第12話 今日の夢 仲吉町(なかよしまち)

 なかなかにリアルな夢を見ました。

せっかくなので少し脚本して、物語風に

仕上げてみました。


 私はいじめられている。小学校までは楽しく過ごせていたのに、中1の秋頃から徐々にいじめが始まった。


クラスメイトの少し派手なグループは、どうやらいじめる対象がいないとつまらないらしい。入学当初は、無口であまり喋らない大人しい女子を無視していた。


普通のグループに属して特にこれと言って目立つ要素もない私が、なぜか最近白い目で見られるようになった。同じグループの友人も心配するほどだ。


いじめる側は、私があまり気にしないでいる姿が面白くないらしい。そうなると顕著にいじめの行動が出てくる。


授業中、私の方を見てコソコソ耳打ちしたり、メモ用紙をこっそり回してはクスクス笑いあっていた。先生によく見つからないものだなと感心してしまう。クラスメイトはどう思っているか知らないが、自分が標的にされないように、見て見ぬ振りをするのが吉だと私は思う。


授業が終わり、友人達とお手洗いに行った。友人達はとても優しく、「気にしない方がいいよ。すぐ飽きて終わるよ。あの人達の行動がエスカレートしたら一緒に戦うよ!」などと声をかけてくれた。


教室に戻ると私の席は、いじめるグループの内の1人に使われていた。私の存在が分かると、横目でチラッと見るだけで何事も無かったかのようにおしゃべりを続けた。


友人は私の席においでと言ってくれ、残りの休憩時間はそこで過ごした。


相変わらずおさまらない、授業中の回し手紙とコソコソ話。気にしなければ良いのだが、どうしても視界に入ってしまう。自分がターゲットなので尚更のことだった。


物を隠されたり、壊されることは無かっただけ

まだマシなのかもしれない。


 友人達と分かれた下校途中のこと。歩いていたのは田舎道。竹林や田畑が広がっている。きっと刺激がないから、いじめで補おうとしてるのではと思う。


自宅に帰る道をポツポツ歩いていると、普段は気にもしなかった看板に目がとまった。


『仲吉町(Nakayoshi Mati)』


「仲吉町…?」


こんなところに古びた看板があったとは。今まで気づかなかった。聞いたことないから、きっとどこかの市の旧名称なのだろう思った。


山林の少し奥に、その看板があるので近づいてきてみた。 


すると、看板の裏に旧道なのか、枯葉の散らばったコンクリート製の道路が延びていた。軽自動車くらいなら通れそうな道幅だった。


下校途中の夕方とは言え、夏場なのでまだ日があり、木々の間から明るい光が漏れてくる。道路も人が頻繁に通るのか、砂埃にかぶっている訳ではないので歩きやすい。探検しているようで面白かった。


 山林の反対側に出たようで、景色は変わらぬ田畑が広がっていた。こちらは農作業している人が多いようで、少し賑やかだった。


歩いていると声をかけられた。


「おかえりなさい」、「今日もご苦労さまでした」、「今日も暑いね。バテていないかい?」


口調も優しく、かと言ってしつこく会話をしてくる訳ではない。居心地の良い空間だった。


もう少しこの町を散歩してみようかなと思っていた時だった。1人の女性に声をかけられた。


「あれ?見かけない子だね。隣町の子かい?」


母親と同じくらいのその女性は、スキニージーンズと白いシャツが似合う細身の女性だった。


私が、下校途中にこの町の看板を発見したことを伝えると、せっかく会えたのだからご飯食べていきなさいよと提案してくれた。


夢のせいなのか、自分の家族が心配するだろうとかは考えもしなかった。


女性について行くと、おしゃれな小さめの平屋に到着した。おじゃまをすると、ニコニコしたおばあさんが出迎えてくれた。


「あれ?お客さんかね?いらっしゃい。

うちはお嫁さんが帰ってくると、私と2人でお夕飯食べちゃうんだけど、一緒にどうかね?お腹空いてる?」


おばあさんが用意したのであろう、食卓には

おかずがならべられていた。


私は、おばあさんとお嫁さんと一緒にご飯を食べた。今日学校であったこと、お嫁さんの職場での話など、初対面とは思えないほど楽しい時間を過ごした。


けれど、私が「いじめ」というワードを発したら、おばあさんもお嫁さんもとてつもなく顔を歪めた。


慌てて会話の内容を自宅で飼っている犬にそらすと、何でも無かったかのように2人は笑顔に戻った。


そうしているうちに旦那さんとおじいさんが帰ってきた。2人は農家で、常に一緒に作業をしているらしい。表情はもちろんニコニコ笑顔だった。


「いらっしゃい。初めましてですね。ゆっくりしていってください」


旦那さんが話しかけてきてくれた。学校はどうだったなどと聞かれたものだから、また「いじめ」のワードを使ってみた。


すると、テレビを観ていたおじいさんも旦那さんも、台所にいたおばあさんも顔をしかめた。


この人達は「いじめ」が禁句なのかもしれない、そう確信した。


ふと窓の外を見ると暗くなっていた。


「もうこんなに暗くなっちゃったね。女の子が夜道歩くのは危ないから、お家まで送って行くよ。それとも、うちで一晩過ごすかい?うちは子供がいないからそうだと嬉しいなぁ」


おじいさんはニコニコしながら言った。


奥の台所からおばあさんとお嫁さんが出てきて、「それがいいわ。楽しくなりそうね」と盛り上がっていた。


お言葉に甘えて、一晩お泊まりをすることにした私はお風呂上がりに、お嫁さんから提案された。


「仲吉中に一日行ってみない?うちの町の中学校、きっと楽しいわよ」


現実ならありえないが、ここは夢の中なので

行ってみることにした私。


 次の朝、おじいさんと旦那さんが農作業に出かけるトラックで、中学校まで送ってもらった。


今朝電話で話はついているので、私の机と椅子が用意されていたのだった。


「おはよう。よろしくね!」


「どこからきたの?」


「一緒に学校回ろう」


「今日からうちの中学校通う?」


みんな優しい言葉をかけてくれた。


クラスのボスは誰だろうと、授業中も観察していたが、見当たらない。それどころか、ターゲットにされている人や暴言など嫌な空気すら無かった。


1人のクラスメイトに昼休みに聞いてみた。


「もしかしていじめみたいなものは無いの?

みんな仲が良いんだね。びっくりしちゃった」


やっぱりだ。


「いじめ」のワードでみんな顔が歪む。


昨日の様子からいじめが無い前提で話してみたが、それでも顔が歪んでしまうらしい。してるしてないに関わらず、言葉自体がダメなようだった。


逆に怖くもあるが、やっぱり集団生活においては、みんなが優しく温かく笑顔であることが1番快適に過ごせる。そう実感した。


自分から良い雰囲気を出さなければ、何も始まらない。他人が悪くても自分だけは、仲吉町の人々のようになりたいと思った。


 下校は同じクラスの女子5人と一緒だった。

一応お世話になった家族の元へ帰ることにした。


動画や話題のスイーツ、今日の課題など

至って普通の話題を話しながら、田畑の中を歩いた。唯一違うのはみんな笑顔。誰1人不満や愚痴をこぼす者はいなかった。


途中でそれぞれ自分の通学路になるため、私は1人で歩くことになった。


昨日は仲吉町の看板を見つけて良かったな。隣町にまさかこんなに良い人々がいるなんて知らなかったなと、ぼうっと歩いていた。


今日帰ったらみんなにお礼を伝えて、本当の家に帰ろうかなと考えていた。


すると、遠くの方で声が聞こえた。


「あっっ。どこ行ってたの?????」


すごい甲高い声で裏返ってしまっている。

私の母だった。


犬の散歩を兼ねて私の捜索をしていたらしい。

走り寄ってきた母は、すごいクマで涙がぼたぼただった。


自宅に戻り、母の話を聞くと反省した。

無断で他の家にお世話になり、他の学校まで行ってしまうのは、大きな心配ごとになってしまう。捜索願も出していたようだった。


私の出来事を家族全員に話すと、理解に苦しむようだったが、私の様子を見てみんな信じてくれた。


 次の日学校に行くと、友人達は駆け寄って心配してくれた。学校にも私の行方不明報告が届いていたので、クラスメイトは知っているらしかった。


いじめるグループは白い目で見たり、コソコソ話でニヤついたり、平常運転だった。


けれど、私はもう違う。


あんなに素敵な町を、人々を知ってしまった。


私の席を占領して、足を組みながらおしゃべりをしているいじめっ子達に言った。


「おはよう!昨日無断で学校休んじゃった。心配かけてごめんね。私ここ座るから移動してくれると嬉しいなぁ〜」


目を丸くしながら席を譲ってくれた。


「邪魔しちゃってごめんね。席ありがとう」


私はお礼も忘れない。


みんな「何があった?」と言わんばかりの表情をするがこれで良い。


良い雰囲気は私からも作ることができる。

自分の居心地が良ければ、一緒にいてくれる人も嬉しいはず。


結局、その日はみんな私の変わりように

驚いてばかりだった。


下校途中、お世話になった人々にお礼を伝えたくて仲吉町へ向かうことにした。


同じ通学路のはずなのに、仲吉町の古びた看板はどこを探しても見つからなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る