第6話



「イレギュラーだったんです」

イルダースの巫女の乗った馬車が巨大な落石に押しつぶされた。

大いなる力を持つ不死の巫女といえども、これでは死を免れることは出来なかった。

巫女は基本的に死なない。

巫女に選ばれた時点で寿命は無くなる。

病気や怪我も、治癒魔法が自動発動して治してしまう。

しかしこの場合のように一瞬で頭部を破壊されると、魔法が発動出来ずに死んでしまう。

イルダースの王はこの事態を受けて、アイルテナにいるもう一人の巫女、ヒルメイに助力を求めた。


巫女の力の源は、アイテムボックスの中にある御神体である。

御神体は巫女の生命活動が停止したのを確認すると、他の巫女適性を持つ女性のアイテムボックスに転移する。

巫女は御神体に選ばれるのである。

転移しただけでは御神体は起動しないし、その女性も御神体が転移してきているのはわからない。

普通は本人がアイテムボックス内の異物に気が付かないわけはないのだが、起動前の御神体は何故か感知不能なのだ。

すぐに起動しないのは、その女性が巫女として人格などが不適格だった場合に選びなおすため。

一度起動してしまうと移動が不可能になるからだ。。

不適格者なんぞ最初から選ばなければいいのにと思うかもしれないが、巫女の適性はある程度のテレパシー能力を持っているかどうか、それだけだった。

ともあれ、御神体が転移した女性を見つけ、起動させられるのは、自身が御神体を持つ巫女だけである。

そしてこの時御神体が転移したのがテニア。19歳の時だった。


アイルテナの巫女ヒルメイはテニアを見つけ出し御神体を起動。

三年の間、御神体の使い方や巫女の心得などを指導して帰っていった。



「巫女の役割って何だと思います?」

「役割?普通に考えれば神の声を聞いて人々に伝えるとか?」

「アテニアの巫女の役割は・・・世界の管理です」

「世界の・・・・」

「先ほどお話ししたのは、あちらの世界での一般的な歴史です。

ですが、巫女しか知らない歴史もあるのです。

今のあちらの世界は、一度失敗してやり直している途中なんです。

破壊された世界には、今のイルダースとアイルテナのように、二つの国がありました。その後二国間で戦争が始まり、彼らは自滅したんです。

アテニアは、生き残っていたほんの少数の人たちに遺伝子操作を施しました。

それが魔法、こちらで言えば超能力ですね。

御神体を扱うのにはテレパシーが必要になりますから。

その他の能力も、完全に文明が破壊された世界で生きていくために、少しでも生き延びることができるように与えられました。

戦争で自滅するほどの科学力を持っていた彼らからしても、そのような能力を与えてくれるアテニアは神にも等しいものだったでしょうね。

アテニア教が起こり、管理する側も都合良くそれを利用したというわけです。

一つの人種しかいないのも、生き残ったのがその人種だけだったからです」


「アテニア神・・・いや、アテニアってのは一体なんなんだ?」

「もうどの世界が発祥かわかりませんが、どこかの世界で造られた、文明を発展させる機械、コンピュータのようなものでしょうか?」

「じゃあまだ向こうには・・・」

「あります。こちらで言う衛星軌道?人工衛星のように惑星を周回しています」

「それを造った文明は、なぜそんなものを造ったんでしょう?」

「さあ?その文明のことはわたしたち巫女にもわかりません」


「管理とは具体的には?」

「今の文明を発展させ過ぎないようにしながら人口を増やすことです。

王たちに悟らせないように、わたしたち巫女は世界に干渉してきました」

「巫女の力で言うこと聞かせた方が楽なのでは?」

「アテニアを造った文明は、表立って干渉することを嫌うようです。

前の時のように絶滅しかかったりすれば表に出て助けることもあるようですが」

「・・・・」

「ですがわたしたちが干渉するのも一旦終わりです。

アテニアの想定した人口、文明レベルになったので。この後は彼らの自主性に任されます。また必要とされるまで、巫女はいなくならなければなりません」

「いなくなるって・・・」

「本来なら、次に必要になるときまで、アテニア本体のコールドスリープで眠りにつくはずでした。そしたらヒルメイが言ってくれたんです。自分と違ってテニアはイレギュラーだから、これからは自由にしていいって。異世界転移の方法も彼女が教えてくれたんです」


「なぜこっちの世界に?」

「あの・・・お婿さんさがしで・・・・・」

は?

「そんなんで異世界転移するのぉ?!!」

「しちゃったんだからしょうがないじゃないですかぁ!!!」

彼女から今まで感じなかったポンコツ臭がwww


「子供のころからお嫁さんになるのが夢だったんですよ。だから巫女になる前も普段から家事がんばってて。

巫女になってからも料理の勉強がんばってたんですよ!

でも巫女は結婚できないし、巫女を女性と見てくれる人なんていないし・・・。

そしたらヒルメイが異世界転移の方法を教えてくれたんです。

わたし、これだ!って思って。

でもどの世界でもいいってわけじゃないじゃないですか?だから検索条件なんです。

いくつも条件設定したんですけど、大雑把には二つ、双方の世界の安全、それと・・・・・」

あ、また赤くなった。

「それと理想の男性のいる世界・・・・・・・」

え?それってもしかして俺?



「だから恥ずかしいって・・・・・・もうっ!」

ポンコツテニアさんもかわいいかもしれん。

「異世界の座標を知るには、その世界の人と話をしなきゃならないんです。その人がこちらに注意を向けてくれれば、座標がいくらか安定するので。だからそれ以来毎日のように異世界にいる誰かに話しかけてたんです。ヒルメイが、転移可能な世界になら、御神体の力が声を届けてくれるって言うので。そうしたらイツキさんが返事してくれて。嬉しかった。

イツキさんはあの時こちらの機器でわたしの声を聞いてたそうですが、他の人が同じ方法でわたしの声を聞いて、同じようにわたしに話しかけたとしても、わたしに声は届かなかったでしょうね。それも条件でした。

わたしに声が届いたということは、イツキさんはわたしの理想の男性なんです。

声が聞こえて舞い上がっちゃって、何とか意思疎通したいけど、当然言葉が違ってて、座標も不安定だし、とにかく転移しちゃってそれから何とかしようって思って。

だってこの機会を逃したら、次は無いかもしれませんから」


帰れなくなるかもとか考えるだろフツーは。


「転移してから、そうだコピー!って思って。

でもイツキさん意識あるじゃないですか。とにかく気絶させないとって。

テレパシーは普通の人だと激しい頭痛が起こるので」


うん、すげー痛かったっす。


「それでコピーしたんですけど・・・・・この人が理想の人なんだって思ったらイツキさんの事なんでも知りたくなっちゃって・・・・・コピーできるものは全部しちゃったんです」


全部だと?


「ショートカットが好みと知ったときは嬉しくて嬉しくて・・・・」


いやそうなんだけど!頭の中覗かれてるみたいで恥ずかしい!


「ちょっとSなとこもわたし好みだし・・・・・」


「やめやめやめー!!」


もっと普通のことにして!!

てか性癖知られてましたよ!!!


「理想の人が変な人だったらどうしようって思ってたんですけどね。でも知ったら知ったで変でも好きになっちゃいました」


あ、変なんだ、俺って。


「つまり俺はテニアさんにとって理想のお婿さんってこと?」

「はい」

「正直見た目良くはないしオッサンだし」

「見た目も歳も関係ないです!」

「俺がテニアさんを好きになるとは限らないと思うけど?」

「転移先の検索条件は ”わたしの理想の男性” であると同時に ”わたしを誰よりも愛してくれる人” です。」

そうか・・・

無意識にそう考えないようにしてたけど、最初から彼女に惹かれてたんだ。

相性が最高の人と出会うように設定してあったんだもんな。

彼女が魅力的すぎるのに、俺がオッサンで自信が無いから、ずっと勘違いしないようにって自分に言い聞かせてたのも、フラれるのが怖かったってわけだ。



「・・・俺たち出会ってまだ2日だよ?早過ぎない?」

「そこはわたしも思いました。でもわたし・・・もうどうしようもなくらいイツキさんが好きなんです!」

「俺は寿命が来れば死んじまうんだぞ?テニアさんに悲しい思いをさせたくない」

「好きでもない人と1000年過ごすならば、わたしは愛する人と10年過ごす方を選びます。最後に悲しい結末が待っているとしても・・・」

「テニアさんならもっといい男見つけられるって思うんだけど?」

「コピーの時、たくさんイツキさんのことを知りました。人付き合いが苦手で、誤解されてたくさん傷ついて、それでも心の奥はとても優しいまま。

そんなイツキさんがとても愛おしくて・・・わたしにとって・・・いいえ、女性にとってのいい男は好きになった人です!」

全然そんな自覚無い。自分でいい人なんて思ったことねえし・・・でも・・・女の子にここまで好きって言われたらなぁ!

「わかった!でもいきなり結婚は無理。そっちは俺の事全部知ってるけど、俺はテニアさんをまだ知らなすぎる」

「それじゃあ?!」

「とりあえず彼氏彼女でお願いします」

「はいっ!絶対にわたしを好きにさせてみせますからね!」

「いやもう惚れてますけど?」

「えー!なら結婚でよくないですかぁ?」

「それはダメ。てかあなたこっちに戸籍無いでしょ?」

「そんなの形だけでいいじゃないですかぁ?」

「だーめ!俺は本気でテニアさんを好きだからちゃんとしたいの!」

「はじめて好きって言ってくれた!!!」

「さっき惚れてるって言ったやん(笑) あと名前、呼び捨てにしてくれるとうれしい。俺もそうするからさ」

「うん!イツキ!!大好き!!!」

勢いよく抱き着かれた。


こうして俺は世界で初めて異世界人と付き合うことになった。



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