リクエスト安立編 前編

「七海、買出し行こう」


「う、うん!分かったじゅんびする!おさいふもって!」


「分かったよ、叔父さんから貰ったお財布ね」


 家庭用財布を持って、七海と手を繋いで、買出しに出かける。

 七海は自分のお財布も持っている。

 どうやらお菓子を買うらしいと思って何だか可愛らしくて、笑みを浮かべてしまう。


「お菓子買うの?」


「うん!」


「たまにはご褒美欲しいよね」


「そうだね!」


 ご褒美と言うコメントが気に入ったらしく、七海はご褒美ご褒美と歌っていた。

 大型スーパーの駐輪場に辿りつくと、そこには沢山の自転車が並んでいた。

 どれもこれも皆ここに来るためにつけてある自転車だと思うと、凄い数だと言わざるを得ない。


 そのまま駐輪場を横切り、大きな自動扉をくぐると、店内のBGMが流れて来る。

 楽し気なBGMに、七海も嬉しそうだ。

 折角大型スーパーまで来たのだ、本屋さんに立ち寄りたいと、×××は七海に言った。

 レシピ本と参考書が欲しいのだ。

 いいかなと言うと、そう言うのはお父さんが全部家庭用財布から出せと言ってたと言う。


「参考書だけは自分で買うよ」


「そう?」


 参考書を財布から出して、レシピ本を叔父から貰った財布から出して買う。

 レシピ本は節約レシピと言う本と、簡単に作れるおやつの本にした。

 これで七海も一緒に作れるはずだ。

 そう言ってやると七海がやる気満々で嬉しそうに握りこぶしを握っている。


「七海もやるの!出来る奴?」


「うん、いつもみたいにお手伝いだけじゃなくて七海も作れるやつにしたから、七海今度から一人でも作れるかもよ」


「ほんと!?嬉しい!」


 お父さんに作ってあげるのかなと思っていると、皆に作るねとの事。

 流石に学校に持って行きやしないだろうが――小学校はどういう持ち物ならokか分からないので――友達にあげたいと言うので、応援してやりたかった。

 なので今度特訓しようと言って、レシピ本を座って休憩できるスペースで読んでいると、あれ?と声がかかった。


 上を見上げるように顔をあげると、そこに居たのは安立だった。


「なんだあ、奇遇じゃない。こんなところでどうしたの?」


「え、えとえと」


「何読んでるの?」


「あ、レシピ本です。ちょっとこれから材料買うので」


「そうなの?そっかあ、夕飯いいなあ、僕なんかそこらへんで適当に済ませようと思ってたのに、藤原さんいいなあ」


 帰ったら新妻が手料理かあと言われ、むっとする。

 新妻じゃ無いし、って言うか告白してきて?その上手の甲にキスしてきたくせになにいってるのこの人。

 私が好きだからしたんじゃないのかと思っていれば、安立と七海はもともと仲がいいらしく、今日は来ないの?と言われ、安立にじゃあ誘われたから行っちゃおうかななどと言い合いをしていた。

 ちょっと待って、連れて来るなんて言わないで。

 恥かしさに言い出したくなったが、家主の子である七海に言っていいセリフか考えて、押し黙る。


 うー、うー、言いたいよおと口をチャックで黙っていると、結局七海の意向で決定したらしく、安立は今晩このまま食べに来るらしい。


「じゃあ二人じゃ何だから、僕荷物持ちするから、それで夕飯チャラにしてよ」


「うん!ありがとう安立さん」


「七海ちゃん優しいねえ」


「七海、いいの?お荷物全部渡しちゃって。いつも運ぶの楽しみにしてたじゃない」


「いいの!今日は安立さんに譲る」


 いつも人に任せず自分で持つと言って、半分こして持ち帰るようにしているのに、今日は半分を安立が持つことに同意している。

 どういう風の吹き回しだろう?

 いつもの七海じゃないみたいで、なんだか不安になってしまう。

 そんなに安立がいいのかなと×××は思った。


「所で夕飯何にするの?僕久しぶりに肉が食べたいよ。焼肉にしない?」


「しません!そんな風に安易に高いお金使ったりしないもん。料理するんですー」


 焼肉は料理と認めないからと言えば、プはッと笑われてしまう。

 七海も手料理食べたいと×××に引っ付いてくるので、手料理を作ることに決まった。


「七海は何食べたい?」


「安立さんお客様だから決めてよ」


「えー?だから肉がいいんだってば」


「肉ね………」


「お肉………」


 何がいいんだろうと言っている二人に肉としか言わない安立に、×××はどうしたものかなと思う。

 どうせだから美味しいものを作りたい。

 そしてアッと言わせたいのだ。

 何となくだが負けないと言う気持ちがあった。


 結局なに肉がいいか聞いて、鳥以外がたまには食べたいと言う安立の意向で、今回は豚と牛を買うことにした。

 とりあえずどっちも有れば使えるでしょう。

 使わない方はとりあえず保存の方向で。


「ジャガイモと、それとさやえんどうを入れて………それと、ニンジンもないから。後はどうしよう?手羽元やっぱりかっちゃう!グラム48円何てお得じゃないか!」


「何?おお、お買い得だね。鳥の手羽元かあ、何作るの?」


「チューリップにして、毟り乍ら食べられるようにします」


 だからタレに漬けこんで焼いて食べますと言えば、安立がいいねえと言う。

 後は豚肉で作る肉じゃがと、鮭のムニエルと、他はいいかなと。

 漬物つけて置いたものを出せばいいやと言うと、何?その年で漬物まで作ってるのと言われる。


「簡単な酢漬けですから楽ですよ。年齢関係なく、野菜は取らなくちゃいけないですから」


「そうだよ、あだちさん。あだちさんもお肌のためにおやさい取らないといけないんだよ!」


 テレビの受け売りを真に受けた台詞だろうが、ぐっさり来たらしい安立。

 ううと呻いて野菜多めでと言う安立に、思わず笑ってしまった。


「これは実費で出すよ。藤原さんも帰って来たら飲むだろうから、ビール6本缶の奴ね、買いましょう」


 成程、お酒ねと思っていれば、七海がビールいいよね!と言う。


「何で?七海ちゃん飲んだことあるの?」


「飲まないよ、お魚とかお肉漬け込むのに良いの」


 ほら、フィッシュアンドチップスとかと言ってみると、七海が、


「そうだよあだちさん、美味しくなるんだよ」


 と言う。

 安立は使われてなる物かと二人からビールを隠すのだった。


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