娘さんをください ⑧



 食事を終えて、居間とキッチンテーブルとに散った面々を見やり、さて、客用の布団は何枚あったかなと思う。

 もしかしたら一枚足りないかもしれない。

 客間は二階にある自分の部屋の隣だが、そこには一組しか用意されていなかったのだ。

 他の場所にあっただろうか?

 今日の客は二名、二組が必要なのだが――


「凌士さん、あの、布団って二階にあるのだけですか?予備は」


「あ?あ~、客用か、そうだなぁ、二階にあるのだけ、だなぁ」


「何々、×××?」


 するりと首に巻きついてきた腕に手をかける。

 別に引き剥がすつもりもなく、そのまま手を添えるだけ。


「父さんと、安立さんの分の布団の話」


「ふ~ん。布団か、久しぶりかも」


「何がです義兄さん」


「和式の布団が久しぶりってこと。ここ数年ずっとダブルベッドだよ?和式ってだけでも可也レアなんだ~」


「ふ~ん」


 とりあえず父さんにされるがままになっていると、父さんはそれに気を良くしたのか、片手を掴み自分の顔の位置まで持っていく。

 そこで自分の片手と私の片手を合わせてサイズを測っているようだ。

 父さん、それ、好きだよね?

 数十秒と言うほど長くもなかった時間、そうしていたと思ったら、急に父さんはぼそりと言葉を呟いた。


「×××、もう身長伸びないね、お前」


「行き成り何をしてるのかと思えば厭味?厭味なのそれ??」


「だって、数ヶ月ぶりに×××とこれやったけどさ?掌のサイズ変わってない」


「自分だけ大きいからって何!?やっぱり厭味じゃないか!私は小さいの気にしてるって言ってるでしょう!?」


「別に小さくはないじゃないか~。ただぁ、私より小さくて、凌士君より小さくてぇ?加藤君より小さくて、凛ちゃん達より小さくて。で、安立さん?よりも小さいだけでしょ?」


 何その追い討ち?

 更にはいらない追撃まで入る始末だ、ははは、笑えねーぞ?


「でもそれくらいの身長が×××ちゃんには似合ってると思いますよ~?」


「ああ、それくらいでいいんじゃねぇか?」


「何でですか!?せめて後3センチくらいは欲しいと思ってるのに、どうしてそういうこと言うんですかっ!」


 安立も叔父も何故か小さいほうが似合うという。

 今の身長じゃ私は満足いかないと言うに、自分達は軽々と私の目標の数値を超えた上で言う「それくらいがお前には似合いだろ?」と。

 何?

 自分達はその身長あるからって、私のこと馬鹿にしてるんですか?

 イライラとして睨みつけてやれば、叔父も安立も逆ににこにこと笑みが深くなるばかり。


 どうして私の周りにはこう、私の神経を逆撫でするのが得意な人ばかりが集まるのだろうか?

 分からない。


「そのほうが可愛いよ?」


 何といいましたか?

 可愛くなくていい!身長はもっと高い方がいいんだ!!


 叔父も安立も何故かこちらを見てにこにこと、生暖かい視線をくれてくる。

 何その顔、うざい――と言うよりか、むかつくと言った方が正しいか。

 もうイライラも最高潮になったところで父さんと一緒に寝たいかな~?とか考えていたのに、それも吹き飛んだ。

 もういい、父さんには外で寝てもらおう、そうしよう。

 そうすれば布団もう一組いらないじゃないか。

 今日一番の名案だと思わないか?


 にこり、微笑みつつ言ってみた。


「父さん、今日は外で寝ようか?」


「何でそうなるの!?可愛いっていいことでしょ?!」


「むしろ馬鹿にしてるんじゃないのかって思うよ」


「私の娘は可愛いよ!大体、×××が本当に可愛いのが悪いんでしょ!?」


「可愛い可愛い連呼するな!」


「私とあの人の子供だよ?可愛くないわけないじゃないか」


「それはさ、自分が綺麗とか、可愛いとか、言ってる?だとしたらぶん殴るけど………?」


「そういう意味に取るの?!違うよぉ、×××が可愛いのは、私が親だから可愛いって思うってこと」


「ならいい、許す」


「とりあえず父さん、今日は私と一緒に寝ようか。お客様用布団は安立さんに使ってもらうから、いいよね?」


「うん、いいに決まってるでしょ?」


「――とりあえず今日は一緒に寝てあげる。寝る前に色々と話聞いてよね?数ヶ月ぶりなんだからさ、色々と聞いてもらいたいこと、いっぱいあるんだからね!はいはい、なんて言ってないでさっさと風呂に入ってきなよ!寝る前に話しする時間が減るだろ!」


 真っ赤な顔で言うと、やっぱり僕の娘は世界で一番可愛いよ!と、父さんに抱きつかれた。





 何言ってんだか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る