第51話「疲れやすい。それ、糖(に似た結晶)のせいかも」
バイケンが掲げたカードは【龍婚】。追加コストとして、手札から、カテゴリに【女性】、【性別不詳】、【正体不明】のいずれかを持つクリーチャーカードを一枚
フレーバーテキストを見るに、龍を魅了し結婚をチラつかせることで言うことを聞かせる、ということらしい。【男性】ではコストにならないところから、想定されていた龍はオスであろうことがうかがえる。
しかしながら【女性】ではなく【性別不詳】や【正体不明】でもオーケーということは、女性の可能性がワンチャンあれば魅了されてしまうということである。何なら、カルタマキアにおいては女装しているクリーチャーには例外なく【性別不詳】カテゴリが設定されているので、男の娘なら100%コストにできる。
龍の性癖どうなってんの。
さておき、その効果は「フィールド上の【龍】カテゴリを持つクリーチャー一体のコントロールを、そのクリーチャーの行動で五回分得る」というものだ。この効果は対象が「対象にならない」効果を持っていたとしても対象にできる。対象耐性を持つ【龍】専用のコントロール奪取カードである。
行動五回分とは、戦闘行為や特殊能力の発動など、累計で五回分までは自由に行えるということである。戦闘行為には反撃も含まれる。例えば、その龍で一回相手のクリーチャーを攻撃し、一回特殊能力を使いターンを終了させた後、相手の攻撃を三回受けて反撃したら効果が切れてコントロールが戻る、といった感じだ。
「あ、拙者クリーチャーカード持ってないでござる。一枚貸してくれんでござるか?」
「あァ。そうだったな。他にも追加コストあるカードって渡してたっけ。ついでに貸してやるぜ」
黒狼は【ストレージ】から何枚かのクリーチャーカードを取り出してバイケンにわたす。そして、ふとそれらのカードをバイケンが召喚することができるのかが気になった。
(……いや、まずアイテムカードやマジックカードの発動が確認できてからだな。もしできるようなら、バイケンの子分として使えそうな適当なクリーチャーカードでもやるか)
もしバイケンにもクリーチャーカードのプレイが可能だとしたら、バイケンが召喚したクリーチャーにも同じことは可能だろう。そうなれば、以前に気になった「放逐したクリーチャーが受けた戦闘ダメージ」の超過分を誰が受けるのかの実験を安全に行えるかもしれない。
「おお、ありがとでござる! しからば……【龍婚】発動! でござる!」
バイケンが宣言すると、掲げた【龍婚】のカードが光を放ち、消滅した。同時に、手の中のコスト用のクリーチャーカードも光と共に消えていく。
そしてむず痒そうに身を捩る黒狼。【ストレージ】の中の安置所に二枚のカードが送られたせいだ。
【龍婚】のカードが手札から消え安置所に送られた以上、カードの効果は確実に発動したはずだ。
しかし、宿屋の跡地を執拗に攻撃する龍には特に変化は見られなかった。
「……不発でござるかな? それともやっぱり拙者ではマジックカードの発動はできないでござるか?」
「いや、発動したのは間違いねェ。不発もまァ有り得んだろう。発動した以上、あいつが【龍】カテゴリなのは確かだな。効かなかったのは、たぶんだが……あの龍は、『コントロールを変更することはできない』みたいな効果を持ってるのかもしれねェ。本来の主以外に仕える気はねェとか、そんな感じなんかな」
「主、でござるか? てことは、あの龍、誰かの命令を受けてマナ結晶にちょっかいかけに来たってことでござるか?」
「……なるほど、そうなるのか? いや、コントロール耐性がイコール主人が存在しるってことになるのかどうかはわかんねェけど」
自分自身以外からの命令は絶対に受けない、などの超自己中という可能性もあるが、単なる自己中が果たしてカルタマキアのカード効果を押しのけるほどの特殊能力になりうるのかどうかはわからない。
バイケンの言う通り、カルタマキアのルールに対抗できるだけの力を持った上位存在があの龍のバックについていると考えたほうが妥当な気もする。
「ま、コントロール耐性があるってんならしゃァねェ。破壊するしかねェな」
「で、ござるか……。ラジコンドラゴン略してラジゴンとか面白そうだと思ったでござるが……」
「なんだよソレちょっと面白そうじゃねェかよ。つかラジコンあんのかよ和の国。技術テーブルどうなってんだよ飛ばしちゃいけねェツリーいくつか飛ばしてんだろそれ……」
じゃあ次はどれにするでござるかなー、などと呟きながら、バイケンは手札に集中した。
破壊するのなら安心と信頼の【
あのカードは【龍】カテゴリよりも登場が後なだけあり、破壊耐性を無視して対象を破壊することができる。対象耐性を持っていると厄介だが、それはまた別の対【龍】カードで引っ剥がせばいい。
そう考えながら龍を眺めた黒狼は、違和感を覚えた。
「……んん? なんか、あいつ高度落ちてねェか?」
「そうでござるか? よくわからんでござる」
握りしめた手札を凝視したまま顔すら上げずにバイケンが答える。
「せめて見てから言えや。つーか、ブレスもなんか、最初のブレスは寝起き一発目って感じの勢いだったのに、今はジジイのションベンみてェになってるし、全体的に疲れてきてねェか?」
「ちょっと、例えが下品でござるよ! あー。でも確かに、でござる。そう言われてみると、何かすごい位置低いでござるな」
「おお、気の所為じゃねェなこれ。高度が下がる勢い上がってるわ」
「下がってるのか上がってるのかどっちでござる」
「下がり方が上がってるって言ってんだろ。だから下がってんだよ」
「あ、ていうかもう──」
バイケンが最後までセリフを言い切る前に、ズン、という地響きを立てて龍は地面に落ちた。
宿周辺しか壊滅していなかったメディアードの町は、龍の巨大な体躯により四分の一ほどまで壊滅することになった。
★ ★ ★
【龍婚】
発動コスト :光光光闇
追加コスト :手札から、カテゴリに【女性】、【性別不詳】、【正体不明】のいずれかを持つクリーチャーカードを一枚
カテゴリ :【龍】【メルヘン】【和の国】
通常魔法 :
このカードは一ターンに一枚しか発動できない。
フィールド上の【龍】カテゴリを持つクリーチャー一体を指定して発動できる。そのクリーチャーのコントロールを、そのクリーチャーの行動で五回分得る。
(そのクリーチャーによる攻撃、そのクリーチャーが受けた攻撃への反撃、そのクリーチャーの特殊能力の発動、以上のいずれかが行われたとき、一回行動したとみなす)
──その昔、エノシマっちゅうところに、悪さをする龍神さまがおわしてなぁ。村のみんなはたいそう困っておったんじゃ。そこにそれはもう美しい天女さまが現れて、龍神さまは天女さまに一目惚れなさった。天女さまは悪い龍神とは結婚できないと仰られて、それから龍神さまは良い龍神さまになられたというわけじゃ。その龍神さまには、五つの首があったと言い伝えられておる。この呪いは、その言い伝えになぞらえて構築されておるんじゃよ。
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