Q1: このお話を書こうと思ったきっかけ

Q1

 まずは単刀直入にお伺いします。

「川崎君の華麗(カレー)なお仕事」を書こうと思ったきっかけを教えて下さい。

「はじめに」で何年も前に会社の倒産を経験なさって、文章にするのは二回目だとおっしゃっていましたが、印象的な体験だったので書かずにはいられない!という気持ちだったのでしょうか?


A1

 私は子供のころから小説を書いていて、13歳で集英社のコバルトの短編に応募した時に、編集の方から声をかけていただいたことがあって。色々あってダメになったんですが、その時に書いていたのがファンタジー系、今でいうあやかし系でした。


 なので、自分はそっち方面なんだろう、と思い込んでいました。けれど、会社が倒産した当時、通っていた小さな小説学校の先生から、「君はファンタジーの人じゃない。現代文学を書く人だよ。すごい経験をしたんだから、君が書くべきだ。君にしか書けない物があるはずだ」と言われました。


 あまりピンとは来ませんでしたが、「先生が言うなら書いてやるか(←ほんと、偉そうですよね)」みたいな感じで書いたら、新潮社の最終候補に残ったんです。私はてっきり受賞すると思っていたんですが、ダメでした。


 その時、有名な作家の先生方から講評をいただいたんですが、林真理子先生からはこう書かれました。


「たしかに、あなたが大変な経験をしたのはわかります。でも、それをそのまま文章に書くのは小説ではない。それを自分の中で調理して、自分の作り上げたストーリーに落とし込んで初めて小説と言える。今のままでは小説とは言えない」


 ショックでした。傲慢な鼻をへし折られたのもそうですし、自分が書いていたのは小説でも何でもなかった。ただのゴシップ的なものだったと気づかされたからです。


 そして、こんなすごい経験をしたのに、それを活かしきれないまま終わってしまったことが悔しかった。


 だから、何年かかってもいい。この素材を自分が納得できる形に仕上げる。小説、というものに作りかえるんだ、と、心に決めました。


 それが、約20年前のことです。


(イ)

 すごい! 20 年の大作! 「小説というものに作りかえる」という決心がずしっと来ます。林先生もご自分の言葉が人の人生にこれほど深く影響を残すとは思ってもみなかったでしょう。

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