1話(9)

 「やっと終わったー!」


 「ね! 長かったあ」


 今の時刻は、4時ぴったり。

 慣れない高校の授業を終え、私たちはすっかり疲れきっていた。


 でも、今日は仮入部二日目。

 つまり、このあとは楽しい仮入部が待ってるってこと!


 「じゃあ、仮入部終わったあと下駄箱に集合ね!」


 「うん!」


 樹理ちゃんと帰りの約束をして、私は新聞部の部室に向かう。


 その途中で、鈴木先輩が何かを持って歩いているのが見えた。部室に行く途中かな?


 声をかけるか悩んでいると、鈴木先輩がこちらに気づいて手を振ってきた。


 「翔子ちゃん! こんにちは!」


 「鈴木先輩、こんにちは!」


 「翔子ちゃんは、どこか用事?」


 「えっと、今日も新聞部の仮入部に……」


「え!! 本当に!? ありがとう、翔子ちゃん!!」


 鈴木先輩は満面の笑みを浮かばせた。


「今日の仮入部はね、じゃじゃーん! これを使って酒天童子の調査をするよ!」


「それって、お酒!?」


 先輩が持っていたものは、大きい瓶に入った日本酒だった。


 「ふふふ、料理部が新しく買った日本酒を拝借したんだ! あ、もちろん許可は取ったから安心して!」


 「えっと、具体的にどんな感じで調査するんですか?」


「そりゃあもう、こう、わぁ! ってやって、がーってやるんだよ!」


「な、なるほど……」


 わぁ! ってやって、がー?


 変な擬音ばっかりで、何をするのか全然わからない。

 先輩、真面目そうに見えるけど、意外と天然だったりするのかな……?


 *


 「鬼龍院! 今日も翔子ちゃん来てくれたよ!」


 「へえ」


 「なんでそんなに他人事なのよ! 鬼龍院も新聞部員なんだから、もっと喜んだり……」


 「はいはい」


 鬼龍院先輩は軽くあしらう。


 鈴木先輩はちぇっと言って鬼龍院先輩の頬をつついた。


 「もー。つれないなあ。まあ、とりあえず部活動はじめますか!」


 やった!


 「まずは、そうだなぁ。この日本酒もって、学校をぐるっと一周してみよっか!」


 「ええ、今日そんなことすんの」


 「酒天童子と言えばお酒、お酒といえば酒天童子! これで酒天童子の謎を解明するんだよ! なんか文句ある?」


 「そんなしょーもないので解明出来るかよ」


 これは、鬼龍院先輩が一理あるかも。


 「そんなこといわないの! ほら、鬼龍院も行くよ!」


 「うげ、俺はここで調べてるからいいって」


 「うげってなによ! ほら、早く!」


 しぶしぶといった様子で、鬼龍院先輩は席を立つ。


「じゃあ、行こ!」


 鈴木先輩はガチャっと勢いよく部室のドアを開けた。


「あれ……?」


 その瞬間、鈴木先輩が固まる。


「先輩、どうしたんですか……?」


 そう聞くと、先輩は顔を真っ青にしてこちらに振り向いた。


「なんか、空が、変……」

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