リクエスト安立編 2
「帰ってこないですね」
「かえってこない」
ぶすくれている七海に悪いけれど、ぶすくれたいのはこっちである。
安立にはあと一時間くらいで仕事が終わると言っていたはずなのに、何で来ないのよと思ってしまう。
お陰で七海と安立と自分も含めて、三人ともパジャマです。
コノヤロウ。
安立の布団を二階に敷いて、自分も敷いてきて、そしてさらに時間が経過しているけれどやっぱり帰ってこないのである。
「ふああ、ねえあだちさん。七海ねるね。明日がっこうだし」
「そうだよねえ!ええと、僕藤原さんと酒盛りするつもりで居たから、この後起きてるから寝ちゃいなよ。ね?」
「うん、分かったあ」
お休みと言って寝てしまった七海に文句は言えない。
けれど、今はちょっとばかり言いたい、文句を。
だって、この間口づけされた手の甲が何かむずむずするじゃないか。
困った、大いに困ったぞと思っていると、安立がフライパン貸してねと、冷蔵庫から何か取り出して作ろうとし出した。
「何作るんですか?」
「無限卵。明日朝食べられるように」
「ああ、知ってます、麻薬卵でしたっけ。無限に行けちゃう卵。作り方知ってるから作りますよ」
「いいのお?まじ?頼んじゃおうかな?」
ありがとねと言われ、くすぐったくて――でもはっとなる。
コイツはセクハラ野郎だからだ。
「あのっ」
「なあに?」
「えと、何て言うか」
何から聞けばいいだろうか?
何て聞けばいいのだろうか?
卵を茹でて、つまみになる酒の肴を作っているが、どういっていいかわからない。
自分の手の甲になんで口づけたのかとか。
先約ってなんだとか、ってことじゃない。
ただ、ひたすらに聞きたいのは、私が好きなのかどうか、だった。
だけれどその一言が出て来ずに、ずっとずっと野菜をいためたり、肉みそを作って見たりして、つまみを作り出していくだけ。
どうしたらいいのか分からない。
何て聞いたらいいの――?
「おー、凄いじゃない。こんなに酒のさかな作って貰っちゃっていいの?」
「いいんです。それより――」
「おーう、帰ったぞー」
「今かよ!!」
「お帰りなさーい」
待ってましたあと安立が叔父を迎えに行くのを見て、がくりと肩を落とした。
何で今になってなのかと小一時間程問い詰めたい。
その後結局何も言い出せないまま、安立と仲良く座って晩酌に付き合うことになった。
叔父は健啖家でよく食べる。
そのお陰で明日の弁当のおかず分以外は叔父の腹に収まったようだった。
「いつも悪いな、×××」
「いえ、良いんですけど。沢山食べてくれて嬉しいし」
「ほんとか?なら食べられるいい子でいるとするか」
「何です、それ?」
思わず笑ってしまうと、安立もくすくすと笑っていた。
そして歯を磨いて二人で二階に上がって行ったら、安立に部屋に招かれた。
何だろうと思い、部屋に入ると、そこで安立に手を取られ、ぐいと引っ張られて、安立の腕の中に居た。
「あの、あ、あの!」
「どうかした? こういうのがしたかったんだと思ったんだけど」
「馬鹿じゃないですか!そうじゃなくて、あのですね、聞きたいことがあったんです!」
身をよじるけれど身体が拘束されて動かせない。
やっぱり男何だと実感する。
普段から何を考えているか分からないようなヘラヘラとした顔をしているのに、こんな風にいともたやすく拘束できるなんて――。
もぞもぞと動いて、安立の膝の上に収まるようにして座ると、安立の顔を覗き見る。
少し安立を下から睨みつけるようになってしまったけれど仕方あるまい。
「あのですね、私、好きとか嫌いとか言われてません」
「あれえ?言ったような気がしたけど、先約って」
「だから、好きだからだったんですか?」
「君こそ、僕が好きでしょう?」
「何です其れ?」
「だから君は僕が結構好き、」
そう言われてハタと気が付く。
確かに言われてみればそうだ。
父に似たこの人を、悪く思ってはいなかった。
だけれど――
「今は違うって言うか、嫌いじゃないけど、こういう事されて嬉しいと思えない」
「何で?僕は嬉しいよ。君が僕の腕の中に居るとか、可愛くて仕方ない」
「ええ?!」
「だから早く僕のモノにしたいから、早い所僕のところに落ちてこないかなと思って」
「えええ!?」
こんな強引なことする人のこと好きになりませんよと言えば、安立は笑って言うのだ。
そんな事無いよ、君は強引にされるのが好きなくせにと言うのだ。
そんな事、無いはずだ。
「それに、七海ちゃんにも応援されちゃったしね」
「えええ?なんで?」
「わっかんない。けど、応援してくれる子がいるから頑張ろうかなと思って」
「それって――」
私の為じゃないじゃん。
「もういいです!」
そう言って暴れてやってもどうせ拘束が取れないと思えば、今度はするりと拘束が外された。
何で?どうして今度は離すの。
私の事そんな好きじゃない?
「あの、えと、」
「好きだから外すよ、本気で嫌がってるの位分かる」
「………」
「でもこれだけは言わせてね。僕、本気で君を好きだから。だから愛してるになるまでしか待たないからね」
じゃあまたねと安立はふすまを締めてしまい、×××は途方に暮れる。
追い出されてしまった。
でも、追いかけて行くのは、なんだか気恥ずかしい。
だから、とんとんとふすまを叩く。
「なあに?」
直ぐにふすまが開けられて、どうかしたのかと言われた。
だからこの間と同じようにしてやった。
指を絡めて、手の甲をその指の力だけで持ち上げるように掬い上げると、そのまま手の甲を眼前に持ってきて、口づける。
それだけ、ただそれだけなのに、矢鱈とこっぱずかしかった。
恥かしくて恥ずかしくて、何でもない!と大声で言って部屋に戻ると、叔父が部屋を訪ねてきた。
どうしたと二人に問いかけて来るので、布団に入って何でもないと言うと、安立が上手く説明してくれることを願った。
「ちょっと何かあったって言うから見せて貰ったら、何も見えなかったからデコピンしたら怒られちゃったんです」
「そお!」
「何やってんだお前ら」
「だから何でもないですって言ったんです」
「ああー………静かに寝ろ。俺はこれから風呂入って寝るから、静かにしろよな?」
「はい!」
「いい返事過ぎる。黙って寝ろ」
「はーい」
それから電気を消して寝ようとしたら、廊下を挟んで向かい側のふすまの向こう側に居る、安立が見えた。
安立が先ほどの手の甲に向かって、自らの唇をチョンとくっ付けたのが見えたのだ。
「かかかかかk、間接、き………」
「うるせえええええぞおおおおおお」
「ごめんなさい!」
大人何て大嫌いだと思いながらこの日は寝たけど、眠れなかった。
何であんな事簡単にできるんだとか、どうして間接キスしたんだとか考えたら、眠れなかった。
結局翌朝に響いて、朝は簡単なベーコンエッグになってしまったのだった。
「朝はシンプルなの?」
「そうです!」
+++++
前回のが七海が入れればいいよ!叔父でも安立でもな話で納得いかないって言われたので続き書きました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます