アンケート ③



「それにしてもモフモフか」


「フサフサじゃなく?モフモフ?」


「モフモフだよ。うーんとね、加藤のねこっけもいいけど、天寺のつるつるさらさらな髪もいい。けどモフモフにはかなわないと言うか」


 触れてみれば分かりますと言うと、皆自身の髪を触れて微妙そうな顔をした。

 褒められているんだけど違うらしいよと苦笑気味。


 凛はメモ帳をパラリとめくると言う。


「えっとね、次は好きな人居る?居ないならどんな人がタイプですか」


「行き成り明確な意図が見え隠れする質問来たな」


 先ほどまでは多少ざわついていたのに、何故か室内が一瞬にして静まり返った。

 何だこの空気………

 張り詰めたような、しかも痛いくらいの視線も怖いし、一体なんなのかな。


「凛、それ答えないとダメ?」


「うん、アンケだし」


「でもさ、教室静かだし」


「気の所為じゃない?」

「気の所為だろ」

「気の所為だよね」


「何で畳みかける」


「そんなことないよ」

「ねーわ」

「ないよ?」


「うう………」


 教室は静かだし、三人のさあ答えろとの威圧も怖い。

 如何にかして逃げたいところだが、どうしたものだろうか?

 このまま時間切れを待ちたいところだが、次の授業までの時間は約2分。

 そう、まだ2分も残っています。

 如何にかして時間を稼がないと。



 あ


「じゃあ、加藤から答えよう!私考え中ってことで」


「おい、好きな人居る居ないで考え中ってお前なあ………」


「煩いなあ!もう!答えるのに勇気が居るんだから仕方ないでしょ!」


「えー、じらさないで答えてよ」


「そうだよ」


「じらしてなんてない。ただ心の準備が居るんだ」


「えー………。じゃあいいよ加藤、先答えなさいな」


「田中、御前の俺に対する温度差よ………氷河期と現代位あるんだが?」


「気の所為だよ、早く加藤!タイプでも好きな人でもいいよ!」


 と言うか時間稼ぎだ頑張れ加藤!

 これで時間を上手く稼いでくれたらお前の分のタルトは大きめに切っておくからね!と言えば、ええええ、と不満そうな声が上がる。


「っつかマジでこれ答えるのか」


「早くしてよ加藤。後がつかえてるんだから」


「本気で冷たいわ」


「凛、ちょっと冷たいよ?もうちょっとこう、さっさとしてよ!くらいにしよう」


「むしろその言い方は攻撃具合が格段に上がるような気がしますけど天寺さん?」


 もういい、そう言うと加藤は好きな人は居ないと言った。

 ただ、語られるタイプを聞く限り具体性があるので、もしかしたら居るんじゃないかと思うんだけど。


「まず、料理が上手い事。これ大前提な」


「何よその言い方」


「まっずいの食わされて死にそうになるとマジで思う、料理上手って神だからな」


「そうなの?あたしは別に料理が上手い人がお婿に来てくれたら良いっかなあって思ってるけど」


「努力を投げるなよ田中!!」


「私は板前さん達と勉強してるところだけど、上手くなれればいいなあ」


「私は別に料理は判断基準としては特にないかな?」


「×××、御前も答えるのかよ。ってかそりゃそうでしょうがっ!お前が作れば問題ないだろ!お前の場合!」


「うん、だって私、好きな人には料理を食べて欲しいタイプだからな。結構尽くす方だと思う」


 料理を作るのは嫌いじゃ無いし、むしろ好きな方。

 だから好きな人には食べさせて美味しいって言って貰えればうれしいだろうなあと思う。

 弁当を作ってくると加藤も凛も天寺も美味しいと食べてくれるから嬉しくて好き。

 ただ、最近では争奪戦の様相を見せてきたから弁当を作ってくるのもどうしようかと思うと気もあるのが事実で。

 でも材料の量からいっても、二つ作れればいいほうなのよね。

 お弁当箱も二個しかないし。

(叔父と七海の弁当箱のぞく)

 だからもう一つ弁当を増やすなんてのは出来ないし………


 いや、だから取り合いになるのかな?

 いっそ弁当作ってくるの止める?

 うーん………


「んで、まあ料理は一つの条件っちゃあ条件だけどよ?次に頭のいい子かな?んでもって俺に優しく教えてくれたりなんだりしてな」


「あー、加藤はシチュエーションにこだわるタイプなんだね」


「んーとな。ここ違うよここはね………やだもう!とかっつってよ?丁寧に教えてくれたりしちゃったりするわけよ」


「くねくねすんな加藤、キショイ」


「×××先生、田中さんが虐めます。キショイって言われました。傷つきました慰めてください」


「はいはい、加藤君。頭撫でてあげますよ~よしよし」


「先生面倒そうにやらないで、もうちょい慰めてるとき位気持ちをこめましょうよ」


「やだよ面倒だ」


 料理上手で頭のいい子か、加藤の周囲にそう言う子ねえ。

 何名か心当たりがあるので、そのうちのどの子だろうかと×××は考えるのだった。


 天寺は料理は駄目だし、後輩の子で居たけどあの子も料理は未知数で見たことはない。

 分からないから測り様がないけれど。

 二人は頭が良かったっけと思い出す。


「んで苦しかったり辛かったりしたら、胸を貸してくれるそんな優しい子がいいなあ」


「あんた、それは女の子にすることじゃないの?」


「むしろあんたがする方だよ」


 そう口々に周囲で聞いていた女子からも言われる加藤。


「加藤君って女の子にすがる方がいいんだ?どっちかと言えばついていきたいタイプ何だね、知らなかったよ」


「んーって言うか、胸貸してくれた子が居たんだよ。それが凄く支えになって嬉しかったんだ。だからそう言う子だったら付き合いたいなって」


「フーンそんな胸を貸してもらえるような女の子、知り合いに居たんだ」


「初耳、知らなかったー」


 そう言われ、少し考えてみる。

 そう言えば一度だけ胸を貸して見たことはあるけれどあれは違うよね?

 何て考える。


「成程成程、じゃあ 加藤の好きなタイプって言うのは纏めるとこんなか」


 そう言って凛が書き連ねた事を並べて行く。


「まず、料理上手で頭がよく、自分が辛かったり悲しかったりしたら、慰めてくれるのに胸を貸してくれるような子」


「居るのかそんな優良物件」


 普通に考えているのかどうかではなく、架空の人物で×××は考えているから居るのか分からないと言った様子。


「居るよ、絶対に居る。すっげえ素敵な子だから皆絶対に気が付くよ。そのうちにな」


「なんだ。加藤は結局好きな子居るんじゃないか。タイプじゃなくてそっち話せばいいのに」


「ばか、タイプでいいんだよ。好きな子居るか居ないかで答えるより明確に伝わるじゃんその方が」


「そうなの?」


「それよりさ、お前は?どうなんだよ」


「え?」


 何がとは言えなかった。

 自分の番だろうと言われてしまったことに気が付いたのだ。

 時間切れを待っているのに、何故か授業が始まらないし、どうしたら逃げられるのかを考えてしまう。

 何で今日に限って授業が時間通りに始まらないんだ!


「そうだよ君の番だからね。さあ、答えて貰おうかー!」


「え、いや、そ、そろそろ授業でしょ?」


「もしかして知らない?この時間自習だけど」


「ええ、嘘、聞いてない!?」


「自習ってさっき聞いてきたんだよ。何か先生に急用ができたとかで、1時間抜けないといけないんだって」


「嘘でしょ!?」


 聞いていない事実と何故静かになったのかは大体理由が分かった。

 ちょっと早い自習でも皆始めたんじゃないか。

 そのはずだ。

 そうじゃなかったらさっきから周囲の空気の重さがこんなに重く感じられるほど増す理由がないのだ。


「×××、俺は答えたぞ~。次御前だろ」


「ムカつく顔だな」


「ニヤニヤが止まりませんよ」


「もしかしたら先に答えた理由それ?」


「さあ?」


「意地悪何だな加藤は」


「何とでも?どっちにしろ答えないといけない空気なら、先に答えたもん勝ちじゃないかと思っただけだし?意地悪何かじゃ全然ないっすよ」


 何かむかつくけど当たってるし。

 先に答えた方がこれ、絶対に楽だったよね。


「はあ、好きな子かタイプの子だったっけ?」


「お、答える気になった?」


「もう意地張ってても答えるまで言われそうだし。色々。なら答えた方が楽じゃない」


「まあそうだな」


「えっとね、優しい子」


「範囲随分広くね?」


 張り詰めた空気の中、教室の空気はまた変わった。

 それぞれの胸中ではこのような思考がなされていた。


(それは私のことかな?)

(あたしかな?)

(参ったな、この間プリント持って行った俺か?)

(やだ、私のこと?)

(私優しい方かな?でも×××ちゃんの為なら優しい子って言われるようになりたい)

(この間シャーペンかしたことあるわあ)


「で、答えたんだからもういいよね?」


「いいんじゃね?たぶん聞きたかった答え聞いたやつら、全員聞けたと思うしよ」


「そうだね、私達も聞けたし十分かな」


「そだね」


「それでさ?何か皆ニヤニヤしてて怖いんだけど。どうかした?」


「別にそうでもねーよ」

「そんなことないよね」

「そんなことあるはずないよ」


「だから、何で畳みかける」



 *****



 二やつく顔のわけが知りたい?

 そんなの好きなタイプが優しい子何て言われたからに決まってるじゃないか。

 皆好きな子には優しいに決まってるんだ。

 だからあなたのことを絶対に捕まえて見せるよ。

 そんな宣戦布告は胸中にしまい込む。


「好きです」


 そう告げる日まで。




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