第21話「モコッチ」
さてどうやって見張りのいる村に侵入しようかと考えて、別にこっそり侵入する必要などないことに気がつく。
というか自分で行く必要がまずない。
どこかに侵入したり、人間を捕まえたりするのが得意そうなクリーチャーを喚び出して、そいつに全部やらせればいいだけだ。
しかし、複雑な命令を理解できるクリーチャーを喚び出すという行為に、黒狼は抵抗があった。
以前に考えた、お人形遊びの懸念が脳裏をよぎる。
(……とはいえ、だ。いつまでもそんなことは言ってられねえ)
どのみち、ずっと会話もままならないクリーチャーばかりを召喚して使っていく訳にはいかない。何しろ黒狼には一般人以下の力しかないのだ。色々なことを召喚クリーチャーに頼る必要があるし、いずれは自己判断で進めてもらわねばならない案件も出てくるかもしれない。
そんなとき、まともに会話も出来ないのでは話にならない。
今回を機に、自我の強いクリーチャーを召喚しておくのも悪くない。
「『そうと決まりゃ、せっかくだし忍者とか喚んでみるか。えーっと、【風のマナ結晶】と【土のマナ結晶】。んでターンエンドターンエンドターンエンドターンエンド……。よし、いでよ【仮面の忍者 マスクドバイケン】』」
風と土という二種のマナを必要とする上級クリーチャー、【仮面の忍者 マスクドバイケン】は、忍者と言いつつ忍ぶ気がないだろう派手な格好をしている。確かに顔は隠しているのだが、被っているのが獅子舞の面なのだ。おそらく制作スタッフが古い特撮作品のいくつかを勘違いしてごっちゃにしたままデザインしたものと思われる。
持っている特殊能力は【
「『バイケン、あの村をちょっと探ってきてくれないか。見つからないように、こっそりとだ。んで、村人の生き残りがいたら戻って俺に教えてほしい。連れ出せそうなら連れ出してくれ』」
「救助活動、ということでござるか?」
「『おお? お前、こっちの言葉喋れるのか』。俺モコッチノ言葉ノ方ガイイカ?」
「モコッチの言葉……?」
「言ッテネエヨ。誰ダヨソレ」
「冗談でござる」
やはりバイケンはフレイムジンともフラムグリフォンらと違い、ずいぶんと個性的な性格をしている。言葉遣いも含めて。
(個性的なのは【ネームド】だからか?)
バイケンはその『カテゴリ』に【ネームド】を持っている。
『カテゴリ』とは、種族や所属グループなど、そのクリーチャーを表すワード群のことで、例えばバイケンなら『カテゴリ』の欄に「【ネームド】【和の国】【忍者】【人型】【アウトロー】【正体不明】」というワードが並んでいる。バイケンは特別多い方で、普通は2から3個程度だが。
ネームドクリーチャーが個性的だとかそういう設定は設定資料集やフレーバーテキストにも無かったはずだが、現実的に考えれば、個人の名前がカードになるほどの人物である。個性的なのは当たり前かもしれない。
フレーバーテキストも相当に癖の強い書き方がされている。しかし「実力は確か」と書いてあるので、そこは信用できるはずだ。
忍者というくらいだから多少派手でも隠密行動はできるだろうし、相手の行動を無効にする──というのが現実で具体的にどう作用するかは不明だが──上に戦闘力も高いのなら、盗賊に占拠された村を探るのにうってつけである。
「マア、言ウ事聞イテクレルナラ、ナンデモイイ。アト、救助活動ジャネエ」
黒狼がそう言うと、バイケンは訝しげな顔をした──かどうかは不明だが、獅子の面を傾けた。
「生キタ村人ヲ持ッテキテモラウノハ、俺ガコノ手デ殺スタメダ。今モウ死ンデルンナラ仕方ガナイガ、マダ生キテイルナラ俺ガ殺ス」
「なんだ、そうでござったか」
どこかホッとした様子のバイケンに、どうしたのかと聞いてみる。
「拙者、救助とかからっきし苦手なもので。生きて
確かに。忍者といえば暗殺というイメージがある。誰かを助けたり守ったりというのが得意でないのは頷ける。
「ですので、連れ出す村人についてはとりあえず息をしていれば問題ないという認識でよろしいか?」
「連レ出シテスグ死ンジマウッテノハサスガニ駄目ダゾ。少シクライハ俺ト会話サセロヨ」
「それはもちろんでござる。ご安心めされよ。喉と肺さえ無事なら人は話せるでござるよ」
仮に声は出せたとしても、そんな状態ではまともな思考などできるはずがないし、何も安心する要素がないわけだが、と一瞬思ったが、例の奴隷商の時のことを考えれば、どうせたぶん最後には頭に来て殺しちまうんだろうなと思い直し、何も言わずにおいた。
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