第9話 夜道のお散歩
田畑と住宅で埋め尽くされている土地をお散歩しています。
その真ん中を割くかのように線路があり、踏み切りがちょこちょこ存在するのですが、この踏切の音が何とも言えない奇妙感を醸し出しています。
カンカンカンカンカンと音と共に降りてくる
棒も年季が入っていて恐怖すらあり、つい線路の向こう側の誰もいない道を見てしまいます。
そんな怖さも、周りの住宅の灯りを見るとホッとします。
あまりジロジロ見るのも気が引けるのですが、
それぞれのお家の灯りを見ては、そのお家のストーリーを想像しながら歩くのが好きです。
同じこの夜、この瞬間に、みんな別のことをして過ごしている、当たり前なのですが私にとっては興味深いことなのです。
暗くて肌寒い、この広い空間に、ミニチュアドールハウスが並んでいるかのような気分になります。
時々すれ違う車は、交通量がほぼないことを知っているせいか、小道にしては迷いのない速いスピードで走っています。
きっとこの辺りに自宅があり、早く帰りたい気持ちを乗せながら、この箱庭迷路を進んでいるのでしょう。
この地域の電車は、田舎にしては高頻度で
電車が通ります。
よく1時間に1,2本というお話もありますが、
30〜60分程のお散歩で、3〜6本くらい電車を
見ている気がします。
乗客はあまりいないようで、制服姿の学生や
大人がちらほら乗っているくらいです。
私が高校生の頃、駅前の塾に通い終電を
よく利用していたので、学生を乗せて走る箱庭が、私を一瞬で懐かしい思いに浸らせるのです。
突然やってくる踏切のカンカンカンカンという音が聞こえてくるとハッとします。
私の隣を歩いているのは主人で、地に足をつけているこの土地は、嫁入り先の新しい土地。
このお散歩道は、高校生の時から丸10年は経っていることの不思議さに加えて、その間のストーリーはどれも濃くつい昨日のような感覚であるのに、今日までセーラー服を着ていた気持ちになるのです。
私は最近あることに気がつきました。
それは、このお散歩中に1度も後ろを振り返ったことがないないということです。
何か本能的なものなのでしょうか。
それともただの偶然なのでしょうか。
これに気づいてしまったからには、今後も
後ろを振り返りづらくなってしまいました。
もし、無意識に振り返ったら何かあるのでしょうかね。
まさかとは思いますが、お散歩に行くときには
きっと忘れていて、また、前だけを見て主人と
箱庭迷路をぐるぐるするのだと思います。
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