トゥエルブ ~TS転生した世界は俺がやり込んだゲームにそっくり!12のスキルでシナジーとコンボを駆使する~

イ尹口欠

プロローグ

1.ヒサメちゃんって誰?!

 『トゥエルブ』はソロアクションRPGである。

 タイトル通り、十二のスキルを割り当てて自分だけのオリジナルキャラクターを作成するのが楽しい、やり込みゲームだ。

 よっつのパッシブスキル、やっつのアクションスキルから構成されるキャラクターは様々なシナジーやコンボを生み出す。

 もちろん何も考えずに強力なスキルを割り当てるだけでも強いキャラクターは作成できるのだが、練りに練ったキャラクターにはどうしても劣るのがこのゲームの妙だ。


 ただし好き勝手にスキルを割り当てられるわけではない。

 幾多ものクラスチェンジを繰り返しながら、望みのスキルを習得していく必要があるのだ。

 現在就いているクラスと、どのクラスでも習得可能なノービススキルを組み合わせてSPスキルポイントを貯めて、望むスキルを習得し終えたら次のクラスへ。

 これを繰り返してキャラクターを完成に近づけていく。


 スキルを割り当てなくてもできる動作は、歩く、走る、ジャンプするくらいのもので、どのように武器を振り回そうとも、拳を繰り出したところで、スキルの割り当てがなければモンスターにダメージを与えることすらできない。

 最初は街の訓練所で最低限の戦闘用スキルを習得してから、街の外に出る必要があるのだ。


 俺はこのゲームを何百時間とやり込んで、全クラスのスキルを習得した。

 十二のスキルを割り当てた幾つものスキルセットを生み出し、その日の気分や受注するクエストによって使い分ける。

 スキルのコンプリートの次は、アイテムのコンプリートという果てしないやり込み要素もあって、今の俺はそれに挑戦している最中だ。


 携帯ゲーム機で発売されたタイトルなので、通勤途中の電車の中でも遊べるのが強みである。

 ソロゲーゆえに通信要素は一切ない。

 買い切りタイトルなので、課金要素も一切ない。

 近年発売されたコンシューマタイトルの中ではコスパ最強だと思っている。



 俺はいつも通り帰宅時の電車の中でアイテム収集に勤しみ、自宅最寄り駅に近づいたところでゲーム機をスリープモードにした。

 漫画、小説、アニメ、ゲーム。

 趣味に人生を捧げていることに不満も後悔もないが、結婚どころか彼女すらいない人生には、やや後ろめたいものがある。

 今どき未婚のまま生涯を終えるのは珍しくもないが、親不孝かな、とも思えるのだ。

 しかし可処分所得の大半を趣味に費やしてきた俺が今更、女性のためにお金をかけられるかというと、――難しいだろうなあと思うのも事実で。


 デート代やファッションにかけるお金は一体、どこから捻出すれば良いのだろうか。

 宝くじでも当たらないものか。


 アラフォーになってやや腹回りも気になってきた頃に今更、婚活とかできる気がしない。

 ああ、こんなことは早く忘れてゲームの続きと深夜アニメ、ネット徘徊をしつつ夕食と洒落込もうじゃないか。

 食事はコンビニ弁当だが。


 電車を降りて駅を出て、自宅への帰路の途中にあるコンビニに寄ろうとしたところで、俺は背後からの衝撃で前のめりに倒れた。

 脇腹に走る激痛に呻きながら、上体を起こしてぶつかってきた人物を見上げた。


「お――お前がヒサメちゃんのオトコかっ!!」


 は、誰?

 見知らぬ男が、血濡れた包丁を手にして鼻息を荒くして立っていた。


「こ、これは天誅だぞ! ヒサメちゃんは、みんなのアイドルなんだ……お前ひとりのものじゃないんだからなっ!!」


 いや、だからヒサメって誰……。

 ていうか痛い、その包丁についている血って俺の?


 男は不気味に笑うと、走って逃げた。

 ちょっと待てよ、救急車くらい呼んでくれ。

 ここ、人通り少ない道だから誰も――……。


 意識が遠くなる。

 スマートフォンを取り出そうとした手がポケットを探るが、うまく動かせない。

 べったりと手についた鉄錆臭い匂いにクラクラしながら、俺は救急車を呼んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る