1話(10)

 「空が、変……?」


 それって、どういうこと……?

 私が戸惑っていると、鬼龍院先輩が私たちを退けドアから出る。


 「これ……」


 鬼龍院先輩は辺りを見回したあと、こう言った。


 「学校に、人が居なくなってる……」


 人が、居ない……?


 「それって、ここが旧校舎だからじゃ」


 「いや、違う。いつも部室から聞こえるグラウンドからの声が聞こえない」


 何、何が起こっているの?

 恐怖と困惑で動けない私と鈴木先輩を見て、鬼龍院先輩は頭をポリポリとかいた。


 「ここで突っ立っててもしょうがない、校内回って戻る方法見つけんぞ」


 「う、うん」


 鈴木先輩が返事をする。でも、その声は震えていた。


 「とりあえずおまえら、部室から出るぞ。他んとこ見て、状況を把握するんだ」


 鬼龍院先輩のあとに続き、鈴木先輩と私は部室から出た。


 途端、寒気が走る。


 なにこれ。全身に鳥肌がたち、嫌な予感がとまらない。


 「あの、先輩、待って……」


 「あ? 嫌なら一人でここで待ってれば」


 「すみません……」


 部活を出るのは嫌だけど、一人になるのはもっと嫌だ。

 私はどんどん前にすすむ鬼龍院先輩のあとを追った。


 *

 

 「ここにも誰もいねえな」


 私たちは、黒い空気の中校内を探索した。

 今いるのは、HR教室がある校舎。

 普段騒がしいフロアなのに、そこには一切の音がなかった。


 「グラウンドにも誰もいなかったけど、ここもか……。一体どうなってんだ、これ」


 「わからない……」


 「まだ見てないのは体育館だな。よし、体育館に向かおう」


 私ははい、と返事をした。

 あれだけ苦手意識を持っていた鬼龍院先輩も、今は彼の存在が心の命綱だった。


 「じゃ、ここ出るか」


 そう昇降口のドアを開けた瞬間。


 ゴン!!


 グラウンドの方で、何かが破壊されたかのような大きな音が聞こえた。


 「何……!?」


 ドシン、ドシン


 何か、いる……?


 その存在は、ここからでは見えない。でも、確信があった。グラウンドのほうに、感じる。


 ――強い、何かを。


 「これ、近づいてきてない……!?」


 「いや、慌てるな、どこか身を隠せる場所……」


 ガシャン!!


 目にガラスの破片が映る。

 私は反射的にバッと後ろを振り返った。


 ……一体、何が起こっているの?


 私の目に映ったのは、角が生えた『何か』だった。

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