アンケート ②



 凛が何かをメモ帳にさらさらと書き連ねている様子を横目でちらりと見やる。

 たぶん先ほどの質問と回答だろうが矢鱈長い。

 結構書いているように見える。

 そして天寺もさらさらと何かを書いている。

 二人で書かないといけない程のことなんてあるのだろうか?


「じゃ、趣味は?」


「趣味?」


「俺は音楽が趣味だよ。こっち越してくるとき、家を建てたんだけど一つだけ親に条件出したんだ」


「なにを?」


「俺の部屋、防音にしてくれって。防音だったら夜中に音が漏れることも無いし、ギター弾くのも迷惑にならねーし」


「へええ、加藤はギター何てやるんだね」


 初めて知ったと言えば、今度聞かせてやるよと言う。


「まあな、こっちじゃ需要ねーけど、あっちじゃ時々は披露する機会だってあったんだぜ?」


「凄いじゃない」


「まーな」


「ってことは結構上手いんだ?後で聞かせてね」


「いーぜ?今度うち来いよ」


 二人で加藤の音楽話に花を咲かせていると、天寺や凛は入れない空気だったらしく、あのうと小さな声で言ってくる。


「何か加藤君がそう言うことできるのって意外かもって」


「そうかあ?」


「そう?結構しっくりきたけどな。いっつもイヤホンして音楽聞いてるし。音楽好きなんだろうなと思ってたよ」


 成程そうかと頷く天寺。

 確かに彼が常に音楽を聞いているのは知っている。


「えっと、私の趣味?」


「ああうん、何が趣味?」


「私の趣味って言うと、モフモフした物を撫でるの好きかな」


「え?」


「モフモフ?」


「うん、モフモフ」


「って×××、お前料理するの趣味じゃないの?」


「ああ、料理は好きでしているだけ。趣味って言うかまあこれも趣味かな・でもモフモフしているモノを触ると癒されるでしょ。うちの佐藤さんとかも可愛くて仕方ないよ」


 佐藤さんとは×××が藤原家に連れ帰ってきた子猫のことである。

 居候の身であったが、子猫を飼っているのであった。

 それは何故か。

 七海も猫を飼いたいと言っていて、そして×××の後を付けて来てしまった猫が居た――それが佐藤さんだったのである。

 佐藤さんはそれはもう可愛らしくて、とても可愛らしくて――×××は毎日メロメロなのである。


「一日中触っていても飽きない」


 先月のことだったか、夕飯の時間を忘れて猫と戯れていたことがあったが、その時は叔父と七海に呆れられたものだった。

 きちんと夕食を作っておいたからそれくらいで済んだけれど、本来怒られる事柄だったかもしれない。

 それほどまでに周囲に迷惑をかけているのは自分でも分かっているつもりだ。

 ただ猫をもふもふ、犬をもふもふしていると時間がたつのが早いのである。


 叔父などは猫がそんなにいいのかと、呆れつつも仕方ないと言った様子であった。

 可愛い物ふわふわしたものが好きなのだ。

 だから猫何てものは一番の癒しだったのである。


「猫………猫ねえ」


「そういやお前、前に野良猫にも餌あげてたな」


「うん、最近は野良に顔を覚えられてるような気がするよ」


「おまっ、まさか顔覚えられるほどやったのか」


「そんなにあげてないよ。10回も上げて無いし」


「10やってるかやってないかくらいあげちゃってるの!?」


「まあそれくらいかなあ?」


 たぶん、10はやってないはずだ。


「×××ちゃん、駄目だよ餌付けなんてしたら、飼えないのにそんなことしちゃだめよ」


「でも、可愛いんだ。餌欲しいって来られるとあげちゃうんだよ」


 注意する理由もわかるんだけれど、お腹を空かしてにゃあと寄ってくる猫たちに何も上げないなんていられない。

 何か食べ物を持っていたら思わずあげてしまうじゃないか。

 そう言ってみたが天寺は駄目なものは駄目だと言う。

 それが正しい姿勢なのだろうが、猫に会うと自制が利かないのだ。

 思わず項垂れてしまう。

 ごめんなさい。


「と、兎に角明日から絶対にあげちゃ駄目だからね!」


「うん」


 あーああああああ何か悲しい。

 幼い頃に母に言われた言葉がよみがえる。

 猫?駄目よ買えないもの、捨ててきなさいと言われたあの日の言葉が、とても悲しかったことを覚えている。

 その時は近くの獣医に猫は引き取って貰えたが、あの日以来猫が困ってるのを見ると可哀想で餌を与えていた。

 確かに自己満足でしかない。

 周囲の人間に取ったら迷惑だろう。



「ああああああ、天寺が×××泣かした!!」


 そして言うなりぎゅっと加藤が抱きしめて来る。

 それが心地よく感じてべそをかいているのを誤魔化す為に顔をこすりつけてみると、ふぐうと声がした。


「ちょっとずるいわ、加藤君!」


「いいよ、加藤。私がいけないんだから。今度からちゃんとする。毅然とした態度で、猫に駄目よって餌を与えないようにするし。 だけど………今度から猫をお迎え出来るようになってみせるよ」


 きっと保護猫を迎えて見せると言う×××に、よく言ったと加藤が頭を撫でてくれるのだった。


「もういいよ。そのくらいの気持ちになってるなら、保護猫私も手伝うよ」


「本当か、天寺!有難う!」


「ううん、良いのよ。大丈夫だからね」


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