからなかった。
ゲーム『トゥエルブ』の舞台はとある王国、とボカされていたので当然のことだが。
そのとある王国とやらが今いるライオネル王国だと決まったわけでもない。
ちなみにいま住んでいる農村は、カイウス開拓村という名前らしい。
王国の果てにある辺境の地で、まさにド田舎だ。
ちなみにカイウスというのは先々代の初代村長の名前で、現在の村長も祖父の名前であるカイウスを継いでいる。
歴史についてはいかにライオネル王国が正統性のある国家であるかについて語られている。
自国について肯定的に語るのは当然の愛国心教育と言えよう。
さて歴史についてはそんなところで、興味深いのは神話の方だった。
まず創世の女神がこの世界を生み出したことになっている。
名前は残念ながら伝わっていないらしい。
そして様々な動植物を生み出し、最後に人間を創り給うた。
だが創世の女神と敵対する邪神の来訪と、その発する瘴気により動植物が変化して魔物が生まれる。
創世の女神は人間が対抗できるように、魔法の力を与えたということになっている。
ここでいう魔法の力には武器攻撃スキルなども含まれているようだ。
魔物に対して有効な攻撃手段全般と、回復魔法を始めとした補助スキル。
すべてを引っくるめて魔法の力を称しており、創世の女神が人間を慈しんでいることを表しているのだと解釈されているようだ。
さてでは妖精はどういう扱いかというと、邪神の瘴気で動植物が魔物と化したのとは反対に、創世の女神の神気によって動植物から生まれたとされている。
アイテム袋やメニュー画面に関する権能を持っていたから、この世界の法則に密接に関わっているのは確かだろう。
そう考えると、あながち間違っていないのかもしれない。
神話の成否に関しては確かめようはないが、少なくとも『トゥエルブ』のゲーム内で時折、語られた創世の女神と邪神との戦いを彷彿とさせる内容だった。
ゲームではもっと踏み込んで創世の女神がクラスとスキルを与えたと断言していたが。
とにもかくにも。
俺は一年間の神殿学校を楽しんだ。
残念ながら友人と言える友人はディアーネくらいのもので、他の子供たちとの間には溝があったが。
理由は単純で、持っている武力が原因のようだった。
俺については言うまでもなく、ディアーネも父であるディアマンドからマンツーマンで剣を教わっている。
自警団の訓練にも俺と一緒に参加するようになっていたから、大体の強さは見て取れるが、ディアーネは〈剣・斬撃〉と〈剣・刺突〉を習得しているようだった。
〈剣・斬撃〉はタダで習得できるが、〈剣・刺突〉についてはSPが必要になる。
それだけディアーネが努力を重ねてきたということの証左なのだろうが、それが同年代の少年少女たちには畏敬の念で接せられる原因となっているようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます