第61話「消える死体と蘇る死体」
スーロンの協力を得、冒険者ギルドにことの顛末を報告したアウクシリア。
信じてもらえないかもしれない、と思っていたモンスターの死体の消失だが、しかしギルドの反応はフランチェスカの考えていたものとは違っていた。
「死体が消えた? こちらもですか……」
「こっちも……? とおっしゃいますと、他でも死体が消えたモンスターがいたのですか?」
「ええ。これはまだ実力のある四つ星以上にしか伝えていない情報ですから、取り扱いには十分注意してくださいね。
実は、大陸の東にあるアヴァルス帝国で、同じように倒すと煙のように消えてしまうモンスターが発見されたんです。一体一体が強い上に、数も多い。おまけにいくら倒しても減っていかない。しかも、冒険者の中にも戦いたがらない方も増えています」
「四つ星以上の冒険者にしか伝えられていないのですよね? それなのに恐れている方がいるというのは……」
「いえ、信じられないのも無理はありませんが、事実です。まあ、冒険者の皆さんの気持ちはわからないでもありません。
何しろそのモンスターというのは、人から肉をすべて削ぎ落とした、骨格そのものの姿をしているのですから」
「ひ、人の……骨……?」
「ええ。人間の骨にしか見えないモノが、まるで生きてるかのように動き回っているのです。
アウクシリアの皆さんが調査した緑の小人も気持ち悪いですが、人の骨がそのまま動いているかのようなモンスターも十分に気持ち悪いものですよ」
そんなモンスターも出現しているのか。
人の骨を模したようなモンスターとなると、少し引っかかるというか、嫌な想像が膨らんでしまう。
初めて発見されたモンスターである【燃え盛る悪夢】も、以前にアウクシリアが戦った【グール】も人型であり、どちらも元は普通の人間だった。
となると。
「……もしや、その骨のモンスターというのは、人間が変異したもの、なのでは」
フランチェスカがそう問うと、ギルド受付の見目の良い男性はさっと辺りをうかがい、声を潜めて答えた。
「……ええ。その通りです。と言っても、燃え盛る悪夢やグールのように生きた人間を変異させるわけではありません。死んでしまっており、それもしばらく時間が経ったものを変異させるのです」
「亡くなって……しばらく経った遺体?」
「ええ。報告によれば、村の共同墓地の墓石の下から次々と骸骨が這い出してきたそうです。村人が認識している墓地の故人より現れたモンスターの方が多いという話なので、もしかしたら村人たちさえ記憶していないほど昔の遺体もモンスターと化しているようですね。骨として形を保っている遺体であれば何でもいいのかもしれません」
「お墓から……そんな……なんて冒涜的な……」
「そういう事情ですから、開拓村では被害はあまり出ていません。帝国でも歴史の古い村や町で被害が出ているようです。帝国も現在の王国ほどではありませんが、あまり自国の情報を出しませんからね。冒険者ギルドも少ないですし……。おっと失礼。王国と比べて話すのはアウクシリアの皆さんには不快でしたか」
「……いえ、そのようなことは」
この受付担当はアウクシリアがプリムス王国から出奔したことも知っているようだ。冒険者ギルドの全職員に連絡が行っているとも思えないので、もしかしたらこの担当も王国から異動してきたのかもしれない。
「まあ、遠い帝国の話はいいでしょう。
それよりも、調査依頼お疲れ様でした。今回調査・討伐いただいたモンスターは、目撃情報はたくさんありましたが、討伐したという報告はまだありませんでした。ですので、命名権はアウクシリアの皆さんにあります。いかがいたしますか?」
「あ、それについてですが、実際に討伐したのは私たちではなく、協力してくれた方なんです」
新種に命名するというのは、冒険者にとってはひとつの目標だ。最近は毎月のように新種のモンスターが現れるため感覚が麻痺しているが、新種の魔獣など、本来なら数十年に一種見つかるかどうかなのだ。
新分類のモンスターだとしても、付けた名前が未来永劫伝わっていくことに変わりはない。
その栄誉を、恩人のスーロンから奪う気はアウクシリアの面々には無かった。
「そうでしたか。その方は冒険者なのですか?」
「いえ、違うとおっしゃってました」
「でしたらやはり、命名権はアウクシリアの皆さんにあります。魔獣やモンスターの名前というのは、あくまで冒険者ギルドが記録や研究のために付けているに過ぎません。冒険者ギルドに登録していない方が名前を付ける理由がないのです。付けたければ、冒険者ギルドとは関係ないところで好きに付ければいいのですよ」
「あ、そうなのですか。いえ、でも、それはさすがに、なんというか」
「まあ、何でもいいですけどね。名前についてその方と協議したいのでしたらお好きに。とりあえず、調査依頼は達成ということで処理は進めておきます。五つ星、おめでとうございます。今回の調査結果はかなり貢献度が高いので、六つ星昇格も近いと思います。また詳細が決定しましたらご連絡いたします」
◇
命名のことだけでなく、今後のことについてもアウクシリアとスーロンとで話し合った。
その結果、スーロンへの恩返しのため、アウクシリアはしばらくスーロンの調べ物に協力をすることにした。
スーロンは「決戦魔術具」について調べている。
あの魔術具はプリムス王国で開発されたものだ。その詳細を知る人物は、今やネグロス・ヴェルデマイヤーしか残っていない。
そして、そのネグロスはおそらく王国が匿っている。
スーロンが決戦魔術具に辿り着くのは、おそらく不可能に近い。
だが不可能ではないかもしれない。
その、ほんのわずかな可能性を現実のものにできるとしたら、それは出奔したとは言え、王族であるフランチェスカが協力したときだけだろう。
フランチェスカたちはスーロンを連れ、あの忌まわしきプリムス王国に戻ることを決意した。
なお、新種のモンスターの名前は「何でもいい」と言われたので【邪妖精】に決まった。
★ ★ ★
【ロード・オブ・スカルデッド】
召喚コスト :闇闇闇無無
攻撃力 :150
耐久力 :200
カテゴリ :【骨】【キング】【アンデッド】
特殊能力 :
【スカルアニメイト】
〈アクティブ〉一ターンに一度、闇マナを三マナ消費することで発動できる。自分または相手の安置所及び地下墓のクリーチャーカードを任意の枚数デッキに戻し、戻した数だけ自分フィールド上に『スケルトントークン』(攻撃力10、耐久力10、カテゴリ【骨】【アンデッド】)を召喚する。
【スケルトンを統べる者】
〈パッシブ〉このカードがフィールド上に存在する限り、自分フィールド上のカテゴリ【骨】を持つ全てのクリーチャーは攻撃力と耐久力が30アップする。
──これは私のこだわりなのだけれどね。スケルトンにするなら、エルフ以外の種族がいい。いや、もちろんエルフの死体しか無いのであれば仕方がないが。理由? 決まっているだろう。エルフは細身で足が長いからだ。それが骨だけになってしまうと……わかるだろ? 何か貧相に見えるんだよ。足が短い人間よりもさ。
★ ★ ★
次回から久々に黒狼くんパートです。
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