第15話 噂話

「昨日フォレストとアザミちゃん達が待ち合わせてるのを見た奴がいるらしいぞ」


 木曜日、登校すると篠岡がそんな噂話を振ってきた。


「そうなんだ。ちょくちょくコラボしてるし配信者同士で交流かな」

「土曜日にコラボ予定入ってるし、その話し合いか何かかもな」

「そんな予定があるのか」

「六人でダンジョン探索だってさ」

「俺も昨日、フォレストに声をかけられたよ」

「え、マジ?」

「河川敷で鍛えてたら話しかけられた」

「で、何だった?」


「精霊と手合わせさせてくれって頼まれたから了承したよ。テュル相手に四人で互角に渡り合ってた」

「テュルってあれだろ? ミノタウルス真っ二つにしてた。あれと互角ってことはもう下層クラスじゃん」

「あの四人なら下層に潜ってもある程度は大丈夫だと思う。多少、不安はあるけど」

「問題を感じる部分でもあった?」

「……四人で互角って部分かな。フォレストってヒーラーいないだろ? ポーションだけじゃ即効性のある回復にも限度があるし、一人何かあっただけでその瞬間に立ち行かなくなる」


「あー、安全マージン的な」

「それ」

「それにしたって高校生で下層に入れる実力だろ? 凄いよな。いや、君からしたらどうか分からないけど。オレみたいなのからしたら妬ましいよ」

「大学進学組とは土俵が違うだろ」

「リーダーのムツオも大学行くって配信で言ってた。しかもオレより断然成績良いっぽい」


 フォレストの視聴者だったようだ。


「大学か。将来はどうすんのかな。探索者としても優秀そうだけど。引退して就職したりでもすんのかな」

「そこは探索者を続ける予定だって」

「じゃあ学歴要らないじゃん」

「大学の学問に触れてみたいんだって」

「うわ、鼻につく」

「君もそういうこと思うんだな」

「あそこまで行くとな」


 眉目秀麗、頭脳明晰、学歴良しで腕っぷしも立つ、彼女二人、その上勤勉。しかも昨日会った印象では礼儀正しく人当たりも良かった。俺に対するあの態度は同じ高校生相手として過剰なくらいにも思えたが、探索者として上位者に接するそれだったのだろう。実際、もっと砕けた調子で頼まれていたら俺は気分を害していたと思う。テュルは俺の鍛錬の成果でもあるし、それ以前に偉大な精霊である。気安く鍛錬に使われて欲しくはない。


「ところでフォレスト、実際に話してみた感じどうだった?」

「配信で見かけた通りの印象かな。礼儀正しい好青年って感じ。直接口利いたのはムツオ君だけだけど」


 そこまで話して、アザミが教室に入ってくるのが目に入った。

 篠岡も一度そちらへ視線を送り、一段声を落として「やっぱああいうのがタイプなのかな」と、誰がとは言わず口にする。


「どうだろうな」

「どうする? 噂されてるみたいにムツオの三人目になっちゃったら」

「……そんなのは当人の自由だろう」

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