Q9 『毗沙門戦記』での夫婦愛を語る

Q9

 親子の次は、「(Ep. 松)燃ゆる戦火は恋心」で語られている熱い夫婦愛に行きたいと思います。

「(Ep. 松)燃ゆる戦火は恋心」で、毘沙門様が吉祥天が水浴をする姿を見てその姿に釘付けになる様子が、健康なエロティシズム漂う、それはそれは美しい筆致で描かれています。敵対関係にあるにも関わらず恋に落ちた二人が、簪を小道具に様々な駆け引きを通して徐々に互いの気持ちを確かめあっていきます。それには犠牲も伴うのですが、それを引き受けてでも相手への気持ちを曲げずに突き進んでいく二人は読んでいて情熱的でもあり、爽やかでもあります。特に、毘沙門様が吉祥天に恋に落ちる過程の書き方が上手いんですよ。この辺りは妄想の賜物と言っていいんでしょうか? これまでの小説でも恋愛ものは書いたりしていましたか?


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 結論から申し上げますと、おっしゃる通り妄想の賜物であります。これまでにちょっとした恋愛小説はいくつか書いたことはありますが、エロティシズムも含んだ情熱的な恋愛を描くのは今回が初めてです。インド神話には一部、夜叉と羅刹の争いを描いた物語があります。夜叉の毘沙門天と羅刹のラーヴァナとの戦いです。毘沙門天 vs ラーヴァナは、拙作では「第二次天邪鬼大戦」として取り扱いました。その第二次の前の「第一次天邪鬼大戦」では、毘沙門天とラーヴァナの父親にあたるプラスティヤとの戦に(プラスティヤ vs 毘沙門天)になります。プロットを立てる上で、時系列的には、ここで毘沙門天と吉祥天を会わせるのがちょうど良かったのです。

 ちなみに、仏像を見ながら、「毘沙門天と吉祥天ってどんな出会い方をしたんだろう、どんな恋愛をしたのだろう」と、夫婦の馴れ初めをあれやこれや妄想するのは私の常でありました。毘沙門夫婦の出会いの説では、私が妄想したところ、大きく二つに分かれます。①お見合い説 ②大恋愛説 ①は、なんの変哲もない、お見合いで夫婦になった説。無難です。私の考えるお見合いですと、毘沙門天のもとに吉祥天がお嫁さんとして贈られるパターンですね。しかし私が考えるには、特に無愛想な毘沙門天は「形式上の夫婦であればいい」と思っていそうで、この場合は恋愛もへったくれもなさそうなのが寂しいところです。そして、第二次天邪鬼大戦での出会いをプロットに組み込んでしまったので、①は必然的にボツとなりました。そこで、②です。やはり、大恋愛に勝るものなしですね。が、実際に毘沙門天の像を見てみますと、はっきりいってイケメンではございません。むしろ野獣のようなコワモテのただのおっさんです。もし私が吉祥天だったら、彼と結婚したいなどとは絶対に思いませんね。吉祥天が先に、毘沙門天のことを熱烈に好きになるパターンは、正直あまり考えられませんでした。なので、大恋愛説では、「まずもって毘沙門天が吉祥天に恋をする」ということがキーポイントだったのです。しかし、男の恋愛に関しては、実はちょっとだけ参考にした映画があります。それが、インド映画『バーフバリ』です。『バーフバリ』では、男性が女性に一目惚れするシーンが二種類あります。一つは、たくましい女戦士に一目惚れする男、もう一つは気性の荒々しい王女に一目惚れする王子です。男性のどちらも、「強くて美しい女性」に恋しているのです。そんな恋愛模様が、本能丸出しな毘沙門天にとてもマッチしていると思い、参考にしました。また、エピソードこそファンタジーではありますが、だからといって「こんな男・女なんていねぇだろ」と思われるほど男女の描き方が不自然にはならないように気をつけていましたね。毘沙門天にはなるべく、「イキなことは言わせない」ように、あくまでも「計算高いが不器用な男」を演じさせていました。でも、女にもエロにも弱くてすぐに飛びつくし、好きな子を手に入れるためならなんだってするし、惚れ直すことだってあるし。毘沙門天も神さまですが、感情は人並みの男です。

 そういえば、さきほど例にあげたインド神話のこと、私は健全な春画だと思ってます。女神は乳房ポロンポロンだし、男神の下半身は制御も効かないし、なんならいつでもどこでも男女仲良くおヤりになってるんです。拙作では苦労性で有名な帝釈天ですが、実際には相当な遊び人なんですよ。作中のエロティシズムも、そんなところに影響されているのかもしれません。


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