第17話「【フラムグリフォン】」

 わけのわからない状況に飲まれた奴隷商は、するすると知っていることを全部喋ってくれた。といっても黒狼が知りたかったことはそう多くない。ここへ黒狼を売り飛ばした行商人と、その行商人に黒狼を売り飛ばした田舎村の情報くらいだ。

 行商人の名前や活動範囲、そして田舎村の名前と場所の情報は得ることが出来たものの、行商人の現在の居場所については不明だった。奴隷商自身にも、彼がこの街をめぐるおおよその日程しかわからないそうだ。

 奴隷商はバーントコープスがたいそう恐ろしいようで、2体目、3体目のバーントコープスを喚び出していくとそのたびに素直になっていった。

 バーントコープスもネームドではないため、召喚数に制限はない。もちろんストレージの中にある限りしか召喚はできないはずだが──


「『……なんだこりゃ。残り枚数が……表示バグってんのか?』」


 ストレージの中には、【バーントコープス】のカードは数百万枚あることになっていた。これは他のカードでも同様で、例えば20周年記念イベントで20000枚限定で配布されたはずのカードでも20500枚とか表示されていた。

 そう、まるで世界中のカルタマキアをここに集めてきたかのような数字なのである。


「『うーん……。まあ、いいか。多い分には困らねえし。少なくとも俺は』」


 自分以外にとってはどうだか知らないが、もし本当に地球上のすべてのカルタマキアのカードがここに集まっているとしても、別に黒狼が困ることはない。

 ともかく、ストレージについては黒狼にとっては最初からバグっていたようなものなので、今更気にするのはやめた。

 なお奴隷商はバーントコープスがいたく気になるようだったので、そのままバーントコープスに任せることにした。バーントコープスのフレーバーテキストには「生きた人間を見ると仲間を増やそうと寄ってくる」とか書いてあるので、きっと焼死体の仲間にしてくれることだろう。


「『行商人がいねえのはしょうがねえな。行商ってたぶんそういうもんだし。知らんけど。んじゃ、村の方に行ってみますかね。確か東の街道を真っ直ぐだったな』」


 日本語で独り言を呟きつつ、黒狼は奴隷商館を出た。情報も得られたし奴隷商にリベンジも出来たし、もうここには用はない。

 従業員にも思うところがないでもないが、指を潰しかけながらでも言葉を教えてくれたのは事実であるし、それを以て恩赦を与えてやることにした。

 とはいえ、それは黒狼が自分で手を下すのをやめたというだけで、例によって自由行動を許したバーントコープスたちがどうするかまでは関知するところではない。

 店の商品──他の奴隷たちについても同様だ。自分以外の、この国出身と思われる奴隷たちは自分とは全く違うそこそこの待遇だったようだし、妬ましいという思いはあっても助けてやろうとかそういう気持ちは全く無かった。かと言って積極的に始末したいわけでもない。どうでもいい存在だった。


 ローブのフードをかぶり直し、足早に奴隷商館から離れ、街の外に出た。

 外に出て気がついたが、夜なので非常に暗い。月や星の灯りがないでもないが、昼間とは比べるべくもない。

 舗装もされていない暗い街道を、満足な灯りも無しに歩いて辺境の村まで行くなど正気の沙汰ではないように思えた。元が引きこもり同然の日本人ではなおさらだ。

 それでも黒狼は歩いて街から離れていった。

 そうして、街のなけなしの灯りがほとんど見えなくなったころ、【ストレージ】からカードを取り出した。


「『お。この距離でもマナは使用可能か。んじゃあ……そうだな。【フラムグリフォン】召喚!』」


 発動したのは火属性のクリーチャー、【フラムグリフォン】だ。赤を基調とした色彩のグリフォンで、いかにも火属性ですと言わんばかりの姿をしている。

 このフラムグリフォンはちょっと変わったクリーチャーで、クリーチャーカードでありながら自身の持つ特殊能力によって一部のアイテムカードのような挙動をすることも出来る。どういうことかというと、他のクリーチャーカードを指定していわゆる『装備品』として振る舞うことが可能なのだ。そしてこれを装備したクリーチャーは【速攻】という特殊能力を得ることが出来る。

【速攻】を持つクリーチャーは、戦闘時に発生するダメージにおいて自分側のダメージ計算を先に終わらせることが出来る。攻撃側防御側問わずにだ。

 と、カードゲームのルール的にはそういうことになるのだが、ごく簡単に説明すると、フラムグリフォンには騎乗することが出来る。そして騎乗したクリーチャーは速く動けるので、先に殴れるのだ。そして先に殴って相手が死ねば、自分は殴られずに済む。そういうことだ。


「『よし! 思った通り、俺でも乗れそうだ。バイクなら免許もあるし、何とか動かせるだろ。中免だけど』」


 多くの日本人同様馬には乗ったことがないが、バイクにならば乗ったことがある。フラムグリフォンはさすがにバイクとは似ても似つかない姿だが、跨って運転するという一点においてはさほどの差はない。はずだ。バイクの二輪に対してグリフォンは四脚もあるので、なんなら安定しているまである。


「『んじゃ、頼むぜフラムグリフォン。とりあえず道沿いに進んでくれや』」


 黒狼が召喚したクリーチャーである以上、黒狼の指示には従うはず。フレイムジンのように脳内に直接話しかけてくるようなことはないため本当に意思疎通が可能かどうかはわからないが、同じく喋らなかったバーントコープスも普通に黒狼の指示に従っていたため、どう見ても人語を解さなさそうなフラムグリフォンでも言う事を聞いてくれるだろうと見込んでのことだった。

 黒狼の想定通り、フラムグリフォンは黒狼を乗せ、舗装もされていない街道らしき道を走り始めた。

 しかし、騎乗者に【速攻】を付与する特殊能力は伊達ではないらしく、その速度は黒狼の知るバイクなどより遥かに速いものだった。


「『──うおおおおおおおおおお!? 速すぎんだろおおおおおおおおお!?』」


 必死でフラムグリフォンの背中にしがみつき、何とか振り落とされるのは回避したが、叫び声だけは止められなかった。

 こうして夜の街道に、うっすらと赤く光を放ちながら、この世界では理解できない謎の奇声をあげ、とんでもない速度で疾走する怪異が現れたのだった。





 ★ ★ ★


【フラムグリフォン】

召喚コスト :炎炎無無

攻撃力   :100

耐久力   :150

カテゴリ  :【鳥】【獣】【騎乗動物】【キメラ型】

特殊能力  :

【速攻】

〈パッシブ〉このクリーチャーは戦闘を行う際、通常の戦闘ダメージの発生前に相手に戦闘ダメージを与える。(相手クリーチャーがこのダメージで破壊された場合、反撃ダメージは発生しない)

 相手が同じ効果の特殊能力を持っていた場合、お互いのこの能力はその戦闘中無効になる。

【ライドオン】

〈アクティブ〉一ターンに一度、自分フィールド上のクリーチャー一体を指定して発動できる。このクリーチャーをアイテムカード扱いで指定したクリーチャーに装備する。

【人馬一体】

〈パッシブ〉このカードを装備しているクリーチャーは特殊能力【速攻】を得る。


──上半身が鷹、下半身がライオンの姿のクリーチャー。フラムとは炎を意味し、全身が赤みがかったオレンジ色をしている。他のグリフォン種に比べて毛量が多く、体温も高い。気性が荒いが、懐くと甘えてくる。ストレスに弱いので飼育には注意が必要。野生下で気性が荒いのはストレスによるものだとの研究報告もある。




公式FAQ

Q:コスト「無」とはなんですか?

A:属性を指定しないマナのことを指します。

例えば、必要なコストが「無」とある場合、どの属性のマナでもいいので「無」の分だけマナを必要としていることを指します。また、発生したマナが「無」の場合、何の属性も持たないマナが「無」の分だけ発生していることを指します。

ただし、「無」指定に使用できるマナは、そのカード種類のコストとして使用可能なマナに限ります。

(例:「魔法の発動にのみ使用可能」とあるマナは、属性にかかわらず魔法の発動以外には使用できません)

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