帰り路
久しぶりだからなのだろう、緊張する。
別段、何をしているわけでもないのにだ。
ただ、会話をしつつ、帰路についているだけ。
だと言うのに、どうしてだか緊張する。
手に汗を握り締め、そわそわとして落ち着かない。
なんだと言うのだろうか、この浮き足立つような感覚は。
「――で、この間の、」
「え?あ、ごめん。聞いてなかった」
「加藤?」
「な、何?」
「えっと、あの………大丈夫か?顔、赤いけど」
「ええ?!あ、赤い?!」
「ほんとだあ、何考えてたの?」
「ほんとほんと、顔真っ赤だけど」
「ええ!?嘘だろ!?」
「赤いっす先輩」
「マジかあ………」
顔が赤いと指摘され、思わず頬に手をやる。
確かに熱い――傍に居るだけで赤面とか、ねえだろ。
何だか俺一人、舞い上がってしまっているようで、恥ずかしい。
だって今日は×××の家に行けるのだ。
勉強会だけど。
熱引けー!
熱引けー!!
と言うよりはむしろ、頬の赤みが引いてくれるだけで十分なんだけど。
一人目を瞑り、熱が引くようにと精神統一をしていると、気遣わしげな言葉がかけられた。
「熱あるなら、病院行けよ?」
「ん………別に風邪じゃないと思うから、いい」
「? まあいいや。それでさ、暫く暇じゃない?勉強もまあ必要だろうけれどテストもないし、そうでしょ?」
「そうだね」
「え、ああ、うん」
「テスト無いって解放感だよねえ!」
「だから………今度の日曜、暇かなと?」
「………え」
「暇かなと??」
少しだけ、×××の顔は照れたようになっていて。
でも、一緒に田中たちも居るから、全員に聞いていると分かるけれど、それでも嬉しくて。
恥ずかしそうに目を伏せ、視線をちらと送ってくる所作が可愛らしくてならない。
そんな視線を送られたのは俺だけで、頭がおかしくなりそうだった。
それを見る自分も、思わず頬を赤くしてしまう。
折角下がった熱がまた頬に集まってきてしまったと言うに、なのに頬がにやけるのを止めることが出来ないでいる自分がいた。
これは、休日のお誘いってやつでありますか?!
本当に本当に久しぶりだった。
テスト週間の前も小テストが続いていて、日曜も遊びに集まれなかったのだ。
×××と過ごすことが、だから久しぶりで。
マジですっげ久しぶりなんですけど!
だから、誘われているだろう事実に内心小躍りしたい気持ちで一杯だった。
けれど赤面していることを指摘され、恥ずかしい思いをしたんだから、何か意趣返しをしてみたい、そう思った。
要は悪戯を思いついたようなもんだよな、これって。
どうしようかな?
まともに答えてもつまらないだろうと思う。
否、つまらないなんてことは無い。
×××に休日構ってもらえるんだから、これ以上無いって位楽しいだろうと思うし、嬉しすぎる。
けれど、自分一人恥ずかしい思いをしたことが少しばかり悔しいのも事実なのだ。
だからこその意趣返し。
さて、どう答えたものか――
暫し考えると、ちょっとした閃きが舞い降りた。
にやり笑い、言ってみたのだった。
「ごめんなあ、俺、その日はもう予定があるんだ」
「………そうなのか。じゃあ、次の日曜は?暇?」
「ええ、加藤マジ? ならあたしたちだけで遊び行っちゃうけど」
「そうだよ?行っちゃうよ? 全員で遊ぼうって言ってたのに」
「ごめん、その日も用事あるの。 たまには俺にも用事があるんですー」
「なんすか、その用事って」
聞くのは翔太だ。
そして同じセリフを並べるように言うのは×××。
その頬は少しだけ膨らんでいる。
こういう表情を見ると思う、矢張り×××も自分と同じ歳なのだと。
時々忘れがちなんだけど、同い年、なんだよなあ。
落ち着き払った顔ばかりしているから、つい忘れてしまう。
むくれてしまった×××の方に向かって、先ほど閃いた言葉を、そっと囁く様に言ってみた。
日曜日は、どっちもお前んちに遊びに行くの。
「だからワリーな、予定はもうとっくに入ってる」
「なっ………ば、馬鹿!馬鹿なの!?」
「顔、赤いぞ?」
「何でもない!」
「何て言ったのー?」
「私の家でってさ、どうせだから勉強会でもする?」
「いいよーそれでも。テストで好成績取ったことで結構今うち、門限とか厳しくなくなってきたからちょうどいいや、夕飯も材料かって作ろうよ」
そんで食べてくのと言う田中に、思わず笑った。
お前料理てんでダメじゃん。
「んじゃあまたな!また明日」
「また明日!」
「俺明日お前の家に迎えに行くよ!」
「え?あり、がとう?」
「佐藤さんに会いたいし」
「ああ、なら全員で×××ちゃんち集合で行こうよ」
「いっすけど、一番遠い家っすけど。 じゃあ俺ここ何でまた」
「じゃあな翔太!」
「はい!」
「私もここだから!じゃあね」
「あたしは由紀乃と一緒によるところあるからこっちいくよ、送りオオカミすんなよかとー!」
「わーってるよ、じゃあなあ!」
「お前、馬鹿だろ加藤君」
「何?」
「日曜日暇って聞いてどっちも私の家って………遠くにバイクで遊びに行こうって言おうとしてたのに勉強会になっちゃったよ?いいのか?」
「いいって。たまには勉強した方がいいっしょ。そう言う事も必要ですから」
本分が学生よ俺等と言う俺に、×××は苦笑気味だ。
この日々が何時までも続くと信じて。
とりあえず今は、次の日曜を楽しみに生きるとしますか!!
「×××!日曜にケーキな!」
「却下!!」
*****
バイクは叔父の持ち物ですが、免許取ってるので姪も乗れると言う。
そして加藤もスクーター持ってるので遊びに行きませんかと言うお誘いをしたかった、と言うつもりだった。
ってことでこの後二人は勉強会してました。
仲良し二人に七海プラスで勉強会。
七海セーフティのお蔭で何も起きませんでしたとさ。
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