4.初戦闘はお約束のアイツ
俺は集めておいた〈投石〉用の石を、巾着に入れて腰にぶら下げた。
ただの石では〈投石〉に使えない。
《小石 武器 レアリティ0》
手にしたときにこのようにアイテム表示がなされるものだけが、〈投石〉に使えるのだ。
もちろん練習のときの石もこの小石を使用しなければならない。
〈投石〉のよいところは、投げた石を回収して再利用できることだ。
だから実際には練習で使った小石を、巾着に入れて利用する。
さあ森へ出発だ。
大人たちの目を盗み、子どもたちの目を欺き、いざ危険な森の中へ!!
茂みをかき分けて森を進む。
途中からは獣道を歩く。
よく見れば蹄の跡があるから、イノシシでもいるのかもしれない。
村の狩人――弓を扱うことのできる
俺も猪肉、鹿肉、鳥肉は食べたことがある。
きっと森で穫れるのだろう。
そんなことを考えながら、森を進む。
時間はそれほど多くない。
帰路のことを考えれば、昼過ぎには引き返さなくてはならない。
――なかなか見つからないな。
ゲームの森マップでは割りと頻繁に見かけるフェアリーサークルだが、実際の森は広く、複雑で、そもそもゲームではない。
フェアリーサークルがまったくない森である可能性すらあり得るのだ。
考えたくもないが……。
結論から言えば、その心配は杞憂だった。
太陽が空の最も高く昇った頃、俺は遂にフェアリーサークルを見つけたのだ。
妖精に呼びかけようと駆け寄ると、茂みからガサガサという音とともに、額に角が生えたウサギが飛び出した。
ホーンラビットと呼ばれる魔物だ。
俺は素早く巾着の紐を緩めて、小石を握った。
シュン、ガッ!!
〈投石〉によりホーンラビットにダメージを与えることに成功。
しかし的が小さく、素早いホーンラビットは〈投石〉で戦うには強敵だ。
落ち着け、俺はゲームで何度もホーンラビットを〈投石〉で倒している。
ホーンラビットは〈投石〉四発で死ぬ。
こちらは十二回、角による突進を受けると死ぬ。
さあ、勝負だ。
ホーンラビットの突進を回避しながら、〈投石〉で攻撃する。
ゲームとは違う命がけの勝負。
手に汗握りながら、小石を投げる。
巾着の仲の残弾は十分にある。
しかしホーンラビットは俊敏で、なかなか〈投石〉を当てることができない。
俺は走り回りながら外した小石を拾い、投げる。
シュン、ガッ!!
二発目のヒット。
あと二発、当てれば殺せるはずだ。
――はぁ、はぁ。
息が荒い。
肺が潰れそうだ。
だが立ち止まれば、怪我をすることになる。
怪我をしたら動きが鈍るのは、想像に難くない。
そこはゲームとは違う。
この世界では、俺の命はきっと十二発も保たないのだ。
――一発でもくらったら、ヤバイかもな。
慎重にホーンラビットの突進を回避しながら〈投石〉を続ける。
魔物に逃げるという発想はないらしい。
長い時間、戦いは続いた。
実際にはそう長くはなかったかもしれない。
太陽は高いまま。
俺は四発目を当てて、無事にホーンラビットを倒した。
――死んだのか?
恐る恐る、木の枝でツンツンとホーンラビットをつつく。
動かない。
よし、死んだっぽい。
はぁ~、と息をついて、改めてフェアリーサークルに向き直る。
「妖精さん、妖精さん、どうか姿を見せてください」
ゲームではなんと呼びかけていただろうか。
具体的な描写はなかった。
ただフェアリーサークルを調べるだけで、何事か呟く演出とともに妖精が現れるのだ。
俺は祈りを込めて、妖精の出現を願った。
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