第14話 フォレスト
水曜日、今日も俺は河川敷で鍛錬に時間を費やしていた。今日はアマネも一緒だ。
彼女のジョブは魔法剣士。俺よりも近接戦闘に適性があって、現に俺より達者にテュルと斬り結んでいた。本人は探索者になる気はないと言っているのだが、それでもどうしてなのか、時折こうして俺に付いてきて鍛えることがあった。
俺はその傍らで瞑想である。
千里の道などと表現したが地道に進んでみれば案外近いもので、週末には余裕を持って間に合いそうだった。家に帰ってからも殆どの時間を瞑想に当ててきただけある。
「修行中のところ、お邪魔してすみません。少し宜しいですか?」
背後から気配が近寄ってきて、声をかけられた。
それに応じて、俺は閉じていた目を開ける。
視界の端に片膝を付いた制服姿の色男がいて、俺を見ていた。
見覚えがあるな。その顔を見てそう思った。
確かフォレストというダンジョン探索を中心に活動する配信者グループのリーダーだ。メンバーは全員同じ高校の男子生徒。時折、アザミ、ヒカリのペアとコラボして一緒にダンジョンへ潜っていることから見たことがあった。特にリーダーについては彼女二人持ちという鼻につく特徴があったので印象に残っている。
とはいえ、少なくとも配信上ではだが、礼儀正しい好青年という印象だった。今もこうして、瞑想中に話しかけてくるにしても、片膝付いて目線を合わせている辺りその印象は崩れていない。
「大丈夫ですよ。何かありましたか?」
「近くを通りかかった際、こちらの修行風景が目に入りまして。私達にも是非あちらの精霊と手合わせさせて欲しいのです」
目の前の男、ムツオの腰には剣があった。彼が本当にフォレストのムツオなら、それは見た目通りの剣ではないのだが。
「分かりました」
応じて、テュルと手合わせしていたアマネに声をかける。
「アマネ、こちらの方と変わってやってくれ」
「はい」と返事して、アマネは俺の隣にやって来た。
「ありがとうございます」
代わりにムツオが礼を言って立ち上がり、テュルの下へと向かっていく。
彼が腰の剣を引き抜くと、その左手に盾が現れた。
ムツオがテュルに斬りかかる。その攻撃は躱され、代わりに攻撃が返ってくる。胴に向けられた一撃を盾で防ぐと、彼は後ろに跳び下がって距離を取った。
剣と盾が発光する。盾は消失し、代わりに右手の剣が長大化した。一度の攻防で得物を切り替えたようだ。
彼の所持する武器、それはダンジョン内の宝箱から手に入るダンジョン産の武器、宝具と呼ばれるものだ。摩訶不思議な効果を持っていることが多くて、今の所人工的な再現は出来ていない。ムツオの持つそれは様々な武器に姿を変えることが出来ると聞く。
長剣を手にしたムツオとテュルが打ち合う。徐々にテュルの剣速が上がっていくと耐えきれなくなったようで再び距離を取った。今度は武器を槍に変えて挑む。その次は斧槍、その次は双剣。間合いの利を取ってみたり威力を重視してみたり手数を増やしてみたりと工夫しているようだったが、それでも次第にテュルの動きについていけなくなって、遂に精霊の剣がムツオの肩に触れる直前で寸止めされた。
「結構強いね」
「そうだね」
傍らのアマネの感想に頷いた。
「すみません、仲間と一緒にもう一度戦わせてもらってもよいですか」
「構いませんよ」
言って、ムツオが視線を向けた先には三人の男子学生。ムツオの仲間だ。彼らは少し離れた位置で戦いを見守っていた。
視線を向けられると、彼らはこちらへ近づいてくる。
「チーム戦でもう一度付き合ってもらえることになった。協力してくれ。本気で行こう」
仲間達が頷いて陣形を組む。
「オレとバクで攻めよう。レンはヒデタツの守り。隙きがあったら攻撃に参加してくれ」
大斧を持った男とムツオが前に出て、槍を持った男がその後ろ、更にその後方には杖を持った男。
最後尾の男が杖を掲げると仲間三人の武器が輝いた。ジョブはエンチャンターだろう。メイジの可能性もあるが、それなら仲間達が射線を塞ぐような陣形は組まないはず。というか配信内でエンチャンターと紹介されていた記憶が薄っすらある。
強化された武器を持つ三人とテュルの勝負が始まった。
結果、勝負は拮抗した。エンチャントされた大型の武器二組に襲われてテュルは回避に専念、そこへ更に槍使いの加勢も加わってかなり善戦していた。ただし俺の見ていた限りだと、斧の柄や槍の穂先を切り落とす機会がテュルには幾度かあった。鍛錬であるため武器破壊などは行わないよう命じてあることから実行はなされなかったが。
何でもありの真剣勝負となれば、お互いにもう少し様相が変わるのだろう。
最終的にムツオ側の体力が尽きて後退、そこで勝負は終わった。
「ありがとうございました」
模擬戦を終えた男達が近寄ってきて頭を下げた。ムツオが膝を折り、地べたに座ったままの俺と視線を合わせる。
「どうでしょうか。私達の実力、下層で通用すると思いますか」
こういう質問が出るということは、配信か何かで俺が下層探索者だと知って声をかけてきていたのだろう。
「十分通用すると思いますよ」
テュルとこれだけ打ち合えるのだから下層でもそれなりに戦えるだろう。
「ありがとうございます。それでは、これで失礼します」
ムツオは再度頭を下げると立ち上がり、仲間達と共に去っていった。
その背を見送りながら、アマネと話す。
「何だったんだろう、あの人達」
「フォレストだよ。知らない?」
「知らない」
「下層探索者の俺を見つけたから、下層に挑むための腕試しとして声をかけてきたんだろう」
「そうなんだ。お兄ちゃん、有名になったね」
「偶々だよ。アザミさんとも偶にコラボしてる人だから、その縁で知る機会があったんじゃないかな」
「あー、そう言われると知ってるかも。アザミ先輩狙ってるって噂の人でしょ?」
「え、そうなの?」
それは嫌だな。嫌な奴だ。
そんなことを話しつつ、俺達は元の鍛錬へと戻っていった。
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