誰のためのモノですか

 この頃よく弁当を作ってくるようになったアイツは、何故だか顔色がよくなっていて。

 話しを聞けば今までは惣菜弁当で済ませていたのを、自炊するようになったのだとか。

 そしてその弁当は二つで、高確率で俺に当たるようになった。

 弁当をもらい受ける俺。


 どうして毎日作るようになったのか聞いてみた。

 自炊をし出した途端にこれはちょっとだけおかしいようなってことではないのだけれど。

 気になったのだ。

 そうしたら、「叔父さんが毎日食べたいって。後七海もね、毎日学校お弁当何だって言うから」と言うのだ。

 なんだそれ。


 俺も以前「お前の弁当毎日食べたい!」とべた褒めしたことがあったが、苦笑するだけであいつは答えず、弁当は次の日作ってこなかったことも有った位。

 毎日作るのは大変なのだろう、けれど――たまたま作ってきて貰えたのだと思っていたけれどでも、なんだか釈然としなかった。


 だからその弾弾を俺が貰えたのが凄く嬉しかったから次を期待しようと、また作ってきてくれよと言うにとどめたと言うのに。


「叔父さんがその出汁巻卵美味しいって言ってたんだけど、どう?」


「うん、ん?おお、うめーわ!!」


「そのエビフライは七海と作ったんだ。叔父の好物だからとか言ってたっけ。七海には好評だったんだけど」


「へえ、七海ちゃんと作ったのか。 んぐ、んぅ、うん!おお、これも美味い!七海ちゃんに美味かったって言っておいてくれ!」


「あ、それもね」


 何だか余計な一言一言があってな、俺も流石に胸に刺さるような物を感じ取ったわけで。

 別に攻撃をしたいわけじゃないのだろう、だけどそれは俺にとって矢鱈胸に刺さる一言だったので、それやめねえ?と言ってしまった。

 すると、何が?と言いたげな顔をした後で、はっと気が付いたような顔をして、相手は御免と謝った。


 叔父のために用意したのか。

 叔父の為の出汁巻卵に、海老フライ。

 叔父の為………


 叔父の………



 咀嚼している食べ物の味がしない。

 美味いはずだったのに、食べ物の味がしないのだ。

 そんな話の中じゃ上手く食べれない。


 お前分かってんの?

 それよりも俺も分かってるのか?と言いたくなった。


 頭痛がする。

 ぎりりと頭が締め付けられるようだった。


「凌士さん、ええと………叔父さんのね、」


 名前呼びですか。そうですか。

 確か藤原家の凌士さんだったか、でも、何でだ?

 どうして苗字ではなく、下の名前で呼ぶようになったのか。


 むしゃくしゃする。

 気分が悪い。


 カシャンッ、音をさせて箸を置く。

 もう弁当を食べる気力も無かった。

 美味いのに何で残してるんだ、俺?


「加藤、弁当不味かった?――それともなんかあった?」


「いや、………ははっ、何か今日調子悪くてよ。弁当美味いんだけど、胃が受け付けないって言うか」


 何ていうか、そんな感じ――そう告げて、俺はあいつから逃げるようにその場を後にした。

 弁当箱の中身を半分程残して。


 早退してから家で制服の上着を脱いだ辺りで吐き気がして、トイレに駆け込み胃の中身を全部吐き出した。

 喉が焼ける痛みがする。

 気持ち悪い。


「さいってーだ、クソガ」


 弁当半分しか食べてないのにそれもパアだ。

 全部流れた。


 暫くそのままそこで呆けていたけれど、場所が場所だしと立ち上がると、吐いた所為で汚れた衣類を洗いに出してふて寝した。

 頭がぎりりと痛んだけれど、薬を飲むわけにもいかない。

 物を食べれないのだから、薬何て飲めるわけもないからだ。


 頭痛のする中、どれだけの時間が経ったことだろう?

 眠ることも出来ず、ベッドの上で横になっていた。


 ピンポーン。


「誰だあ? 昼間はうちには誰も居ませんよっての………」


 母親も父親も、大型スーパーで昼は働いている。

 だから昼間は誰も居ないのだ。

 一体誰だろう?


 立ち去るまで待っているかと思ったが、頭は痛いし眠れそうにも無かったからチャイムの鳴る玄関まで出向いた。


「はーい、どちらさん?………って、お前か」


「ああ………加藤、具合、どうなんだろうって思ってさ?大丈夫?」


 よりによってお前が何で来てしまうのか。

 こんな時に来ちまって、帰れなくなっても知らねーぞ。


「まあそこそこ、大丈夫じゃねー?………っても、頭痛とかして胃もモノ受け付けなくってさ、薬も飲めないし、ちょっと途方に暮れてたとこ」


「おい、それ全然大丈夫じゃないじゃないか!家の人って………」


「昼間いねー」


「そっか。そうだよね、ごめん」


「上がれよ。いつまでも玄関先でってのも何だし。あーでも風邪だったら拙いか。うつしちゃ困るよな」


 帰れ、帰るな。


 帰れ、帰ってくれ!!!


 でも、このままここに居て欲しいと思う自分も居て――。


 上がって行けと言いながら、帰った方がと言葉を発する。

 ずるいかもしれないけれど、相手にゆだねる恰好になった。

 でも優しいお前の事だから、やっぱりそう言うのだろうと思っていた。


「じゃあ、何か作るよ。胃に優しいもの」


「マジ?」


 この後俺が何を考えてお前に何をしてしまうのか何て事まで考える。

 あれ俺もしかしなくても、やっぱり俺はこいつを大分好きなんだなあと自覚する。


 いや、何ていうか、お前の事俺好き過ぎだなあなんて思ってしまって。

 今はそう言うのどうでもいいか。

 まず二人きりのこの空間を堪能しよう。

 そうしよう。

 いずれ友人には戻れなくても、友人以上恋人未満になれるくらいになりたいと願う。


 どうしたらいいだろう?


 恋愛経験値がない自分からするととても厳しいのだけれど――これはあいつが引っ越してきて、叔父姪として仲良くなりだした頃のそんな話し。


 俺の入る隙は、御前の中に残ってるかな?




 *****

 加藤君は色々と空回ってるけれどこの頃だったら普通に何かワンチャンあったんじゃないかと思う空気出てるんだけどな。

 なのになんで今はあんな空回りしまくってるんだお前。


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