幼年期

2.俺の名はレイシア(♀)

 どうやら俺は死んだらしい。

 らしい、というのは、最後の記憶は救急車を呼ぶために電話をしたところまでだったからだ。

 きっと間に合わなかったのだろうなあ。


 今の俺はというと、五歳くらいのだった。

 TS転生という奴か。

 どうもとんだド田舎の農村に生まれたらしく、辺り一面、麦畑が広がっている。

 記憶によればこの少女の実家も農家であり、両親の他に兄ふたりと姉ひとりがいる四人兄弟の末っ子らしい。


「おーい、レイシア。手伝ってくれ」


 レイシア、それがこの少女の、今の俺の名前だ。

 俺を呼んだのは、父エドワード。

 どうやら麦を運ぶのを手伝えと言っているらしい。

 見れば、麦畑では兄姉たちが父の手伝いをしていた。


 俺は思考を打ち切って、素直に手伝いに加わる。


《小麦 素材 レアリティ0》


 突然、手にした小麦にウィンドウが重なるように表示されてギョっとした。

 これは……『トゥエルブ』のアイテム表示?!


 手伝いの手を休めることなく、レイシアの記憶を辿る。

 間違いない、この世界は『トゥエルブ』に酷似している!!


 大好きなゲームに転生したとあって、内心でテンションが上がった。

 そうか、それでTS転生か。

 何を隠そう、『トゥエルブ』は女性限定クラスが多い。

 逆に男性限定クラスというものはほとんどないので、プレイヤーの大多数は女キャラクターで遊ぶことになる。

 まあ性別制限を解除するアイテムを装備すれば、異性限定クラスにもつくことができるのだが、常時装備欄を圧迫するため女性キャラクターの方が圧倒的有利なのだ。


 ふむ、これは俺に無双しろということだろうか?


 小麦を運びながら、現状把握に努める。

 さすがに五歳の女児だ、何のスキルも持っていないようだ。

 つまり今できることは、歩く、走る、ジャンプする、――以外にも日常における動作は行うことができるようだ。

 そういえば街で食事をするのにスキルは不要だったし、アイテムを拾ったり持つのにもスキルは必要としなかった。

 ゲームシステムでできることや、省略されてきたことはスキルを割り当てなくてもできるらしい。


 ならば最初にすることは、クラスチェンジだな。

 というか初期クラスの選択だ。


 ……はて、メニュー画面もなしに、というかキャラクター作成を経ないで初期クラスに就くにはどうすればいいんだ?


 ゲームとの仕様の違いに頭を悩ませながら、俺は初期クラス選択の方法について色々と模索した。

 まずゲームのメニュー画面の表示だ。

 メニュー画面からクラスチェンジができるから、メニューさえ呼び出せれば問題は解決する。


 ヒントはあった。

 小麦のアイテム表示。


 『トゥエルブ』のキャラクターはアイテム袋に全種類のアイテムを99個ずつ収納できる。

 アイテム袋はメニュー画面から操作する。

 つまりアイテム袋があれば良いということになる。


 で、アイテム袋ってなんぞや。

 具体的な描写はゲーム中にはなかった。

 いや、最初にアイテム袋をする演出ならばあったはずだ。


 ――これは世にも珍しい、無限にアイテムを収納できる袋なのよ!!


 キャラクター作成時に妖精から受け取った演出。

 手の平に乗るくらいの大きさで、昆虫のような透き通った羽根が生えた女の子のグラフィック。

 そうだ、妖精を探すのだ!!

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