第62話「呼べないカード」

 半年も時間があればいろんなことが試せるし、いろんなところへ行ける。

 いろんなところでいろんな実験をした黒狼は、現在は大陸北方のエレジア共和国という国にいた。

 理由は涼しいからである。日本ほどの明確なものではないが、この大陸にも四季があり、そろそろ暑くなってくる季節なのだ。


 ともあれ、度重なる実験の結果、黒狼はある程度【ストレージ】とその中から現れるカードの仕様について理解を深めることができた。

 ただ、逆に理解ができないことも増えた。

 そのひとつが、「召喚できない【ネームド】クリーチャー」である。


【ネームド】の面倒くささについては【仮面の忍者 マスクドバイケン】で身にしみていた。

 ひとりならまあ、楽しいと言っていいだろう。おかげで退屈せずにすんでいる実感はある。

 しかしこんなのがもし二人も三人もいたとしたらどうだろうか。とても相手などしていられまい。

 カルタマキアのカードたち、特にクリーチャーカードの性格や行動原理は、その特殊能力とフレーバーテキストに強く影響を受けていることがわかっている。【ネームド】の中には、フレーバーテキストを見ただけでもウンザリしてしまうようなクリーチャーもいる。

 それを考えると、いかに有用とは言え迂闊に【ネームド】を召喚する気にはなれないのだ。


 しかし全ての【ネームド】がそうではない。

 中には特殊能力もフレーバーテキストも、一見まともそうに見えるクリーチャーもいる。

 そして黒狼も熱心なカルタマキアプレイヤーだっただけあり、お気に入りのカード、いわゆる「マイフェイバリットカード」があり、まともそうな【ネームド】の中の一枚がまさにそれであった。。


「……ちっ。やっぱダメか。なんで、召喚できねェんだ……。【魔導少女 プリティ♡プラム】……」


「──ん? なんか言ったでござるか? 黒狼殿」


「なんも言ってねェよ。あっち行ってろ。ほら、道端にタンポポ咲いてんぞ」


「あ、ほんとでござるな! タンポポコーヒー作れるでござるかな? ていうかこれ本当にタンポポなんでござるかな……? 似てるだけの別の植物なのでは……? 異世界でござるし」


 そんなことは知らない。


 ともあれ、今のところ、召喚できなかったのは【魔導少女 プリティ♡プラム】だけだ。

 他の多くのクリーチャー召喚でも同じことが言えるのだが、クリーチャーを召喚しようとカードを手にした時、召喚できるかどうかはプレイヤーである黒狼には何となくわかる。

 これまでは「召喚できない」カードがなかったため、「召喚できない」と感じた【魔導少女 プリティ♡プラム】のカードを手にして初めて判明したことでもある。


 元々、カルタマキアでは「コストの空売り」のようなプレイングはできないよう、ルールで禁じられていた。

 これは、一部のカードに追加コストとして記載がある、例えば手札のカードを安置所に送ったり、フィールドのカードを手札に戻したりといった行為を、安易に行わせないためだと思われる。場合によっては、それらの追加コストの支払いがメリットになる可能性もあるからだろう。

 ゆえに、本来発動するべき効果を無視してコストだけを支払うようなプレイは禁止されている、というわけだ。


 クリーチャーの召喚にもコストの支払いはある。

 ルール的に召喚不可能なクリーチャーを召喚しようとした場合、不発に終わるとわかっていながらコストだけ支払うことはできないわけだ。

 これは、かつて龍の遺体に対し【慈悲の一撃クーデグレイス】を発動した時とはまた状況が違う。あの時は、「すでに破壊されているが処理の順番の都合でフィールド上に残ったままになっていた状態」だと黒狼が勝手に解釈した対象に対してマジックカードを発動した。そのため不発にはならず、結果的に効果は未解決のまま処理されたが、コストだけ正常に支払われている。

 どう違うのかと聞かれると「カード及び状況が違います」としか言いようがないのだが、カードゲームとは往々にしてそういうものである。


 ともかく、プレイできないとわかっていてコストだけ支払うような真似は基本的にはできないのである。

【魔導少女 プリティ♡プラム】を召喚しようとした時、黒狼にははっきりと「これは召喚できないな」という感覚がわかった。そして、今もその状況は変わっていなかった。

 召喚できないその理由として最初に思いつくのは、召喚条件が満たされていないことだ。しかしプリティ♡プラムは特に面倒な召喚条件は設定されていない。

 となると、次に思いつくのは【ネームド】のみに適用される基本ルール。同名の【ネームド】はフィールド上に一枚しか存在できない、というもの。

 すでにこの世界に【魔導少女 プリティ♡プラム】が召喚されているとしたら、召喚できなくても不思議はない。

 が、それは有り得ない。

 だからこそ「理解できないこと」として悩んでいるのだった。


「……まァ、いいか。召喚できないもんはしょうがねェ。おい、バイケン。道草食ってねェで行くぞ」


「別にマジで草食べてるわけじゃないでござるよ! コーヒーにできるかなーって考えてただけでござる! 待つでござるよ黒狼殿!」





 ★ ★ ★


【魔導少女 プリティ♡プラム】

召喚コスト :炎光無無無無

攻撃力   :300

耐久力   :250

カテゴリ  :【ネームド】【魔導少女】【人型】【犬】【獣人】【女性】

特殊能力  :

【プリティ・ボム】

〈アクティブ〉一ターンに一度、自分または相手のターンに発動できる。フィールド上のクリーチャーが特殊能力を発動した場合、その発動を無効にし破壊する。

【魔導少女の嗜み】

〈パッシブ〉このカードに装備アイテムカードを装備する場合、あらゆる制限や条件を無視して装備することができる。


──プリティ♡プラムは魔導少女である。彼女を改造したモナーケは世界制覇を企む悪の秘密結社である。魔導少女は人間の自由のためにモナーケと戦うのだ!

これは、こことは異なる世界線において、秘密結社モナーケと戦う宿命を背負った魔導少女たちの、愛憎と死闘の物語である。

プリティ♡プラムは魔導少女へ改造された際、この世のあらゆる魔導具とリンクできる能力を付与されている。




 ★ ★ ★


全然関係ありませんが、プラムってのは梅のことですね。梅……犬……うっ頭が(

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