1話(5)
「じゃあ、仮入部届を持ってきた人は準備しておいてくださいね」
私は、新聞部の文字を書いたそれをファイルから出して、机の上に載せた。
今日は、仮入部当日!
長い授業を終え、これからやっとHRの時間。
このあとは各自、仮入部届を持ってそれぞれ気になる部活へ行くんだ!
ルンルン気分でいると、前の席の樹理ちゃんが話しかけてきた。
「仮入部、楽しみだね!」
「うん! 樹理ちゃんは仮入部、どこ行くの?」
「私はバスケ部! やったことないけど部活紹介でのプレイがかっこよくてさ……」
「いいじゃん! 樹理ちゃん、ユニフォーム似合いそう!」
「えー! そうかなぁ」
二人で談笑していると、HRのチャイムが鳴った。
「では、各自それぞれの部活に行きましょう!」
*
『新聞部』
A4の裏紙に殴り書きされているその文字を見て、私は深呼吸をした。
新聞部の部室は、旧校舎の一階の隅っこ。一年生の教室がある騒がしい校舎と違い、旧校舎は古くさくて閑散としている。
とても静かで、聞こえるのはグラウンドにいる運動部の掛け声くらいだ。
どうやら、新聞部しか使っていない校舎みたい。
廊下を見渡してみても、私以外誰もいない。
ってことは、新聞部に仮入部するの、私だけ……!?
そう思うと、何だか少し緊張してきたかも。
ドキドキする胸をおさえて、部室のドアをノックする。
「失礼します!」
私は大きな声でそう言い、部室のドアをギィ、と開けた。すると、部室にあの二人の先輩の姿が見える。
部活紹介で見た、三つ編みの先輩と金髪の先輩だ。
仮入部に来た、小豆沢です!
そう言おうと口を開けた瞬間、三つ編みの先輩が椅子から立ち、わーっとこちらに寄って私の手を取った。
「君、仮入部だよね!? やったぁ……。 仮入部に来てくれる子、初めてだよ……!!」
「え、えっと……」
「私の名前は鈴木 明美! 新聞部の部長やってます! あ……部活紹介で言ったからもう知ってるかな? 今日の仮入部、よろしくね!」
私の手をぶんぶんと縦に振り、鈴木先輩はうるうるした目でこちらを見つめる。
私は勢いに押されてアワアワしてしまう。
ってそうだ! 仮入部届出さないと!
仮入部届の存在を思いだし、私は鈴木先輩にそれを渡す。
「仮入部にきた、小豆沢 翔子です! よろしくお願いします!」
「翔子ちゃんね! よろしく!」
そう言って先輩はニコッと笑う。
「仮入部届け、サイン書かなきゃなんだよね……。鬼龍院! ペン持ってる?」
「ん」
鬼龍院と呼ばれた金髪の先輩は、ちらっとこっちを見たあと無言でパソコン作業を再開する。
え、なんか、感じ悪くない!?
見た目も怖いし、この先輩のこと、私ちょっと苦手かも……。
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