第3話
新しい5色のスライムが、レース場を一周してギャンブラーたちに、その雄姿を披露している。
俺は、一周するスライムたちの様子を、よくよく観察する。
2番ピンクのスライムの跳ねる高さが、他の奴らより2倍くらい高い。
こいつだ。
1番、緑のスライムが、他より頭上のにゅるんとした角の分だけ高く、跳んでいる。
こいつだ。
ん? 4番、青いスライムも緑のスライムぐらい飛んでいる……。
「さぁ、レースが始まります!」
急がないとっ。
俺は、1ー2、2ー4のスラ連に1コインずつ賭けた。
ファンファーレが鳴り響く。
5匹のスライムがゲートに入った。
俺は、オッズを確認する。
1ー2は7倍、2ー4は4倍だ。
当たったら即、その時点でカジノからオサラバだ!
銀貨が倍増した自分を想像できる。
今から、興奮が止まらない!
レッドシグナルが点灯。
ふたつ、みっつ……少し間をおいて、グリーンシグナルが点灯。
一斉にスライムが走りだした。
1番の緑がスタートダッシュに成功。続いて3番のオレンジ、その次に、俺のピンクだ。
しかし、ほぼ横一列、順位と言うものはないと言って良い。
「10コイン賭けたのよ。スラちゃん、がんばれー!」
「頑張ってスラちゃーん、20コイン賭けたんだからー!」
黄色い歓声がすぐ近くで起こる。
スラちゃんって……全部スラちゃんだろ、バカだな。
「さぁラストスパートです!」
赤い蝶ネクタイが叫んだ。
スライムたちがスパートをかける。
黄色と青のスライムが、アッというに他のスライムらを抜き去っていった。
セーブしていたのか、あの2匹!
ピンクは、ぜえぜえ息を切らしているのが、ここからも確認できる。
初めの元気はどこへやら、もはや体をずるずる引きずりながら、ゴールへとゆっくりゆっくり向かっている。
「ゴールです!」
黄色のスライムが、飛び跳ねる。青も、その横に来て飛び跳ね始めた。
「1位、5番。2位、4番です!」
赤い蝶ネクタイが叫んだ。
「きゃー、10コイン賭けたのが当たったわー!」
黄色い歓声がすぐ近くで起こる。
俺の2コインが消えた。
……次だ次。
考えるまでもない、次は俺が勝つ。
のこり3コイン。
跳ねる高さが高いというのは、つまり、勘違いをしていた。
あのスライムは、力加減の出来ない馬鹿だったんだ。だから飛び跳ねてたんだ。それで、ラストはスタミナ切れになってしまったんだ。
くそっ、なんというバカに賭けてしまったのか。今度はちゃんと見ないと。
新しい5色のスライムが入場してくる。
観察すると、落ち着き払っている奴がいた。
オレンジ色の体を、とくにぴょんぴょんすることもなく、スッスッとクールに、滑るように進んでいる。
なんと優雅な……落ち着き払った、達人の雰囲気を醸し出している。
こいつだ。
そして5番の黄色、こいつのジャンプが他より高い、こいつは外さないと。
よし。
俺は3番、オレンジに賭けた。
3番の単勝に1コインだ。
倍率は、2倍か……。
……まてよ、今、3コイン負けている。
これで、3コイン賭けたら、元通りか……。
「さぁ、レースが始まります」
ファンファーレが鳴り響く。
スライムたちがゲートに入って行った。
俺は、手持ちの3コイン、全て賭けた。
それくらいしなきゃな。
1コインが2コインになって、どうするんだ。
レッドシグナルが点灯する。
ふたつ、みっつ……グリーンシグナル!
俺のオレンジは、スタートダッシュに、失敗。
最下位からのスタートだ。
「今度は15コイン賭けたのよ。スラちゃん、がんばれー!」
「私のために、今度は50コイン賭けたのよ、頑張ってスラちゃーん!」
黄色い歓声がすぐ近くで起こる。
だから全部スラちゃんだろ、バカだな、ホントに!
スタートダッシュに失敗したが、全然大丈夫だ。全然わからない。
大体見てみろ。俺のオレンジの、落ち着き払っているその姿を。
まちがいなくレース後方からチャンスをうかがっている。
オレンジ色の体を、レースと言うのにぴょんぴょん飛び跳ねる事も少なく、スッスッと、やはりクールに、滑るように進み……レースも3分の1が過ぎた。
今だに、俺のオレンジは最下位だ。
そしてレースは、半分が過ぎて後半戦になる。
まだ……最下位だ……。
どうした、大丈夫だよな、俺のオレンジ……。
「さぁ、レースも後半、早くも2番がスパートに入ったぁ!」
どうしたオレンジ、いつまで最下位のつもりなんだ! 全部賭けたんだぞ!
と俺が、心の中で叫んだ時だった。
俺のオレンジの顔がひどく歪みだす。
なんだ?
「げぼぉ!」
オレンジが、なんか吐いた。
「きゃあ、あのオレンジのスラちゃん、ゲロ吐いたわ!」
俺は、唖然として、スピードがガクンッと落ち、ひとりレースに取り残されるオレンジを見つめる。
「ゴーーール! 」
ピンクのスライムが、飛び跳ね勝利のアピール。青も、その横に来て飛び跳ね始めた。
「1位、2番。2位、4番です!」
赤い蝶ネクタイが叫んだ。
なんだ、あのオレンジ……体長が悪かっただけじゃないか……。
初めから最後まで、ビリケツだったぞ。
ゲロまで吐きやがった。
落ち着き払って見えるような、紛らわしいことを、しやがって!
クールな感じを、やれそうな感じを出すんじゃない!
だいたい風邪ひいたなら休めバカ、出てくんなボケッ!
「何よ、あのオレンジ、私の50コインがぁ……」
となりでバカ女が凹んでいる。
逆に、色白の超細面長顔の奴はまた勝ったらしく、大喜びで飛び跳ねていた。
それを見た、バカ女が、
「何よあいつ、また不正じゃないの、あいつが勝ってばっかじゃん……怪しい奴は片っ端から拷問するんじゃなかったの。もう……」
不正?
そう言えば聞いたことがある。魔法を使って自分の賭けたスライムを勝たせ続けたとか言う話を。
どうやってかは、まだ謎なんだよな、だからカジノ側はすごい警戒してるとかだ、たしか……というか、そんなことより……。
……はぁぁ……どうしよ……。
全てのコインを失ってしまった……。
こんなバカな理由で……。
これから故郷まで飲まず食わずで、行くなんて、できるわけない。
銀貨6枚を失くして済ませられる余裕なんてない。
まただ……。
また、後先の事を考えず、賭けてしまった……。
なんで俺はいつも……。
ふと目の前に、隣に居た、スラちゃん頑張れとか、バカな事を言っている女の持っているコインが映った。
女はコインの入った小さなカゴを無防備に手にぶら下げている。
20コインは、中に入っていた。
……バカだから、盗むのも簡単そうだ……。
このまま、手を伸ばして、きっかり6枚で良い、それだけ、こっそり盗んで、すぐに換金して、逃げれば、バレずに、行けるだろうか……。
……待て待て、何を考えているんだ……。
そんなことをするより、沢山の資金さえあれば、たった6コインなんて、すぐに取り戻せるんだ。
たとえば、もう一度、オッズが2倍なのに6コイン賭けて、それで勝てば、それで終わる、取り戻せる。
いや、5コインで良い、取り戻さなくては……。
懐に入っている金貨10枚が入った袋を掴んだ。
ここに入っている金は、切実に必要な金だ。
少し使っても……いや許してくれない。
許してくれはしない、キッチリ金貨10枚を返すと約束してしまった。
足りないとなったら、俺と関係を修復した妻は、売られるだろう。
何としても、旅代を取り戻して、カジノを去る。
それしかないんだ!
懐から袋を取り出した。
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