従姉妹とエプロンと 2(叔父視点です)


「――おい、七海、どうしたんだあのエプロン」


「わたしが用意したの、お母さんのエプロンなんだよって」


「アイツはあんなの使ってなかったろう」


「わたし、あれお姉ちゃんに似合うと思って、お父さんに預かってるお夕飯代の残り貯めて買ったの。お姉ちゃんに似合うでしょ?」


「いや・・・・ああ、まあ、似合う・・・んじゃないか?」


「前にお姉ちゃんがお弁当作ってたのみて、今度料理作ってくれるって言ってたから、今日帰ってきてから買ってきたんだよ」


「そうか・・・」


「七海ー、お皿用意してくれるか?」


「はーい」



*****



「どうぞ」


 そう言われて出されてきたものを見て唖然とした。

 本当に目の前に居る姪っ子がこれを作ったのだろうか?


 食卓に並べたのは煮物と秋刀魚の焼き魚だ。

 今日は大型スーパーで秋刀魚の特売日だったそうで、嬉しそうに特売日だったんだよと語られて、そうなのかと適当な相槌を打った。


 特売日だったとかそんなことよりも焼き魚なんて久しぶりで思わず頬が綻んだ。

 新鮮な魚の焼きたての匂いが香ばしく香る。



「食べてみて、お父さん!美味しいんだよ、すっごく!」


「おう、じゃ・・・いただきます」


「はい、召し上がれ」


「なんか・・・照れるな」


 ぱりぱりと秋刀魚の皮を箸で割り、身をほぐす。

 きちんと火が通っていて美味そうな肉汁があふれ出した。


 ぱくり


 思わず唸った、これを姪っ子が本当に作ったのかと思ったのだ。

 美味いのだ、とても。


 目の前の娘もにこにことこちらを見つめてくる。

 美味しいでしょと時折かけられる声に、ああ、美味いと返せば自分が作ったわけでもないのに娘が当たり前だよと返して来た。

 そして目の前で「ねー?」と二人で顔をあわせて微笑みあうのだ。


 ――お前ら何時の間にそこまで仲がよくなったんだ?


 にしても、これでは姪っ子と娘と言うよりは、嫁と娘を前にしたように感じる。


 料理にしてもだが、先ほどの新婚か?と思われるような台詞にしてもだ、正直参った。

 これで靡かなかったら嘘だろうってほどぐらついた。

 飯が美味い、心遣いも最高で・・・いっそどうして姪なんだと言いたいくらいだった。



 煮物の芋に口をつける、美味いんだよ・・・美味すぎるんだよ、どうしてこんな美味いんだよ。




「やれやれ、俺は姪ッ子を預かったんであって、嫁を迎えたわけじゃなかったはずなんだがなぁ・・・一体どこの新婚だっつー出迎えから夕飯の出来まで・・・参ったなこりゃ」


 思わず口に出してしまっていたようで、間髪いれずに姪が美味くなかったのかと、料理の事を言われたと勘違いしてきた様子で言われた。


 ――なんだ、口にした台詞を聞かれたわけじゃなかったか。


 ボリュームが小さかったようで助かった。

 台詞の内容が聞かれていたらと思うと青くなる。


「美味しく・・・ないですか?」


「い、いいや!美味いぞ!ただ、ちょっと・・・いや、まぁ、なんだ・・・ちょっと思うところがあったんだよ」


「お父さん、顔真っ赤」


「七海、もう遅いから寝なさい!!」


「ああ、もう9時か、おいで七海。絵本読んであげるよ」


「うん!」


 冗談じゃないぞ、この歳で姪にか?

 おいおいおい。


 二人が奥の部屋に引っ込んでいくと大仰なくらいにテーブルに突っ伏した。

 七海との会話はもうどう考えたって親子だった。


 ――しかも嫁と娘の会話だろあれ!?



 でも実際はそれもいいなと思った自分が一番問題なんだ。


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