さくらんぼ 後編

時系列順くらいに文章の位置をずらしました。

読みにくいかもしれませんが、どうかご容赦を。

*****



「私も一つちょうだい?」


「はいどうぞ、天寺なら大歓迎だよ」


「じゃあ、一つもらうね?」


「×××ちゃん、私ももう一つだけいい?」


「どうぞ、結構あるから二つずつくらいなら別にいいよ」


「やったー!んー!やっぱこれすっごく美味しい!!」



 ――それにしても、高いさくらんぼだって聞いていたけれど、流石一粒ン百円だ、普通に美味しい。

 一つを頬張り味わいながら食べていると「ねぇねぇ知ってる?」と、至極楽しそうに話しかけてきたのは凛だった。

 にやにやとしていて気味が悪い。

 何かたくらんでるな、これは。


「何が?」


「さくらんぼだよ♪」


「何?さくらんぼがどうかした?」


「こーれ!」


 べーっと舌を差し出してきた凛。

 どうやら己の舌を見ろと言う事らしい。

 凛の舌の上にはさくらんぼの枝があった。

 けれどその枝はどこかおかしい――一つだけ歪な節がついている。

 それを見た天寺が歓声を上げた。


「あー、凛、凄い凄い!結べるんだ!」


「ぎりぎり一つ結べるか結べないかって程度なんだけどね?」


 一つでも結べれば相当凄いと思うのだが――。


「どうどう、×××ちゃん?」


「何が?」


「×××ちゃんは出来るかなーって」


「ああ、そういうこと。と言ってもね、私そういうのやったことないから、初挑戦だなあ………出来るかな?」


「そうなのか?んーじゃあ俺もやってみるか」


「私もやってみようっと」


 凛を除いた三人で食べ終わったはずのさくらんぼの枝を口へ放り込む。

 皆で口をもごもごとさせている風景はいっそシュールだ。


 味も素っ気も無いから口に含んでるのも結構疲れるなぁ・・・



 暫くすると最初に声をあげたのは加藤だった。


「出来たぁ!!」


 そう言って私の前に舌を突き出してくる。

 ワカッテマスカ?ここ、教室なんですよね。


「な?俺のほうが凛より上手く結べてるだろ?」

「………んー、そうだね……んぐむぐ」


 確かに綺麗に二つ結び目が出来ている。

 結構器用じゃないかと褒めると「だっろ~、任せとけよ!」と、矢鱈嬉しそうだ――どうかしたのか?


「……ん!出来た!どうかな?」

「おおー、天寺も結構綺麗に結べてんじゃん」

「ん、どれどれ?」


 天寺の枝の結び目も一つだけだが綺麗に出来ている。

 皆中々器用にやるなあと感心した。


 やっぱり私も、もう少し頑張るか………


 ただ同じまねをするんじゃつまらないし、もう少し頑張ろう。

 再び私は口の中で枝をこねくり回しはじめた。

 この初めての作業が結構面白い。

 とりあえずでやり始めてみたけれど、きちんと出来上がるか目の前で見えるわけじゃないので、出来上がりがどんなものになるかと思うとそれも手伝ってわくわくする。

 んー……もう少しで………




 一人もごもごしていると、凛がまた何かを言い出した。


「――で、やっぱりこの中だと加藤が一番上手いってわけなのかな?」


「あ~、そっか、そうなるよね?」


「ん~、やっぱそうなっちゃう?なっちゃうよな?いやぁ~、何かあれだな、こういうのって」


「何がよ」


「いや、何かね、男としてちょっと面子が保てて嬉しいな?みたいな。と言うわけで安心して身を任せていいですよ×××?」


「………何が?」


 全くもって話を聞いていなかった、そう正直に述べるとがっくりと肩を落として加藤がしょげてしまった。

 凛がその様子を見て、ざまぁと呟くと、説明をしてくれた。

 ざまぁって凛も加藤にきつい。


 どうして二人とも素直にならないのか。

 二人とも似合いだと思うし、思いあってるんじゃなかろうか?と思うのだが、凛は加藤にどこまでもきつい。

 これではしょげている何だか加藤が可哀想に思えてくるというものだ。


「×××ちゃん知ってる?さくらんぼが結べるとキスが上手いんだって証明になるんだって」


「へぇ、そうなんだ」


「それでね、私も凛も一つしか結べないけど、加藤君は二つ結べたからこの中では一番キスが上手いんだねって話してたんだよ」


「へ~、そうなんだ」


「さっきから同じ台詞しか発してないぜ×××」


「へ~、そうなんだ」


「おい!」


「いや、だってキスが上手いと何かあるの?」


 キスが上手かったって別に得することなんて特にないしな。

 何をそんなに騒いでいるのかそれこそ皆目検討もつかない。

 そんな風に言うと三人は「そんなんじゃ駄目だよ~、×××」としたり顔でたしなめてきた。

 何だその顔。


 したり顔って結構むかつくんだね。

 ちょっとむっとした気持ちそのままを、顔に出してみた。

 すると×××ちゃんが拗ねた~と、更なる追撃が入って散々な結果に……


 拗ねたわけじゃないんだけどと言っても無駄なようだ。

 けらけらと笑う女子二人の顔を見て、何を言っても無駄なことを悟った私は、早々に自ら口を噤んだ。

 すると今度は加藤のターンのようで、これまたしたり顔でこんなことを言うのです。


「だからさ、加藤クンはテクニシャンなわけですよ」


「自分で君言うなよ。と言うかテクニシャンって何言ってるのあんた」


「悔しいな~、絶対に私のほうがテク持ってると思ってたのにぃ」


「こらこら、凛サン、はしたないよ。人前でそんなこと女の子が言うもんじゃない」


「×××は女の子のほうがキス上手いとやっぱり駄目?」


「そういうのは良く分からないかな? 上手いとか上手くないって言うより、そういうのって想いあってる人同士がするものでしょ?大体相手が本当に好きならキスなんて副産物でしょ? 相手が自分より上手かったって言っても、それが左右することなんて本当に僅かなものだと私は思うよ?」


 そう言うと「そうだよね、何か私、先走しちゃったかも」と凛はばつが悪そうにしている。

 そこまで反省されても逆に困るんですがね。



 もごもご


 もごもご


 もごもご



 ん?


「んー、よし……出来たよ」


 ぺっと吐き出し花村の前に出してみる。

 それも結構上手く出来たんじゃないかなと自画自賛のおまけつきで。


「おお、出来たのかー……っておまっ!?」

「うそっ」

「……すごい」


「うん、良く出来てるかな?」


 指に取ってくるくると回してみる。

 俺が作ったのはちょうちょ結びだ。

 どうせやるならやっぱり人と違うのがいいよねと思った私は、一つ結びとかじゃあ度肝は抜けないと思い、ちょうちょ結びを選んだ。

 結構時間がかかったけれど、何とか形になった。


「さて、さっきの話をそのまま返すぞ。これで私はキス上手いって証明されたわけかな?」


 くすりと笑って言うと三人が負けたと机に付した。


「まあ、暫く使う必要もないテクニックではあるよね」


 相手が居ないフリーの身の上だからさ。


 そう呟くと三人が途端、復活した。

 何故か表情が明るく、目がきらきらと輝いている。

 何で嬉しそうなんだお前ら。

 人がもてない不幸を喜ぶのか、友達がいの無い奴らめ。





「――そうだよな、別に×××のほうがキス上手くたっていいじゃねーの! 愛があればいいんだよ!ってことでフリーなら俺立候補します! キス以外は俺のほうが経験値とか込みで絶対あるし!満足させてみせるから!!」


「な!?加藤何言ってるの!?はいはいはいはい!私も立候補するからね!×××ちゃん、愛があればキスなんておまけって言ったよね!おまけ込みで百合でも何でもいいから×××ちゃんが欲しいです!」

「ええ、嘘!凛まで?!ははは、はい、私も立候補するから!!」



 君たちここが教室だって本当に分かってる?







 暫く学校を不登校したくなったある日の出来事でした。


*****

できっこないと思ったけれど、出来たら凄いなあと思います。

ちょうちょむすび。

一つ二つ結べるだけでも相当すごいですけれども!

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