第5話
「在原君、ずいぶん
小林達の元からちょっとだけ早足で在原の元に向かった蒼衣は、立ったまま蒼衣の方を向いていた在原の肩を軽くポンと
「え?」
蒼衣の方を見ていたはずなのに、肩を
「いや、眉間にしわ寄せてこっちみてたけど、どうした?」
在原の意識が蒼衣の方に向いたので、もう一度言い直してみた。
「そ、そう?」
どうやら無自覚で蒼衣の方を見ていたようだ。
視界に蒼衣を
しかしかなり
「うん、なんなら目も
人の
チームのメンバーが、いつもと顔色や様子が違って熱を計らせたら高熱が出ていたということも1回や2回ではない。
何故か本人より先に体調不良に気づいてしまったり、声の調子や目の合わせ方で今日は気分が乗らない日だなと察したりすることもある。
そういう時はあえて雑談をしにいき、
蒼衣もサブリーダーになる前はよくそうしてもらった。
「村上ちゃん、もっと力抜いて
今はサポートチームの部署にいる先輩に、
在原は、基本的にイライラしたり、そういう雰囲気を表に出すタイプではない。だから蒼衣にとっては、余計にいつもと違うと察知する要因になった。
「うーん?そんなつもりもなかったんだけど。」
ちょっと目を反らしながらガシガシと頭をかく在原は何となく歯切れが悪い。
斜め上を見上げ、少し目も横に揺れていた。それはまるで隠し事をするような目の動きである。
「そうなん?俺のこと
そこで
肩の力が抜けた空気になり、ほぼいつもの在原になった。
「いや、なんだったっけ?」
本当に
「おいおい。頼むよ。ま、ストレス
ふっ、と息を吐いて、また蒼衣はポンポンと、在原の肩を叩いた。
「うん、ありがとう。」
少し照れた様に在原は頬をポリポリとかく
自席に戻ろうとした蒼衣は、「あ。」と思いついたように動きを止めて在原のほうに振り向いた。
「
これから向こう1ヶ月、段々と業務が増えてくるし期日に追われる時期にもなる。
そうなってくると、主任を中心に昼休憩を自主的に短くしたり、あまつさえ入れないことも出てくる。
なんならそこに加えて残業も増えてくる。
業務がカツカツになって、精神的にも追い込まれる前に2人で少しでも話しておけば、在原のあの表情の原因も全部取り払えるとまでは行かなくても、気持ちは楽だろうと思い発した言葉だった。
「「いく!」」
しかし、聞こえた返事はまさかの在原以外の声が、しかも1つではなく返ってきた。細谷と相川だ。
打ち合わせから戻りがてらに通りすがったところでタイミングよく蒼衣のお誘いの言葉が聞こえたようだ。
あと15分でお昼になる11時45分。
この15分で行われたのは、「昼を外に食べに行こう」という拡散だった。
細谷が小林を誘い、その言葉をきいた宮村が、「俺も行きたい」と言い出し、そこに「何なに?面白そうなんだけど私も行っていい?」と反応した諏訪が乗っかった。
更に諏訪が、相川の
12時、昼休憩の時間になった。
「さぁお昼だー!」
張り切って両腕を空に突き上げて細谷が言うや
「コバ!ご飯ご飯!ご飯だよー!」
細谷の合図で昼に行く準備として、自席のパソコンでいくつかのデータに保存をかけている小林に絡み、両肩に手を乗せ小林をグラグラ揺する。
「ほそやん、やめなさい。操作間違ってデータ消えたらどうするの、お前も残業だからな?」
「それは嫌!」
あれ?ってか俺まで残業する必要ないぞ?とブーブー
「早く行こう!俺先に出るからな!」
と細谷は小林から離れて、先に出口に向かっていった。「はいはい」と小林も返事をしながら全部の保存ができたことを確認して席を立った。
「腹が減っては戦ができぬ、ってね!」
諏訪も細谷のテンションに乗っかり
蒼衣も、15分「何もしていない」と思われたら
眉を上に上げるようにして、
外にご飯を食べに行く面々は、仕事の手を止め次第、順にぞろぞろと会社を出た。
宮村が「
相川がそれを見ながら、「結局その言葉に同意する時点でなんだかんだ社蓄気質なんだよな」と付け加えられた言葉にも、確かに、と今度は満場一致で苦笑した。
「あ!コバの美味しそう、ドリア一口ちょうだい!俺のサラダあげるから!」
「お前は少し野菜を食え!」
生野菜は特に食べようとしない細谷に小林はいつも野菜を食べろというのも、一緒にご飯に行くと定番の掛け合いになっている。
「コバさんって完全にほそやんのお母さんだよね。」
確かにと在原も蒼衣の横で笑う。見慣れた光景でもつい突っ込まずには入れない蒼衣だった。
「やっぱデザート付きのセットにして正解だった、ティラミス美味しい。」
「チーズスフレとガトーショコラも捨てがたいんだけど、この店はティラミスが一番美味しい!」
と、諏訪と谷原はキャイキャイ女子トーク。
ワイワイとランチタイムを過ごし、皆それぞれが
会社への戻り道、蒼衣と在原は最後尾を歩いていた。
在原もご飯を食べながら笑っていたからもう大丈夫だろうとは思ったが、あの表情の原因は根本的に解決されてはいない。
「なぁ、在原君さ、とりあえず、大丈夫か?」
やはり気になり、こっそりと肘で
「うん、大丈夫。蒼衣さんがいるからね。うちのサブリーダーを勝手に良きに使われたら困るし。」
在原は満面の笑みで蒼衣に笑いかけた。
「そ?ならよかった。」
恐らく小林の席でやいのやいのやっていたことで、何かが在原の気に触れたのだろう。すっかり表情は穏やかになった。
「うん、蒼衣さんはうちのなんだから。」
強調して言った言葉にドキッとした。
「何その独占欲。」
ははっ、と笑いながら言い返すも、蒼衣は下を向き、在原を見れなくなってしまった。
照れ隠しのそれとも見えるような切り返しが精一杯だった。
「事実じゃないの、うちのサブリーダーなんだもん。」
「そ、そうだな。」
チームのサブリーダーと言ってるはずなのに、まるで俺のと言われてる気持ちになり、蒼衣は少し落ち着かなかった。
なんだかザワザワする、悪い気はしない、むしろ嬉しいんだがと心の在りどころが行方不明になり始めたところで会社についた。
「さて、昼からも頑張りますか!」
腕を上に伸ばしながらさっきまでの会話の雰囲気を変えるように、
13時、午後の仕事が始まる。
なんだか落ち着かない、と、まだ心のざわつきが残って集中力がなくなってしまった蒼衣は、いつものごとく
もしも、あそこで俺のって言われてたら、と頭の
ただその先の言葉も気持ちも、どうして蒼衣はそこばかりを考えてしまうのかが、自分でもよくわかっていない。
ただ、あの表情から一転していつも
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます