Q5 & Q6 『毗沙門戦記』を書き始めたきっかけは?

Q5

 『毗沙門戦記』を書き始めたきっかけを教えて下さい。

 『毗沙門戦記』はともかく壮大なファンタジーですよね。そして「いい人代表!」みたいな仏様たちが実はかなりの曲者で、インドの神々と対立し、駆逐しようとする……。なぜ毘沙門ラブに陥り、このストーリーを書くに至ったのか経緯を教えて下さい。


A5

 は、話せば長くなるのだが……っ! 私はもともと、毘沙門天に限らず仏像全般大好きな人間でした。ある時は中宮寺の半跏思惟像を推してみたり、ある時は東大寺戒壇院の広目天に恋したり、またある時は東寺の帝釈天にべったりだったり。よく仏像の浮気をしていましたね。そんな浮気性な私が一途になったのは、唐突に毘沙門天の魅力に目覚めてからです。ビジュがかっこいいからとかお背中がたくましくてエロいからとかよりも以前に、毘沙門天の「尊格」にまずもって惚れたのです。毘沙門天は、四天王の一人にして護法神であり、北方を守る守護神であります。甲冑に身をかため、いかめしく睨むような恐ろしい剣幕、その堂々とした立ち姿はいかなる邪気をも寄せ付けません。また毘沙門天は、このように護国戦勝をつかさどる武神でありながら、富をもたらす福神でもあります。そんな一面もあって、信仰のあつい毘沙門天は七福神の一員にもなっているのです。

 毘沙門天信仰は本当に幅広く、像の作例も多岐にわかってとても多いです。如来をさしおいて毘沙門天が本尊に鎮座している寺院も珍しくはなく、多数存在します。戦国時代に上杉謙信が毘沙門天の信者であった話は有名ですが、それに限らずどの時代においても毘沙門天はあつく信仰されてきました。そんな人望あつき毘沙門天、戦にめっぽうつよくて漢らしくて、でも断じてイケメンとは言いがたい野獣みたいな顔のおっさんで「おまえのこと誰が好きやねん」とツッコミたくなる非人間的なオーラをかもしだしているわけですが。そんな、そんな武神に……、絶世の美人妻と五人のお子さまがいらしたとは!! ぱ、パパ!?と、初めて知ったときはびっくりしました。妻は美の女神といわれる吉祥天、しかも御子が五人で子沢山。家庭円満やないか……! あの毘沙門天が、良いパパやってたなんて。恐ろしい剣幕の裏には、家族への愛情が隠されていたのです。

 どおりでときたま、毘沙門天は妻と未子の三人で祀られるケースがあるのです。その時の毘沙門天といえば、父性だだ漏れで萌えます。私はそういう、家族愛にあふれる毘沙門天にすっかり惚れてしまったわけです。

 それで、信仰のあつい毘沙門天には、それにまつわる霊験譚や仏教説話がたくさん残されています。その数々のエピソードを使って仏教関連の物語が書けないかなと思ったのが、『毗戦』のはじまりです。本格的に執筆連載し始めたのは 2 年ほど前ですが、それよりももっと以前から、頭の中で構想を繰り返し練っていました。ちょうど大学に入学して「よしゃ! 勉強頑張るぞ!」と意気込んでいた時期です。それと平行して毘沙門天に一目惚れし、小説を書くまでの数年間は仏教の知識を頭に叩き込みながら、「毘沙門さんって奥さんと過ごす夜はどんな感じなんだろう。かわいい〜♡ウフフ」などと妄想にふけっておりました。そして、その妄想がどんどん過激になって、「こりゃ頭の中じゃおさまらんわ!」の域に達しまして、文に起こしはじめたわけです。『毗戦』は、毘沙門天のことが大好きすぎた腐女子が、いらん妄想をしすぎた果てに生まれた物語なのです。

 あ、どうやって『毗戦』のストーリーを思いついたのかを申し上げますとですね。ともかく毘沙門天の霊験譚といっても、インド・中国・日本とあってそれぞれお国柄にあふれていますから、そうした毘沙門天がインド・中国・日本を旅してたどっていく物語はどうかなと、もともと考えていたのです。そうすると、仏教伝播やインドやシルクロード・中国・日本の史実・仏教史をも取り扱うこととなり、ファンタジーでありながらマニアの多い歴史・伝記ジャンルにも分類できるという一石二鳥の物語ができると思ったのです。ひとまず毘沙門天が主人公で、彼が物語を動かす軸と設定します。毘沙門天が正義と考えた場合に悪はどうするか、如来に悪事を働かせるのもおもしろいなと考え。それなら、ヒンドゥー教と対立関係にある描写も入れれば仏教を正当化できるし、なにより史実を利用できておもしろいとも思い。こうして完成した構造が、「目障りな婆羅門宗撲滅を狙って秘密兵器を作る五智如来を止めるため、仏教伝道の旅に出る毘沙門天の物語」です!


イカワ

 すげーよ。正覚坊さん、まじすげーよ。仏教知識詰め込んでてすげーよ。(© 如月芳美)

 そもそも仏像好きはお幾つくらいから始まったんですか? 最近は仏像女子も増えてますが、若くして仏像好きっていうのもちょっと珍しい……。


正覚坊さん

 小学六年生のときに初めて家族で京都旅行に行ったのがきっかけで、まずは御朱印集めが趣味になっていました。それから寺社仏閣巡りはなんとなく好きだったのですが、高校三年生の春、中宮寺半跏思惟像に一目惚れして沼にハマったのです。で、仏像を愛してしまった受験生の私がとった行動が………

(6 の回答に続く)



Q6

 その豊富な仏教知識はどこから? 仏教の中だけでも、如来や菩薩、天部などの階級や構成を、私は初めて正覚坊さんの小説で知りました。それだけでなく、バラモンなどとの歴史的な経緯もお話に組み込まれています。最初、大学で宗教の歴史を勉強してる方なのかなと思っていたんですが、『休戦』の章で出典を挙げていらっしゃいました。……もしやすべて毘沙門ラブに基づいて独自で勉強されたのでしょうか?


A6

 仏教を学べる大学に行く。これが、仏像好きの末路であります。関西にの某大学には仏教学部がありまして、私はそこに入学したのです。つまり私は、大学の講義に行きまくってインド・中国・日本の仏教史や哲学を学び、仏像の専門知識をこれでもかとインプットして参った次第です。しかし、毘沙門天の研究に関しては独学ですね。卒論のテーマも毘沙門天と決めています。


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