第2部の後の話 その1
これは、あなた達が巻き込まれた後の彼等の話。観測することしか出来ない彼等の物語。
あの事件の直後、貴方達を救護班に回してからの出来事。
貴方達の力を借り、強大な邪素を安定させることに成功したが、依然としてそこにある。濃密な邪素に近づき無効化できるのは高位の邪払いが出来る者、もしくは彼等のように邪素に対して適正があるものだけである。
その為、彼等は彼等にしか出来ないことを為すため傷付いた身体に軽い手当てだけを行い、先程の空間に戻っていくのであった。
各々の方法で邪素の濃度を薄めていく。勿論、一瞬で終わるものでもない。これは時間のかかる作業なのだから。そこの時間で久し振りに再会した彼等は会話をかわす事になる。
最初に声をかけたのは結だった。
「久し振りね。」
「…そっすね。」
「堕ちてなさそうでよかったわ。」
「…流石に。」
「にしてもあんたが嵌められるなんて珍しいわね。」
「…それはまあ…」
「で、半身取り返してきたんでしょ?どうなの様子は。」
「…眠ってますよ、当分。」
「そう…あんたの方はどうなのよ?」
「…まあ。」
そんな答えしか返さない今の彼に対して彼女は突如として豹変し、つかみかかる。
「なんか言いなさいよ。心配させやがって。あんたが消えたせいで皆調子狂ったんだから。」
それに対して彼は罰が悪そうに目を逸らしたような気がしたそんな彼に対してどことなく違和感をいだく。いつもとなにかが違う、そんなような。
そこでこの違和感に気づいてしまう。そう、軽すぎるのだ。いくら人でないとはいえ、明らかに軽すぎるのだ。まるで中身が詰まっていないみたいに。
ふと我に返る。完全に今の発言は邪素に当てられた影響だ。いくら耐性があるとしてもこのコンディションだ。完全に卸しきれていないのだろう。すぐさま謝罪の言葉を口にする。
「…ごめんなさい、私が言えることではなかったわ。それに、貴方の状況も…」
そんな彼女の様子に対して言葉を返す。
「…心配させたことには返す言葉もない。…そっちこそ大丈夫か?」
「ええ、今はなんとも。ってか、大丈夫かってこっちの台詞なんですけど。どっからどう見ても一番だいじょばない人が言う言葉ではなくないですかぁ???」
そんな話をしていると鏡が会話に入って来た。
「元気だねぇ、ふたりとも。」
「他人事にしない。そういうあんたこそ、もっと自分を大事にしなさいよ。まったく、もうすぐ大事なお嬢様が帰ってくるんでしょ。また泣かせるんじゃないわよ。」
「そうならないように努力するよ。」
「はぁ、いっつもそういうんだから。まあ、私もなにも言えないけど。」
「…迷惑かけたな。」
「そうよ。あんたも大事な仲間なんだから、次からは気を付けなさいよね。」
「…。」
「こっちこそ、手を読み間違えてしまったから。遅くなってすまない。」
「…別にいい。場に情報を出し切れなかった俺も悪…」
そうして話してる時、不意に言葉が途切れた。彼の方を見ると口を押さえ何かに耐えている様子だ。
「ちょっとあんた。」
声をかけようとする彼女を彼は制止する。そして、彼に近づき手をかざす。しばらくして彼の様子が落ち着くと彼の方から出てきたのは謝罪の言葉だった。
「…ハァ…わり、あたった。」
「ちょっと、ちゃんと選別してからにしなさいよね。あんたの担当で、なんで混入するのよ。」
それに、まだ落ち着いていない彼の代わりに彼が答える。
「大方速度優先で処理してるからなんじゃないかな。使い物にならなくなる前にやれることはやっておきたいってことよ、私もそうだし。」
「私もって。」
「そりゃ今回、アレ使ったし、あと、血も結構リソースに回したし。」
「はぁ、揃いも揃って無茶するんだから。ってことは、今回の後処理担当私ってことじゃん。やだなぁ。」
「ごめん。でも、山場までは私も居るからさ、お願いできないかな?」
「まあ、いいわ。さっさと終わらせて速攻であんたを寝させてやるわ。」
「それは頼もしい。」
「で、あんた。後でゆっくり休みなさいよ。こんな案件巻き込まれた後ぐらいはちゃんと休息とりなさい。いい、わかったわね?」
「…言われなくとも。…流石に今回ばかりは欠損が酷い。1週間…いや5日かな、そんぐらいで基礎は戻す。そっから1ヶ月ぐらいかけてようやく半分…かな。」
「ふーん。ま、大人しくしておくことね。」
「…ああ。」
「まあ、本営業に戻るのは2、3週間先かな。どっちにしろ、主要メンバーが揃わないことには話にならないからね。」
そんな話をしてる内に、1人の人物が近付いてくる事がわかる。
現れたのは生徒会会長の清流院であった。
「お疲れ様です。進捗の程はどうでしょうか。」
「まあ、順調ですよ。先輩。」
「まーた、僕の事おちょくるんですか。こういう事案の先輩呼びはやめてくださいって前にも言ったじゃないですか。もう…」
「うわー最低ー。大事な後輩泣かせた奴が居るー。」
「…いつもの。」
「ごめんって、で、ここに来たって事はそろそろ応援来るって事で合ってるかい?」
「はい、後30分もすれば来るそうです。後これを。」
そう言って彼は一通の封筒を差し出してきた。
3人はその手紙を見て何かを察したらしく、三者三様の反応を返した。
「いつものやつですよね…きっと。で、今回は何が書いてあったんですか。」
澄ました顔で「…ありがたい御言葉よ?」
申し訳なさそうに「…始末書。」
諦めの表情で「…御気持ち表明。」
「でしょうね。ちゃんと心配されに行ってください。姉妹揃って心配なされていたのでこっちまで余波がきたんですからね。」
「…すまない。」
「先輩が謝ることはないですよ。だって、今回も混沌神案件だって聞きましたし。どうしようもなかったと思いますよ、僕は。」
「あら、いいこと言うわね。流石は期待の新星。」
「先輩までその事持ち上げるんですか!?」
「それは勿論。ただでさえ此処に来る契約者は少ないもの。後進の育成は大事よ。」
「先輩方もどちらかと言えば新人では?」
「私達はいいのよ。部署が別だし。同じ職場でも仕事が違うもの。あんたみたいな素質がある奴が上に行くべきだわ。」
彼女のその発言にはどこか寂しげな、達観しているような気がした。
「…。」
「ま、程ほどに頑張りなさいよ。」
それからも、他愛のない会話を弾ませた。先輩と後輩が訳わかんなくなっている4人であった。
そんなこんなでもうすぐ応援が到着するらしい。
「そろそろ時間か。では先に。」
「はい、後の事はこちらにお任せを。くれぐれもお気をつけて。」
「ああ、また。」
「ええ、また今度。」
山場を越えたため、大分安定してきた邪気。応援部隊とかち合う前に3人は彼等の上司の元へ行くことになるのであった。
「動けそうか?」
「…動くだけなら。」
「無理しないでよね。」
そうした会話もありつつ、彼等はある神社に向かっていた。その神社に名前は無い。古びて寂れているが、多少は管理されているように見える。それもそのはず、彼等は此処に来たことがある。そして、ここの整備をしたのは彼等だからだ。
そもそも、神社という領域は本来神々が地上に神の力を通し、人々を悪しき力を護るための拠点として建てられている。其の神がどれ程の力を持っているのかというのは、神社の大きさ、立派さである程度は解るという。
無名の神社。本来そこに祀られていたのは一体誰なのだろうか。ただ一つ言えることとしては誰も居ない空の領域ではどんな力でも通しやすい。
何故このように廃れてしまったのか。どうして此処に3人は来たのか。
それは勿論、彼等の上司兼契約先の神の元へ事の顛末を報告するためだ。報告するのに何故神社に行く必要があるのかって?神々の職場にアクセスするには神社という場所から行くのが一番手頃で楽だからだ。
(まず、そもそもの話として、普通の能力者は行くことが出来ないし、普通の契約者でさえ、行く機会がない。一部の限られた契約者、神社関係の職員、眷属ぐらいだけ自由に出入り出来る。
また、道を開けるのには相当な量の力が必要である。一般的には霊脈的立地のよい神社の境内に安定している道が設置されているので、そこから行くことが多い。
要は神社という場所はいわゆるテレポートポイントなのだ。神の遣いである彼等の移動手段の1つなのである。)
「よし、到着。じゃ、結頼んでもいいか?」
「いいわよ。そうね、10分頂戴。」
「はいよ。」
彼女が道を開けるまでの10分間。彼は何をするのかというと周囲の警戒と雑談だ。彼は日陰に座り込んでいる詠の元へ、そして、彼の横に座る。
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