鈍感って言われたよ

 トイレに連れ去られた。

 拉致である。


「ねえねえ、教えてよ君ぃ」


「何?凛、どうかした?」


「あのさ、あのさ、あたしたちって仲良しじゃん? ふざけてることも有るけど、結構真面目に君が好きなわけ」


「うんと、それで?」


「だから、話し聞きたいなって思って。 実のところ誰が一番好きなわけ?」


「そうなの、教えて!」


 天寺まで突っ込んだ話をしてくるため、弱ってしまう。

 天寺の場合は双子の兄の嫁に来てくれと言われている。

 だけれど、正直天寺を好きな事と双子の兄を好きな事は別だと思うのだ。

 一卵性だか二卵性だか知らないが、だからってそう言うのは別だろうと思うし、違うのは合ってると思う。


 けれど自分がこれだけ好きなのだから、兄だってと言う。

 その兄にはあまりあった事がないけれど、修行で毎日忙しいらしいけれど。

 一番好きな相手の中に、入れないといけないのは無理だと思った。


「ねえ、お兄ちゃんは入れなくてもいいからさ」


「ああ、それなら考えられるよ」


「え、お兄ちゃん望みうす?」


「違う違う。正直言えばあったことも無い人と何て考えられないから」


「ああ何だ、良かった。 じゃあお兄ちゃんと今度会って?」


 そう言えばいいのねと言う天寺に、ぎくりとする。

 一度会った事はあるのだが、冷たい目で睨まれておしまいだったのだ。

 どういえばそれを分かって貰えるか分からず、今まで無言を通していたけれど、どうすべきか。

 会うと言っても、ただ会うだけでいいのだろうか?

 だったら会っても睨まれてお終いになるだろうし、まあ――いいかあ、覚悟を決めた。


「うん、分かった。 だけど天寺君、君が私を置いて行ったり二人きりにしないでね。初見でまさかの一人ボッチはきついから」


「え………兄さん悪い人じゃないから平気だよ」


「そう言う問題じゃないんだよ………」


「まあ、そう言う問題じゃないってのは分かる」


 皆で化粧ポーチを仕舞いこみつつ、教室に戻る。

 席に各々が座り、また話に戻っていくのだが――内心では、まだ終わらないのかと言った所。


「で、誰が一番?」


「まだ聞くんだその話………」


「えー、俺も知りたいぃい」


「加藤君、席についてください。 ってか後ろ何だから早く戻れ」


「ちぇー……」


 ッタクと言えば、加藤君と仲良しよね。一番なの?と言われる。

 天寺あんまり加藤を甘やかさないで欲しい。

 一番と言われて喜び過ぎてやばいじゃないか、止めてよね。


「そう言う由紀乃は誰が一番なの? 私よりも余程大和撫子って感じだし、人気あるんだから、皆知りたがってるはずだよ?」


「ええ?私? 私はお兄ちゃん推し」


「そう言う事聞いてない」


 皆が爆笑して言うのだが、何故笑われるか分かっておらず天寺は首を傾げている。


「お兄ちゃんが一番だと思う、そう言う意味じゃないの?」


「身内はノーカンだろ!」


 加藤が言うにはノーカンらしいので、と言えば、天寺は考え込むような顔をしている。

 誰と言う気なのだろうか?

 凄く気になった。


 すると言うのだ、


「凛ちゃんかな?恰好良いし」


「あれ?モテてるぞ、あたし」


 いやあモテ期到来かも、ってことであたしどうよと言う凛に聞かれて、どうとは?と返す。

 どういう意味だろう?

 がっくりと肩を落とす凛に、加藤がドンマイと声を掛けていた。


「加藤君としてはだなあ、田中にもいいところがあるわけで、お前は鈍感過ぎるわけで――ってことを言いたいぞ」


「私?私にいってるそれ?」


 鈍感って初めて言われたと言えば、加藤がそれはおかしいだろと突っ込みを入れて来る。

 鈍感だろうと言われ、ちょっとだけ腹が立つ。

 私はアンテナビンビンに立ってるんだからねと返すと、加藤は顔を覆って教卓を指さしている。


「え………あ、」


「×××、授業である。 教科書の219ページを開け」


「は、ハイ!」


「アンテナが感度良好であれば、私が来たのが分かったはず。ゆえに君は大変鈍いと私は思う」


「………ハイ」


 教師にまで言われてしまったと周囲に笑われているのが分かった。

 何だか恥ずかしくて俯けば、教師は言うのだ、前に出て問題を解きなさいと。

 くそう、隠れて居られないよぅ。

 無理矢理そうして引きずり出されて問題を解かせられたのだった。





 がっくりと授業が終わり項垂れていれば、ドンマイだよと肩を叩きに周囲がやってきた。

 くそう、皆して笑うんだから。

 そう言ってやると、くすくすと笑いが起きる。


「ねえ、私そんな鈍い?」


「鈍いだろ。その上距離感バグってるときあるし、妙なところ固いし」


 やりにくいよと加藤が言うのに合わせて、そうだねと天寺が言う。


「鈍いよ。お兄ちゃんガン見してたことあったらしいけど、怯えてたって言うし」


「いや、睨まれればそりゃあ………」


「睨んでたの?」


「そこそこ睨まれた」


 何か凄い顔怖かったんだぞと言えば、天寺は緊張しいだからね、お兄ちゃんと言う。

 どうやら緊張すると目つきが鋭くなる人なんだとか。

 ヤダ、怖いのヤダと言えば、うーんと天寺が唸る。


「いい人よ、お兄ちゃん。絶対に合うから、一度会ってみてよ」


「それは良いって言ったよ。だけど絶対に一緒について来てねって言ってる」


「そう?じゃあ後でお兄ちゃんの予定聞いておくね!」


 ルンルン気分とでも言うのか、楽し気に天寺がしているのを見て、大丈夫かなあと思う。

 いや、睨みつけられたら天寺をバリヤーにしてでも撤退しようそうしよう――×××はそう思うのだった。



 *****


 女子会的に会話しているある日の出来事でした。

 ブラコン天寺。

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