Q9: 「斬壺」について
Q9
まずは「斬壺」についてお聞きします。これは木下さんの文学系の代表作だと思います。
「斬壺」の良いところは、文章がとても美しい。登場人物の立ち居振る舞いも、言葉遣いもきりっとしています。そして、剣を使う身体の動きや刀筋が詳細に描写されています。あと、天才とそうでない人の対比がうまい。
「わしにしてみりゃ全然分からん。太刀行きにしろ脚にしろ、何で皆そんなにのろいか。そののんびりした太刀を、何で、さっとかわせんのか。そんで何で、さっさと斬らんか。何で出来んのかが分からん」
これは本当に天才の台詞だなあ、と思います。でも、その天才がはっとする出来事があって、弟子入りする終わりもいい。そして剛佐が幾度か為し得た「斬壺」を、剛四郎は晩年に一度しか為し得なかった、という下りが、天才とは何なのかと考えさせられます。
「斬壺」を書いたきっかけと、剣での戦いを描くこだわりを教えて下さい。
A9
書いた直接の経緯としては、当時所属していた小説講座の先生から「30枚ぐらいの作品を書いてみなさい」と言われたことによります(400字詰め原稿用紙30枚分=空白込みで1万2千字)。短い中にまとめることで構成や文章を磨け、と。
で、私は時代物の小説を結構よく読むので(山田風太郎先生、柴田錬三郎先生、津本陽先生、池波正太郎先生、他)……というか当時『シグルイ』(漫画。因縁の宿敵同士の真剣試合を描いた超名作)にハマってたので、書くか! 剣客バトル! となったのです。時代物を書くのは初めてでした。
最初の構想ではもっと、主人公が旅に出た経緯とか敵の出自とか、色々考えてたんですが。とても30枚に収まらないのでガンガンとカットしていきました。
なので、書き手としての創作課題は「削ること」でした。
文章の、物語構成の、不必要な箇所をとにかく削っていく。その上で表現したいことは全て表現する……という。
モチーフや課題はそれとして、テーマ的な話を。
テーマは一目瞭然というか、『凡人対天才』です。
……皆さんは感じたことがありませんか。何かに対して本気で打ち込んでいるとき『あなたより常に先を行く者』の存在を。
勉強に、スポーツに、仕事に、恋愛に、そして創作に……自分より適性を持った者の存在を。自分とは違って、神に愛された者の存在を。
……凡人は、凡人たる私は、天才にどう対すればよいのか?
この作品に描いたものがその答えとなり得るものかどうか……ともかく、それを目指して書いたものです。
『剣での戦いを描くこだわり』については、特になにかあるというわけではありません。
私は剣道を含む複数の武道の経験があるので、それを元にはしています。
もちろん、それがそのまま物語の中で使えるというわけではありません。逆に、普通の人間にはできないようなケレン味ある超人バトル……みたいなのも必要かとは思います。今のところは、あまりそうしたものは書いていませんが。
けれど、そうした場合も身体感覚に嘘をつきたくない。人間の身体感覚の延長にあるものとして、リアリティを持ったものを書きたいと思っています。
Q9-1
木下さんも小説講座に通ってたんですね。何年くらい行ってらしたんでしょうか? どんなことをしましたか?(読み合いとか、先生からの講評とか?) これは勉強になった! みたいな点はありますか?
でも、「次は文学やるぞ!」って先に企画ありきなんですね。テーマがあれば、何か書けるってことですか……?
A9-1
小説講座は、文学系の通信講座を4、5年? ぐらい受講してました。通いの講座もあるんですが、私は自宅から遠かったので通信講座+年数回集って講評し合ったり、講座を受けたりという感じです。
通信講座としては年4回(だったか)作品を送って先生から講評を受けて……という形でした。
勉強になったかというと……なんていうか、あらゆる学校や習い事もそうなんでしょうけど、「教えてもらうつもりでいると何の役にも立たなくて、学ぶ気で行けば勉強になる所」という感じでした。
先生に教えてもらうというよりは、自分に近いことをやってる人や、自分より上手い人を見て刺激を受けたり。あとは先生からほめられたり叱られたりで発奮するというか。
自分としては、あまり技術どうこうで参考になったわけではないかなあ、とも思います。
でも、得たものは多かったとも思います。
とにかく良かったのが「締め切りがあること」でした。
私は「書かずにいられないから書く!」みたいなエラそうなこと言っておいてなんなんですが、「書かずにいられないこと以外は書かなくても平気」な人間のようです(笑)。
投稿サイトに掲載した小説も、中編は全て小説講座用に書いたやつです(講座と無関係に書いたものでサイトに掲載してあるのは、長編『喪失迷宮の続きを』、『かもす仏議の四天王』、他掌編、随筆、他のサイトに載せてある二次創作)。
とにかく書く! 書きたいかどうかではなく書こうとして書く! 無理やりにでも書きたいことを見つけて書く! という体験から、なんだかんだいって生産力、テーマの見つけ方、それを文章に落とし込む力……全てのレベルが底上げされたと思います。
次に、「テーマありきで書けるのか?」ということですが。
基本的には「キャラクターありき」だと思ってます。「この人を書きたい!」と言うのが原動力(なので、一次創作も二次創作も基本的には変わらないと思ってます)。
ですが「このテーマを書こう! →そのためにはこのキャラを書こう!」という場合もあるので……どっちが先とはいえない面もあります。
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