第60話「誤解」
「スーロン様、とおっしゃるのですね。助太刀いただきありがとうございます」
森から現れた美しい女性は、あっという間に小型モンスターたちを倒してしまった。
武器らしきものは持っておらず、格闘術と魔術を駆使して小型モンスターを次々と討ち倒していった。
格闘術の鮮やかさも然ることながら、その魔術もフランチェスカの知らない高度なものばかりだった。
寡聞にして知らない名前だが、さぞや高名な術師なのだろう。
フランチェスカはスーロンと名乗った女性をそう判断した。
「……またも死体が消えた……か。有り得んな。それに、あの醜さも……とても我が主がデザインした生き物とは思えん。明らかな異常だ……」
名乗った後、スーロンは何かを呟いていた。フランチェスカにはよく聞こえなかったが、死体が消えたことを不審に思っているようだ。それに、モンスターが消えた跡を憎々しげに睨みつけている。きっと人を襲うモンスターに憤りを感じているのだろう。
スーロンは、その強さ、美しさに加え、高潔さも持ち合わせているらしい。
高名な術師ともなれば、その人格も洗練されるものなのだな、とぼうっと考えた。
なぜ、ネグロス・ヴェルデマイヤーはこう在れなかったのだろうか。
消えた醜悪なモンスターと、それを睨みつける高潔な魔術師の対称的な光景に、フランチェスカはやり場のないもやもやしたものを感じていた。
◇ ◇ ◇
「ほう。フランチェスカ殿たちは、冒険者なのか。ふつう、冒険者というのは五人程度の人数で活動していると聞くが、三人で同じ働きができるのなら、フランチェスカ殿らは優秀なのだな」
人間にしては、という言葉は飲み込んだ。
スーロンがそう言うとフランチェスカたちは一様に悲しげな表情を浮かべた。人間はとりあえず褒めておけば喜ぶものだと思っていたが、間違っていたのだろうか。それとも褒め方が足りなかったのだろうか。
褒めれば喜ぶが、足りないと悲しむのが人間、ということか。実に面倒くさい。
スーロンは今後、安易に人間を褒めるのはやめようと思った。
続けて話を聞いてみると、フランチェスカたちは【アウクシリア】というパーティ名で活動している四つ星の冒険者らしい。今しがた滅ぼした、醜い化け物の調査依頼を受けていて、これに成功すれば五つ星に昇格できるとのことだ。
人間に扮し調査をしてきた過程で、冒険者というシステムについても、市井の民が理解している程度ではあるが学んでいる。
それによれば、彼女たちの若さで五つ星なら相当な実力者であり、将来有望であると言えよう。
なるほどそれほどの才能を持っていたのなら、多少の褒め言葉では悲しくなるのも仕方ないのかもしれない。
「そうだったのか。フランチェスカ殿たちにとっては、単に優秀という評価だけでは不足であったようだな。
御三方ほどの才能があれば、きっとすぐにでも六つ星パーティになれるだろう」
フランチェスカたちの年齢で、しかもたった3人という人数で五つ星への昇格が叶うのであれば、そう遠くない未来に六つ星にまで上り詰めてしまうだろう。頂点の七つ星がある意味では政治の道具になってしまっている現状、六つ星というのは冒険者にとって最高到達点だ。
それを仄めかしてやれば、さすがに喜んでくれるはず。
スーロンはそう考え、自信を持ってフランチェスカらを褒め称えた。
ところが、それを聞いたフランチェスカたちは悲しげな表情にさらに悲痛なものを滲ませた。
これでもだめなのか。解せぬ。なんなんだこいつら。
スーロンは今後二度と人間を褒めるのはやめようと誓った。
◇ ◇ ◇
五つ星昇格がかかった依頼は、新種のモンスターの調査である。
フランチェスカたちを襲い、スーロンに倒されたあの醜い小人たちが、おそらく開拓村を壊滅させた新種のモンスターだろう。
残念ながら死体は消えてしまったが、それも含めて、調査結果として報告はできるはずだ。
「スーロン様。助けていただいておいて厚かましいかとは思いますが、あのモンスターについて、私たちと一緒に冒険者ギルドに報告していただけないでしょうか」
フランチェスカたちが観察したことについては正確に報告できる。しかし実際に倒したのはスーロンであるし、死体が消えたという摩訶不思議な現象については、第三者の口添えがあったほうが助かるだろう。フランチェスカたちだけでは夢でも見ていたのかと信じてもらえない恐れもある。
完全にフランチェスカたちの都合なので申し訳ないが、この依頼の報告さえ終われば、助けてもらった礼も兼ねてスーロンの目的を手伝ってもいい。
「ふむ。フランチェスカ殿らに付いて町まで行けばいいのだな。そこであの醜悪な者どもの情報について話せばいいと。構わんよ。この森ですべきことも終わったところであるしな」
「ありがとうございます。ところで、スーロン様はこの森で何を? もしよろしければ、お助け頂いたお礼とお付き合いいただくお礼として、スーロン様のお仕事をしばらくお手伝いいたしますが……」
「む? それは……ありがたいが。この森でしていたのは、そうだな、生物調査のようなものだ。それも、フランチェスカ殿のような冒険者がしているような魔獣やもんすたー? の調査ではなく、ほんの小さな虫の調査だがな。さっきも言ったが、この森での調査は終わったところだ。次はまた別の森で少し調べることになるが……その調査自体は別に助けは必要ない。の、だが……ふうむ……」
虫の調査、と聞いて、フランチェスカもジェニファーもナディアも内心肝をつぶした。
恩人のためならば、と思ってはいても、さすがに苦手な虫をつぶさに調査するというのは身が竦む。
幸い、というのはスーロンに失礼であろうが、どうも虫の調査はひとりで十分らしい。
「ス、スーロン様。虫の調査以外に何か困り事がお有りなのですか?」
「ああ、うむ……。実はな。あまり大きな声では言えないのだが……。あくまで噂だが、決戦魔術具、というものが最近使われたのではないかという疑いがあってな。私はさる筋のお方から、その噂の真偽について調べるよう命を受けているのだ。そしてもしその噂が真実ならば、決戦魔術具を破壊するように、とな」
フランチェスカたちは雷に打たれたかのような衝撃を受けた。
彼女らが祖国を出奔したのも、まさにその決戦魔術具を、より正確に言うならば、決戦魔術具を開発し、使用したかもしれないネグロス・ヴェルデマイヤーを匿う祖国に見切りをつけたからなのだ。
この出会いは運命なのか。祖国の闇は王族であるフランチェスカ自身が払えと、そう神が示唆しているのではないのか。
フランチェスカはそう感じていた。
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