リクエスト幹彦編

 何でこんなことになったんだろう。

 確かに天寺の兄とは一緒に合ってくれると言っていたはずなのに、天寺は兄を私に押し付けるなり、後ろの凛と一緒に頑張れと兄を励ましている。

 何でだよ。


 どうしてかこうなったのだから、天寺の兄の方を見やると、いつも通り険しい顔をしてこちらを見ていた。

 何でそんな親を殺した敵を見つめるように見るんだと言いたいが、何か言ったら首絞められそうだから言えなかった。

 そもそも何でこんな顔をしているんだろう、分からないけれどそんなに気に食わないなら天寺に言ってなかったことにすればいいのにと思った。

 余程妹思いなのだろうが、今はその妹思いでこちらに押し付けられて可哀想だなとしか思わない。


「ねえ、天寺さん。私嫌われてるみたいなんだけど」


 後ろに居る天寺の元まで数メートル程戻り言えば、そんなこと無いよおと言う天寺。

 そんな事ないよおって、何をもって言ってるんですかと言いたい。

 こんなに険しい顔で、こんなに睨みつけて来るのに、何で天寺からは照れてる、と言う言葉しか帰ってこないのか聞きたいくらい。

 だけれどそんな事言ってる場合じゃない、とりあえず並んで歩けと言われて言われるままに歩くけれど、どういったらいいのか分からないけど、これはやっぱり嫌われてると思うのだ。


「お兄ちゃん朴念仁だから」


「本当か、本当にそれですましていいのか?」


 思わず訊ねると、うん?と首を傾げられた。

 うん?って何、どういう事?

 よく分からないけれど怖くなって、×××はそっと天寺の兄の隣に戻ったのだった。


「あの、何て言ったらいいのか分からないけれど、どうして私のこと、み、み、………見つめるんですか?」


 凄い顔で、とは言えず、見つめると言葉を濁して言った所、更に険しい表情をしてこちらを覗き込んで来る天寺兄。

 何でそんな顔をしてくるのよと言いたいけれど、流石に言えなかった。

 何だか怖くて、この兄妹が怖くて言えなかった。


 後ろからは話してあげてと言われていて、横からは威圧が来る。

 その為私は必死になって声を絞り出していた。


「なんか、目が凄い、なって思うんだけど………」


「や………そうか?」


 違うと思ったのかよ。

 と言いたかった。

 それでなくても切れ長の目が涼しげで、喋りにくいような顔をしているのだ。

 だと言うのに私の横に座った途端、睨みつけて来るとか、横に立った途端、今にも殴りかかってくるんじゃないかと言う程の顔をしているのだ。

 何故だと言いたい。


「あのさ、お兄ちゃん。眼鏡してる?」


「あ、してない。するよ………」


 眼鏡をしていないと指摘された兄は、眼鏡をそそくさと付け出す。

 するとそこに居たのは好青年で――。

 何があったと言いたかった。


「ごめん、凝視しちゃって、見えにくくて凝視してた」


「え、あ、いや………いいんだけど」


 凝視?

 凝視って言うのは、睨みつけてきたことの事かなと聞いてみたいけれど流石に直接的過ぎて聞けなかった。

 そのため、兄が何を言おうとしたのか分からず、あいまいに笑って了承してしまうと、天寺兄は何を言ったのか。

 手を繋いできたのだ。


「手、………」


「やじゃないって言ったから」


 あ、手を繋ぐの嫌じゃないって言ったからってことか。

 分かったぞ。

 まあいいか、手を繋ぐ位。

 連れ立って歩いて手を繋ぐ。

 何だか最近妙な事ばかり起きている気がする。

 翔太は本気だと言っていて、安立も待つと言っていた。

 安立の場合は先約で、こちらの気持ちが固まるのを待つと言う事を言っていたのだ。

 電話番号をいつの間にやら交換していて、そこでだったのだけれど、結局どうしたらいいのか分からないでいる。

 本当に二人とも私が――好き?


「――あのさ、俺、お兄さんじゃなくて、名前で呼んでほしいんだ」


「え?天寺さんのお兄さんじゃ、駄目?」


「名前で呼んでくれる方が特別感があるだろ?それで」


「名前、じゃあ、教えてくれる?」


「名前は、幹彦、天寺幹彦だよ」


「幹彦君。これでいい?」


「あ、ありがと………」


 頬を染めて険しい顔をする幹彦に、私はどうしたのかと顔を覗き込む。

 険しい顔をしていても、睨みつけるような目つきの悪さはなりをひそめて居るため、もう怖くなかった。

 どうかしたと聞けば、何でもないから、少し離れてと言われてしまう。

 どうしたのだろう?


「離れて、ほんとに」


「ごめん」


 すっと半身離して、そして繋いでいた手を解くと、そこではあとため息を吐かれる。

 どうしたのだろうか?

 呼吸を整えるようにしている幹彦に、×××は訊ねてみた。


「大丈夫?気持ち悪いとか?」


「そう言う事じゃないんだ。ただ、………何でもないよ」


 行こうと言ってまた手を繋がれる。

 どうかしたのだろうか?

 耳が真っ赤だ。

 赤いと思わず零せば、速足で彼は歩く。

 付いていくのがやっとだった。


「あのっ」


「何?」


「ごめん、足、速いよ」


「え、ああ………ごめん」


 いつの間にやら天寺が脇に来ていて、お兄ちゃん早すぎと言っている。

 確かに早かった。

 付いていくのがやっとで、大変だった。

 すると悪いと謝ってきて、謝れる人何だと思った。

 何となく睨んできたリして怖かったから、謝れない人だと思っていたのだ。

 だから、大丈夫と言って終わった。


 結局普通に歩いて終わりになってしまって、私は帰宅することに。

 何だか途中から矢鱈と紳士だった。

 道路の路に出ているからと、壁際を通るようにされたり、危ない方を通ってくれたり。

 番犬が怖いところは犬を飼いならしたかのようにてなづけてくれて、通れるようにしてくれたり。

 果ては買い物まで付き合ってくれた。

 今日の夕飯の献立を伝えた所、一緒に作ってあげたいんだけど流石に初日でお邪魔するのもあれだからと帰って行ったのだった。


 その代わり、美味しい料理の作り方のコツを聞いたので実践してみた。

 出汁巻卵のコツ、らしい。

 流石料亭の息子さん。

 跡取りらしく既に修行をしていると言うのは本当だった。

 高卒で料理の世界に入るらしいとは聞いていたけれど、凄いなあ。


 何て作っていると、叔父が七海を連れて帰宅した。

 七海どうしたのと聞いてみると、お父さんに向こうで会ったから一緒に帰ってきたのと嬉しそうだ。


「お父さん、今日のだしまきたまご、おいしそうだね」


「そうだな、どうしたんだ?練習でもしたか?」


「しました。お陰で卵一パック使っちゃいました」


「ははあ、失敗したやつどうすんだ?」


「明日学校にお弁当で持って行けるようにスクランブルエッグになってますよ?」


「俺の弁当にも入れろ、どうせ味は変わらんだろ」


「いや、味が変わるかも。いいから食べてみてくださいよ」


「ん、おお。いただきます………」


「いただきます!」


 その場でぱくりと口に入れた瞬間、叔父はこれは美味いと一言発した。

 七海は分かってましたとばかり、嬉しそうだ。


「さっきあっちであまでらのお姉ちゃんにあったの。そこでたまごのおしえたから、おいしいよって言ってたから」


「あー成程」


 道理で。

 でも良かった、失敗なく作れて。

 今度会ったらお礼言わなくちゃ。


「そしたら、………なんでもない」


「ん?」


「なんでもないよ」


 叔父が風呂に入った所、七海が風呂上りの小さな頬を染めてやってきた。

 食器を洗ってるときだったので食器を置いてと言われたので、皿を洗う手を止めて聞く姿勢を取ってみる。


「あのね、今日のお礼言ったら告白されると思うから、言ったら駄目」


「え、で、でも………言わないと有難うって。できたか聞かれてるし。今度ここに入れて料理作るの手伝うトモ言われてるし」


「駄目。安立さんにして」


「えええ!?だだだ、だって安立さんは」


「嫌い?」


「う、ううん違う。けど」


「好き?」


「ええええ!?」


 結局その問いに答えられず、いつの間にやら二階に来ていた。

 風呂に入るのも忘れて寝ていたらしく、翌朝、シャワーを浴びて学校に出向くのだ。


「あのね、料理教えてくれてありがとう」


「良かった?」


「うん!大好評だったよ。有難うね」


 じゃあ、と去ろうとすれば、彼が待ってと言う。

 幹彦は意を決して――





 *****


 板前、卵焼きでyoutubeで検索すると出ますよね。

 美味しい卵焼きの作り方。

 凄いです最近は。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る