娘さんをください ②
駅のロータリーに、見慣れない怪しい男が居る。
その情報からしてロータリーにもう居るのだと気がついた。
早いよ、来るの。
怪しい男、それが誰を指すかなんて分かりきっている。
ロータリーが見える位置を歩いていると、段々と道ゆく人が噂をしていた主を発見した。
近づくにつれ足が重くなる。
けれど直ぐ後ろにはいつものメンバーがいる――逃げられない。
ほんっと最悪なんだからね!!
もうっ!
段々と輪郭がはっきりとしてきた。
ああ、矢張りあのロータリーに居るのは彼だ。
長い足をゆったりと組んで、ベンチに腰を下ろしている男。
都会の匂いがするどころの騒ぎじゃない。
その見た目はどちらかと言えばモデルかと見まがうばかりの美貌だ。
目元は覆われていて見えないが、見えない部分があるとは言え、美しい顔をしていることは簡単に分かる――それほどまでに美しい男だった。
けれど、そんな美貌の持ち主と田舎町では、不似合いにもほどがある。
更に言えば見た目が怪しすぎた。
こんな田舎町に、ダークグレーのスーツをきっちりと着こんでいる人間なんて浮いてしまう。
顔を覆っているのはサングラスだが、どこのメーカーのものだろうか?
これもまた洒落っけのあるもので、尚更田舎町には不似合いだった。
誰もが遠巻きに見ているだけで、近づこうなんて人間は人っ子一人いやしない。
そこに一年前に引っ越してきた学生が近づいていくものだから、人目を引いてしょうがない。
もう、ほんとヤダ。
後数歩と言うところまで近づくと、向こうも気がついたようで手を振ってきた。
「――×××、学校は終わったの?もう少しかかるかと思ってたよ」
そう言って旅行鞄片手に歩いてくる。
途端足を一歩引く――反射的に動いてしまった自分に、思わず舌打ちをしたくなった。
ああ、何やってんだろう。
「はぁ、目立ちすぎ。近寄りたくない」
「え~、これでも頑張ったんだよ?×××が逃げないようにシックなのを選んだほうだし。このスーツだって――これでも駄目なの?」
「じゃあ若作りって言えばいい?」
「えー、若作りなんてしてないよ。普通にこの顔なんだから」
「じゃあ童顔だ」
「海外だと特になんだけどね、男でそれはあまりよくないよね。 もう少し他の言い方がないかな?」
「じゃあホスト顔」
「私はそんな顔かい?傷つくなぁ」
だって他になんていえばいいんだ?
「その顔で、その服装で………ホストでしょ?ホスト以外に何があるの?」
「ど、どこがぁ!?×××、冷たいよぉ~、」
酷い~と、俺の肩に縋りついて来る男を見て、ついてきていた仲間も目を白黒させている。
見た目がアレで、縋りついている対象は学生――凄い絵面だ。
もうほんっと嫌だ。
だから着いてきて欲しくなかったんだけどなぁ――もう!!
「あの~×××サン、あの、こちらはお前のお父さんでいいのか?」
「正真正銘俺の父親です」
「ぅ~ん?どなたかな?友達かい?」
「友達だけど後で紹介するからちょっと待ってね、父さんの相手は後でしてあげるから」
「×××、ちょっと冷たくなった?」
「そうでもないんじゃないかな?」
しゅんとなる自分より30センチほど背の高い父を前に、冷たくしすぎたかなと思う。
それにしても他の人の前でまで、そんな風に落ち込まれても困るんだけど。
母さんこれの何処が良かったんですか?
しくしく泣きながら、父が私の首に縋りついて来る。
だから外でこれをやるなと言うのに、何故に守れないのかこの馬鹿は!!
人目を少しは気にしないと駄目と言うのに、母も父もあまりそういうことに頓着しない。
だから自分が迷惑をこうむるのだ――最悪だろ?
いや、嘘だ。
本当は父さんのこういうへたれな所も嫌いじゃないし、むしろ可愛いと思う。
ただ恥ずかしいんだろう。
「はぁ………」
それに、別に冷たくしたいわけじゃないんだけど、コンプレックスの塊みたいな父が目の前にいると、どうしても憎まれ口がついてでる。
他に人が居なければ多少は素直になれるのだけれど、こればっかりはどうしようもない。
後で二人きりになったときにでも優しくしよう、甘えよう。
うん、そうしよう。
天寺がそんな様子を伺っていたが、質問をしたくて仕方なかったんだろう、私がため息をついたのを合図にし、質問を投げかけてきた。
「あの×××ちゃんの、失礼なこと聞いちゃうけど、本当のお父さん?再婚されたとかじゃなくて?」
下手をすれば怒られても仕方ない質問だ。
まぁ、確かにうちの父親は見た目がこんなだけど、私とそんなに似てないのだろうか?
「若、い………よ、ねぇ?」
「失礼ですけど、お歳はいくつになりますか?」
うんうん、君等、ちょっとストレートすぎるぞ?
天寺が濁してるのに、ぶっちゃけて聞きすぎ。
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