1話(5)

 「じゃあ、仮入部届を持ってきた人は準備しておいてくださいね」


 私は、新聞部の文字を書いたそれをファイルから出して、机の上に載せた。


 今日は、仮入部当日!

 長い授業を終え、これからやっとHRの時間。

 このあとは各自、仮入部届を持ってそれぞれ気になる部活へ行くんだ!


 ルンルン気分でいると、前の席の樹理ちゃんが話しかけてきた。


 「仮入部、楽しみだね!」


 「うん! 樹理ちゃんは仮入部、どこ行くの?」


 「私はバスケ部! やったことないけど部活紹介でのプレイがかっこよくてさ……」


 「いいじゃん! 樹理ちゃん、ユニフォーム似合いそう!」


 「えー! そうかなぁ」


 二人で談笑していると、HRのチャイムが鳴った。


 「では、各自それぞれの部活に行きましょう!」


 

 『新聞部』


 A4の裏紙に殴り書きされているその文字を見て、私は深呼吸をした。


 新聞部の部室は、旧校舎の一階の隅っこ。一年生の教室がある騒がしい校舎と違い、旧校舎は古くさくて閑散としている。


 とても静かで、聞こえるのはグラウンドにいる運動部の掛け声くらいだ。

 どうやら、新聞部しか使っていない校舎みたい。


 廊下を見渡してみても、私以外誰もいない。

 ってことは、新聞部に仮入部するの、私だけ……!?

 そう思うと、何だか少し緊張してきたかも。


 ドキドキする胸をおさえて、部室のドアをノックする。


 「失礼します!」


 私は大きな声でそう言い、部室のドアをギィ、と開けた。すると、部室にあの二人の先輩の姿が見える。


 部活紹介で見た、三つ編みの先輩と金髪の先輩だ。


 仮入部に来た、小豆沢です!

 そう言おうと口を開けた瞬間、三つ編みの先輩が椅子から立ち、わーっとこちらに寄って私の手を取った。


 「君、仮入部だよね!? やったぁ……。 仮入部に来てくれる子、初めてだよ……!!」


 「え、えっと……」


 「私の名前は鈴木 明美! 新聞部の部長やってます! あ……部活紹介で言ったからもう知ってるかな? 今日の仮入部、よろしくね!」


 私の手をぶんぶんと縦に振り、鈴木先輩はうるうるした目でこちらを見つめる。


 私は勢いに押されてアワアワしてしまう。

 ってそうだ! 仮入部届出さないと!

 仮入部届の存在を思いだし、私は鈴木先輩にそれを渡す。


 「仮入部にきた、小豆沢 翔子です! よろしくお願いします!」


 「翔子ちゃんね! よろしく!」


 そう言って先輩はニコッと笑う。


 「仮入部届け、サイン書かなきゃなんだよね……。鬼龍院! ペン持ってる?」


 「ん」


鬼龍院と呼ばれた金髪の先輩は、ちらっとこっちを見たあと無言でパソコン作業を再開する。

 え、なんか、感じ悪くない!?

 見た目も怖いし、この先輩のこと、私ちょっと苦手かも……。

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