Q8 - Q10 『いち癇』のプロットと文体

Q8

 『いち癇』の執筆についてお伺いします。それまで小説を書いたことはなかったそうですが、小説のプロットはどのように思いついたのでしょう? ぽよよんとした自然体が可愛い主人公の花ちゃん、何を考えているのかわからないスパダリの神崎さん、元ヤンのガンタくんという当て馬も出てきて、ポイントをしっかり抑えた恋愛コメディになっているのですが、ストーリーラインや登場人物は自然に浮かんできたのでしょうか?


A8

 それまで小説を書いたことも無ければ読んでもいなかったので、そういうの全然知らなくてテキトーに思い付きで書きました。



Q9

『いち癇』を読んでいて最も印象的なのは、文体です。

「〜なんだよ」って終わる文が多くて、この「なんだ YO」がとても親しげな効果を出すと同時に、「ふんふん、それで?」と続きを期待させるんですよね。

 しかも、リズムがあるんですよ。

『すげーよ。マジすげーよ。そんなこと考えてるあんたすげーよ。』(22 話)

「YO」効果に加えて「たーん、たたーん、たんたんたたーん」というリズムも踏んでいるという、「これはラップか? ラップなのか?」と思うような文章で話が進んでいきます。これはもう、天性のものですよね。普段もこんな感じでお話されてるんでしょうか。音楽好きってこともあるんでしょうね。


A9

 言われるまで気づかなかったけど、確かに私のは「たーん、たたーん、たんたんたたーん」が多いですね。他の作品でもそうです。「倍率ドン、さらに倍、篠沢教授に全部!」みたいなノリですね。なんだか「たーん、たたーん、たんたんたたーん」って「ゆあーん、ゆよーん、ゆやゆよん」みたいじゃないですか?(中原中也ってラッパーだったん?)普段は全くこんな話し方はしませんし、こんなにテンポ良くないです。陰キャのヒッキーのコミュ障なので、数人で話していてもボケッと聞いてるだけの方が多いです。パーカッショニストだからテンポ重視ってのはあるかもしれません(関係ねーか)


注 1: 「倍率ドン、さらに倍、篠沢教授に全部!」というのは、1992 年まで TBS テレビで放送していた「クイズダービー」という番組の中でよく使われていたフレーズをまとめたものです。如月さん、14 歳の JC が平成生まれの人が知らないような引用をしてはいけません。

注 2: 「ゆあーん、ゆよーん、ゆやゆよん」は中原中也の『サーカス』という詩に出てくるフレーズです。



Q10

「ゆあーん、ゆよーん」みたいに音が似ているものによく気が付かれますよね。


「アニメ声」と「天城越え」って似てるな、似てねーか、似てねーよ(160 話)

「愛の伝道師」と言うよりは「淡路の三文文士」って感じだよ(146 話)


 それからジョークのセンスもめちゃくちゃ羨ましいです。


コウモリと会話できそうなくらい声の高い巨乳の姉ちゃん(158 話)

スジャータでも喰らえーーー!(187 話)


 こういう韻を踏んだフレーズとか、面白いフレーズとかはやっぱり自然と出てくるんですよね? あんまり考えることはないですか? 思いついてメモしたりとかしますか?

 ふふふ、でも陰キャだったら口にしたりはしないんですよね。頭の中で考えてるだけ。周りの人が「如月さん、なんかおとなしい……」とか心配してる最中に、頭の中では「藤棚の藤だな?」とか考えてるわけですね。


A10

 自然に出てきます。私、昔役者やってて、そのキャラが憑依しちゃうんですよね。だから書いてる時は山田花子になってる。思考回路が山田花子なんです。だからこれらのジョークは如月芳美が思いついたというより、憑依してる山田花子が勝手に喋ってる感じなんです。ただ、持っている知識が如月芳美のそれなので、花子のジョーク(本人はジョークだと思っていない)が凄く昭和だったり、内容が偏っていたりするんです。なので、周りが心配する中、一人静かに「『保健所だろ』と『モヘンジョ=ダロ』って似てる」とか考えているわけではなく、花子になって心の声をそのまんま書いてるうちに、勝手に「周富徳のシュート見とく」とか「ジャムおじさんがジャムを持参」って無意識に打っている感じですね。


注: 「周富徳」さんは、1999 年までフジテレビ系で放送されていた「料理の鉄人」に出演していた中華料理のシェフです。如月さん、14 歳の JC が……(以下略)。

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