第45話「お前や! 2」

「──だぁかぁらぁ! コソコソすんなっつってんだよ! 貴族だかなんだか知らねーけどよお、ロクに功績もなしに顔も見たことがねえ奴がいつの間にか二つ星だなんて、真面目にコツコツやってる俺らが納得できるわきゃねーだろうがよ!」


 いつも通り適当に討伐依頼をこなし、冒険者ギルドに戻ってきた黒狼たちは、カウンターに詰め寄って騒いでいるガラの悪い冒険者を目にした。


「なんの騒ぎでござろうなぁ」


「わからんが……。貴族とか言ってやがんな。話の内容からすっと、貴族が横紙破りで冒険者ランクを上げてんのかな。貴族が冒険者なんかになっても何の得もなさそうなんだが、そんなことあるんだなァ」


「お忍びで世直しでもしてるんじゃないでござるか? 将軍様が身分を隠して下町のイザコザを解決するために暴れまくるとか、割と王道の物語でござるよ。暴れん坊のジェネラルロードでござる」


「あわてんぼうのサンタクロースみてェな言い方するんじゃねェよ」


 いずれにしても、黒狼たちには関係のなさそうな話である。無視していつものイケメン受付に討伐証明を渡した。


「お疲れ様でした。あ、おめでとうございます。今回の依頼達成で必要分の功績が溜まりましたので、三つ星にランクアップできます。いかがしますか?」


「おー。順調だな俺ら。それはなんか試験とかねェの?」


「ありますが、三つ星までなら職員の裁量で免除も可能です」


「じゃ免除しといてくれ。面倒だ」


「かしこまりました。当ギルド支部史上、最速での三つ星到達になりますね」


「良いでござるな。目立つことなく最速記録達成。いかにもデキる忍者っぽいでござる」


 その感覚は黒狼にはよくわからない。が、バイケンのセンスはよくわからないものばかりなので、いちいち気にしたりはしない。

 仕事を終えたふたりは定宿に戻って休み、翌日からは三つ星の依頼を適当にこなしていくのだった。



 ◇



「おいいいいい!? 俺ら、この間言ったよなぁ!? 貴族だからって忖度してランク上げたりするのやめろってよお!? だってのに、この間の今日でなぁんでいきなり例の連中が三つ星になってやがんだよ! おかしいだろうが!」


 数日後、黒狼たちがギルドに行くと、先日のガラの悪い冒険者たちが今度は朝から喚き散らしていた。

 どうやら、彼らが目の敵にしている貴族とやらが三つ星にまで昇格してしまったようだ。

 この冒険者ギルドでは、冒険者たちに身分証明のためのタグは配布しているものの、昇格のたびにいちいち取り替えたりはしない。ではどうやって各冒険者の星の数を証明しているのかというと、壁に貼り出された名札である。

 イメージとして一番近いのは、寿司屋の壁掛けお品書きだろうか。「本日のおすすめ」の横に「マグロ」「ハマチ」「イカ」と並んで壁に掛けられている光景を見たことがある日本人は多いだろう。

 このギルドでも、壁に星の数が書かれた札が掛けてあり、その隣から人の名前がずらりと並んでいるのだ。

 たとえば星が三つの札の横には、黒狼たちのも含め十人ほどの名札が並んでいる。その名札に書かれている人物がこの支部に所属している三つ星冒険者というわけだ。

 個人情報保護精神の欠片もない対応だが、この世界ではプライバシーより全体の合理性の方が優先されているのである。

 ちなみに四つ星以上の冒険者になると、いわゆる高位冒険者と呼ばれるようになり、支部の垣根を越えて頼られることもあるため、個人で証明のタグを持つようになる、らしい。

 そうなったとしても四つ星に認定された支部には名札が残る習わしがあるらしいが、見たところ壁には三つ星までの名札しかないため、この支部から四つ星以上の冒険者が生まれたことはないようだ。


 黒狼は言葉遣いこそある程度流暢になったものの、文字を書いたり読んだりするのはまだ完璧ではない。普段はバイケンや受付嬢が黒狼の代わりに読み書きを行っている。

 そのため、壁掛けの名札も自分とバイケンのものくらいしかわからない。わからないが、冒険者たちが騒いでいるくらいだし、自分の読めない名前が星ひとつのエリアから星みっつのエリアへ短期間で順々に移動しているのだろう。


「三つ星というと、拙者たちと同じでござるな。黒狼殿ですら真面目にやってるというのに、貴族の権力を振りかざして星の数を増やそうなど、到底許せるものではござらんな」


「おイ、俺ですらってどういう意味だよ。元々どっちかっつうと真面目な方だよ俺は。ふざけてんのはバイケン、てめェだけだろ」


「失礼な。拙者もどっちかというと真面目な方でござるよ。忍者なんてもっとふざけた奴らばっかりでござるよ。全身黒タイツで股間モッコリさせてる奴とか」


「ただの変態じゃねーか。もうちっと忍ぶ努力とかできねェのかお前らは。奥ゆかしくあれよ」


 転移早々、全裸で森を徘徊していた自分の過去はすでに忘れている。


「もちろんその分実力は確かでござるよ。全身黒タイツの変態もそうでござるが、拙者も隠形には自信があるでござる。ほら、今もこれだけ話しているのに、あのガラの悪い連中にはまったく気づかれないでござろう? 拙者の隠形は黒狼殿の【姿隠しの仮面】と同程度の効果があるでござる」


「ふゥん。ま、目立たなくて済むってのは良いことだけどなァ。目立つと碌なことがねェからな。テンプレだとギルドでチンピラに絡まれたりするらしィし。俺なんて【姿隠し】がなけりゃ絶対あいつらにイチャモン付けられてたと思うぜ」


 雑談をしながら依頼を見繕う。

 黒狼はまだ依頼書が読めないので、実際に見繕っているのはバイケンひとりだが。


「あ、これなんてどうでござるか? 希少魔獣の捕獲依頼でござる。こいつだけ報酬が妙に高いでござるよ。報酬だけなら四つ星依頼並でござる」


「捕獲かァ。報酬が高いってことは、難易度が高いってことだよな? 大丈夫かね」


「んー、それほど強い魔獣ではないようでござるし、まあ余裕でござるよ!」


「それ絶対フラグだろ。捕獲クエストでやり過ぎて討伐しちまうやつだろ。まァ、ダメだったらいつもの受付くんに頼んで、依頼自体受けなかったことにでもしてもらえばいいか」





 ★ ★ ★


そういうとこやぞ(

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