娘さんをください ①
着信アリ
その文面がスマートフォンの小さな窓がチカチカ光る。
誰だろうか?
自分が席を外していた、ほんの短時間の間に誰かが電話を入れたらしい。
「あ、おかえりー。さっき携帯鳴ってたよ?」
「うん。誰からだろ?」
ぱかり
スマートフォンを開くと画面をたぷたぷと押し、慣れた動作でもって着信があった相手の名前を呼び出した。
出てきた名前は、意外な人物だった。
「――嘘、なんで??」
「×××ちゃん、授業始まるよ?」
「あ、ああ、うん」
急いで携帯を鞄の中に押し込める。
相手方には昼休みにでも、折り返しの電話をすればいいだろう。
昼休みになると急いでスマートフォンを開く。
目的の人物へ繋がるショートカットキーを押すと、直ぐにその人物は電話に出て応答した。
「――もしもし、×××?」
「あの………父さん?」
「久しぶりだね、×××。元気にしてたかな?」
「うん、元気にしてたよ。そっちこそどうなの? 急に連絡なんてしてくるから………ちょっと吃驚したよ」
「ああ、あのね、今新幹線の中で、もう直ぐ乗り換えなんだ。それでね、そっちに■■■に向かってるところ。 着いたらまた連絡するつもりだったんだけどね?迎えに来てくれないかな?」
「はぁ!?な、なんで!?」
「え、だって私はそちらに不案内だし、道が分かってる×××が居てくれたら助かるじゃないか。 それに凌士君には仕事もあるだろうし、そんな仕事で忙しい時間帯に頼むのは心苦しいだろ?だから×××が来てくれない?」
「そ、そうじゃなくて!なんで■■■に来るの!?仕事だから海外に一年行って来るからね~!って言ってたのは父さんじゃないか!?」
「そうだよ?けど、仕事の休みを無理矢理ひねり出したから3日間ほど時間が出来たんだよ。だから久しぶりに娘の顔を見てこようかなと思って。移動だけで往復込み込みで2日もかかるけど、たまには親子のふれあいって大切でしょ?」
「あの人は?」
「置いてきたよ?だって私の休みをひねり出したら、あの人の仕事は逆に山積になっちゃったからねー」
「………はぁ、一人でくるんだ」
「ああ、秘書は全員置いてきたよ?そしてきちんと机に
旅に出ます
探さないで下さい
って出しておいたから平気でしょう」
「捜索願が出されるだろ!?」
「大丈夫だよ、毎回これ出しても、3日すると捕まえに来られちゃうから」
「毎回なのか!はた迷惑じゃない!!」
「とりあえず頼んだよ~、じゃあそろそろ切るね。新幹線から乗り換えないといけないから………」
「ちょっ――!!」
ブチッ
ツーツーツー………
勝手だ。
一方通行気味に話して切りおった。
ため息を一つつくと幸せが逃げるそうだけど、一つくらいいいよね。
「はぁ………」
なんで行き成り休み作って■■■に来ようなんて考えたんだろう、あの人は。
意味が分からない。
とりあえず駅まで迎えにいかないといけないらしいが、どうやらまだ新幹線がある場所までしかこれてはいない様子だ。
と言う事は最低でもあと2時間から3時間の猶予がある。
では放課後に駅まで迎えにいく形になるのだろうと言う事で思っていいはず。
とりあえずぱぱっと昼食を済ませてしまおう。
弁当をぱかりとあけ、手を合わせて「いただきます」をし、行儀良く食べていく。
今日も悪くない味付けに仕上がっていると思う。
叔父にも七海にも同じ弁当を渡したが、美味しいと言ってくれるといいなと思いながらもくもくと食べる。
「よう、今日弁当?俺は今日パンなんだけど、やっぱいいよなぁ×××の弁当。うまそ~」
「今日はもう一つ作ってくる余裕なくってね、ごめんね」
その代わりおかずを多めに一つタッパーに突っ込んできたんだと渡す。
向かい合うようにして座るように前の席に座ってきた加藤は、惣菜パンと菓子パンをいくつか抱えている。
デザートのプリンまで抱えているから相当食べるなぁと妙なところで感心する。
私の机のあいている部分にドサドサとパンを乗せると、いる?と聞いてきたのだ。
「そんなに入らないし、いいよ」
「じゃあ、ちょこーっとトレードってことで弁当食わしてもらいますねー?」
「いいよ、じゃあ………その焼きそばパン一つとプリン一つ頂戴」
「おっしゃ!どうぞどうぞ~。じゃあかわりに俺は×××のお手製弁当を~っと」
「どうぞ………あ、駄目だ。箸洗ってくるから待ってて?」
「んあ?別にいーよ、このまま食うし。ってかパン一つとプリンで午後足りんの?まあおかず多少食べるみたいだけどさ」
「足りる。元からあんまり食べないほうだし――今日は食欲もないしね」
父の所為で――
「ふ~ん………でも、まあ食べねーと、肉つかねーぞ?」
「いいよ、別に。今の体型も、そう悪くないよ」
体が案外薄っぺらだと、加藤に言った事がある。
先日、お前にもコンプレックスの一つでもあるのか?という加藤の質問の答えとして言った台詞だった。
筋肉がついても元から線が貧弱であるため、ちょっとついたくらいでは見た目があまり変わらないのも難点なのだ。
だからコンプレックス。
かえられないものだからこそ、嫌なんだ。
更に突っ込まれた話もされた。
加藤には、薄っぺらのクセしてお前は食わないじゃねーの?といわれたけれど、胃袋の問題がある。
無理に詰め込むことが出来る体だったら、とっくの昔に沢山食べて解決している問題だ。
それが出来ないからコンプレックスになってしまってるんだよと苦笑する。
「ま、俺はお前の体つき、嫌いじゃねーけどさ。むしろ小さくてちょうど抱え込めそうな感じで?可愛いと思ってるけどね。コンプレックスなんて人それぞれだけどさ?」
「可愛くなんてないよ」
――もっと可愛い人知ってるし。
せめて筋肉質になったりすればいいのに、胸もあまりなければ、筋肉だって付きづらい。
せめてと思った体形の人は知り合いに居るのだ。
だから――身近にいたから尚の事嫌だったんだ、この体が。
最近は叔父にもコンプレックスを感じている。
あの逞しい体つきは正直反則だろうと思う。
ずるい、そう思う。
もう直ぐ自分の目指す基本軸を形と成した人もやってくる。
自分は、あの人を前にして、平素のままでいられるだろうか?
午後4時――校内には、放課後を告げる鐘の音が鳴り響く。
珍しいこともあるものだ――仲良くしている全員が一緒に呼びにきた。
常ならば一人が別個で誘ってくる事はあるかもしれないが、全員でなんて初めてだろう。
何かあったのかな?
けれど、今日の放課後は父を迎えに行かねばならない。
「ごめんね、今日この後、父が来るんだ。迎えに行かないといけなくてね。 だから放課後、あけられないんだ」
悪いと言い、席を立とうとすると俺も行く!と加藤が声を上げた。
なんだって?
なんできたいのさ???
「×××のお父さんだろ?俺も会いたい!」
「な、なんで???」
「あ、私も!」
「はーい!あたしも!!」
「いや、だから、なんで?」
全員が俺以外と視線を交わし、なんでって――ねぇ?と言う。
どうやら皆にとっては当たり前のことを質問してしまったようだ――なんでそんな当たり前のこと聞くの?って、そんな顔をされても困ります。
「×××のお父さん来るなら俺、友人やらせてもらってますって言いたいんだよ。駄目か?」
「それはいいけど」
「んで、×××を嫁にくださいって言う」
ん???
「………ちょっと待て」
もう一回言ってくれないかな???
「私は料亭の跡取りとして娘さんをお兄ちゃんのお嫁にくださいって言わなくちゃ」
「………え」
幻聴かな??
段々とおかしな方向へと転がってきましたね。
「あ、あたしはまだ友達です、かなぁ?」
「まだっていうか、あの――凛さん?」
まだって、まだって!?
対抗なんてしないでくれていいんだよ凛?
皆が行き成り壊れただけだからね?
真似することなんてないんだよ?
「後輩っすけど、俺も会いたいです」
「あの、会ってもあんまり面白くない………よ?それと、後輩だからとか先輩だからで張り合うのは必要ない」
「婿に入る覚悟は出来てるんで!!」
何の話なの!?
「ちょっと待て何の覚悟が出来てるって!?やっぱり無理!!私の学校での生活態度が心配される!?否、むしろ怒られる?!」
皆どうかしたのか!?
今日おかしいぞ?
もしかして女子ズの毒手料理か何か食べたのか?
「「大丈夫だって、どーんと安心して任せなさい。まあその時は、きちんと責任持ってあげるから(嫁にきてくれればいいから)」」
「それ、弱みを盾に取ってるだけじゃないか!」
とりあえずこの面子でいった場合、私は物凄く学園生活を心配されそうです。
主に人間関係の心配ですが。
大丈夫だろうか?
因みに皆さん目が全く笑っていませんね。
まさか本気?
んなわけないですよねー?
ね?
*****
距離感バグった理由な父親です。
どんな父親なのでしょうかってそういう父親です。
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