9.全部妖精さんのお陰です

 どうやらブルーベアは二頭いたらしい。

 入り口で奮戦していた自警団員たちは、村に逃げ込んだ方に戦力を割く余裕はなかった。

 それでもなんとか足止めをしようとした団員数名が村に入った方のブルーベアを追ったらしい。


 入り口の方はなんとか片付いたので、自警団は急いで村に入った方を追った。

 足止めを買って出た倒れ伏す自警団員と破壊された神殿の入り口を見て、多くの犠牲者が出たと覚悟して彼らは神殿に入ってきたらしい。

 しかしなんとブルーベアは死体となっており、恐怖に怯える人々の中、少女がひとり死体の前に立ちはだかっていたではないか。


 これには自警団の長であるディアマンドも驚いた、というのが現在の状況だった。


 両親にもみくちゃに抱きしめられた俺は、涙を流す母をなだめながら、自警団の長に問うた。


「怪我人はどのくらいいます? 〈ヒーリング〉はあと七回使えますけど」


「マジかよ。表で倒れている連中に急いでかけてやってくれ!!」


 どうやら足止めを買って出た自警団員たちはまだ息があるらしい。

 両親を振りほどいて表に出ると、なるほど鎧を装備していたことで一命をとりとめたらしい。

 防具、大事だね。


 ひとり一回、〈ヒーリング〉を使った。

 それで怪我はおおよそ治った。

 初期の〈ヒーリング〉の回復量では、たかが知れている。

 完治させるには色々とスキルが足りていない。



 結果から言えば、自警団員に死者は出なかった。

 司祭様も怪我なく無事だったが、自警団員たちに回復魔法をすべて使い果たしてしまっていたから、俺が〈ヒーリング〉をかけなければ死人が出たか、後遺症の残る重傷者が出ていたかもしれない。


 さてそんなわけで、俺が魔法を使うところを村人たちに目撃されてしまった。

 使わなければ全滅もあり得たので、使わないという選択肢はなかったにせよ、どういう扱いになるのか不安で一杯だ。

 いざとなったら村から逃げよう。


 そんな覚悟を決めていたが、大人たちの会合で、俺を自警団に入れるということで話がまとまったらしい。

 村を守る戦力として数えられることになったのだ。


 なぜ魔法が使えるようになったかは、俺がついた嘘――すなわち妖精のお陰――という話が信じられた。

 というか弟子入りもせずに魔法を放つ少女の存在を、それ以外に説明できる者がいなかっただけだが。


 ともあれ村八分になるようなこともなく、逆に給金がもらえるようになって、家の財布に貢献することができるようになった。

 結果オーライ。


 ただしブルーベアを単独で倒したことから、しばらく同年代の子供たちからは距離を置かれる羽目になったが。

 まあ内面は大人だし、そのくらいは別に構わないけどね。

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